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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第15話

祐介の大きな声が住宅に響く。

すぐ傍の民家の窓がガラリと開き、辺りの確認をしている住民と目が合ったので二人は慌ててその場を立ち去った。


足早に暫く歩くと佐倉から忍笑いが漏れる。


「ふふ、すまん」


出鼻を挫かれ空気が緩んでしまったが、祐介は表情を引き締めた。


佐倉は今までの何となくで付き合いのあった人間とは違う、そんな気がした。

素直な気持ちを告げようと思うとプライドだとか、真面目に何やってるのかという気恥ずかしさが何時も先立つ。

それよりも今は彼とはきちんと向き合えるかもしれないという不安と嬉しさが勝っている。


「俺の方こそ···ごめん。怖いからって佐倉の事、巻き込んでおいて任せっぱなしになってた」

 

佐倉は忍笑いを止めて静かに祐介の言葉に耳を傾けた。

「彼はきちんと人の話を聞くんだ」と話していたのは歴史研究会の誰だっただろう。

此方の気持ちに寄り添って姿勢を正してくれる、それが何よりも祐介に胸の内を温め勇気を与えてくれた。


「俺、怖がりだし、今まで自分がこんな風になるなんて想像もしてなかった。【見える】って伝えるの凄く勇気が要るって佐倉に言われて気が付いたよ。だから···改めてありがとう。これからも、と、友達だと思っててもいいかな?」


最後まで何も言わずに聞いていた佐倉は祐介の肩を拳で軽く小突く。


「俺はとっくにそう思ってる」


「男同士で何言ってんだかな」と二人で笑い合う。少し耳を赤くした佐倉がへらりと笑うと祐介の口角も自然と上がる。愛想だけではない、心から穏やかな笑みを浮かべ肩を並べた。


他愛もないサークルの話をしながら歩いていると彼の家の近くまで来ていた様だ。手前で夕食はまだか、と問われる。

肯定すると彼は「俺もまだだからスーパーに寄ってから帰ろう」と言うので、惣菜でも買うのかと案に乗る事にした。


夕方のピークタイムを越えて割引シールの貼られた惣菜を手に取ろうとすると「今日は俺が作るからいいよ」と制させれる。

久し振りのインスタントではない食事に祐介は喜び勇む気持ちが隠しきれずにあれが食べたい、これは駄目だ、といちいち口を出す。

漸く買い物を終え、佐倉の家に辿り着いた頃には随分と遅い時間になっていた。


朱色の麻布で出来たシンプルな暖簾を潜るとダイニングキッチンが広がっている。

適当に荷物を置いて寛げと言うが、他の部屋を勝手に彷徨く事は憚られた。一先ず真ん中を陣取っているダイニングテーブルに落ち着こうと椅子を引き腰掛ける。


「随分と渋い暖簾を使ってるんだね」


キッチンでカセットコンロと予備のガスを用意している佐倉に話し掛けると彼は少し顔を上げた。

夕食はお互いの好みが違う為、好きなものが摂れる様にと今宵は季節外れの鍋となったので下準備をしている様だ。


「····あぁ。···魔除けだよ」


手早く準備を整えて包丁を使う作業に入った彼は視線を戻して答える。そういえば彼は関心のある事に集中をするタイプだった。

買い物をしている際に、戦力外を申し渡されている祐介は夕食の支度の邪魔はするまいと大人しく待つ事にする。


全く、人が作業をしているのに自分はじっとしているなんて気が引けるものだ。

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