第13話
結局、尋常ではない様子を藤崎に心配され、促されるままに祐介は早退する事になった。
夕暮れになり駅までの道が薄暗い。
そんな光景は何時もの事なのにひどく恐ろしく感じてしまう。
道行く人さえも、もしかしたら【そういったもの】かもしれない、と顔を上げられない。
はっきりと【見えて】しまったのだろうか。
今までそんな経験をした事がない故に、自らだけでは答えの出ない思考が堂々巡りをするばかり。
とりあえず佐倉の家に急がなければと駅に向かう歩調を早め、出来る限り下を向いたまま道を行く。
駅までもう少し、幾つ目かの電柱の横を通り過ぎると素足のまま佇んでいる人影がうつむいたままの視界を掠める。
思わず顔を上げるとバックヤードで見た眼孔の窪んだ女が此方を見つめていた。
「うわぁぁ!」
弾かれた様に祐介は反対方向へ駆け出した。
唯、闇雲に一心不乱に目の前に続く道を行く。
何処の影にも女がいるのではないかと、止まる事が出来ない。
暫く走ると四辻に差し掛かり、息を切らせて周囲を見渡す。これ以上は体力が持ちそうになかった。
丁度、真っ直ぐ続く道に神社が見えたので、一先ず其処に逃げ込む事にする。
鳥居を潜り抜けると入口に小さな地蔵が祀られていた。それを通り過ぎ、人の気配のない小さな神社の近くまで駆け寄る。
辺りは拓けており身を隠す所がない。
心許ないが、社を守る様に鎮座されている石燈籠の影で祐介は息を殺す事にした。
ひたり、ひたり。
鼓動は痛いほど五月蝿いのにも関わらず、その足音は鼓膜に響く。じっと目を凝らして神社の入り口を見ていると【奴】は現れた。
空洞の双眸は何かを探す様に宙を見つめている。
顔は道の先に、神社にとゆっくり動いているので祐介の行方が捉えられないのであろう。
【奴】は鳥居の外で暫くじっと立っていたが、やがてうつむき緩慢な動きで来た道を戻っていく。
『助かったのか···?』
祐介は心の底から安堵し、無意識に詰まっていた息を吐き出す。
震えて使い物にならない手と指をなんとか動かし、いの一番に佐倉ヘ連絡すると、やっとの思いでSOSを告げた。