第11話
勤め先のコンビニの休憩室に着替えを済ませて入室すると、休憩中の先輩にあたる藤崎が買ったばかりであろう雑誌を手にしていた。
「おはようございます」
「おはよう、もうそんな時間?」
慌てて雑誌を仕舞うと、鞄から手鏡とリップクリームを取り出し身支度を整える。
祐介はその様子を尻目に愛想良く、先に入りますね、と告げて休憩室のドアを開けてフロアへと向かった。
一通りの業務の引き継ぎを済ませると、早くも会社員達が帰宅する時間帯となってしまう。
住宅街に近い立地である為、店内はスーツ姿の客が代わる代わる来店し、暫くレジに集中する事になる。
客足も疎らになり落ち着いた頃にレジ周辺を清掃している彼女から声が掛かった。
「ドリンクもうちょっと薄くなったら補充するからバックヤードから在庫出しておいて貰える?」
まだ気温が高くなっていないとはいえ、今は初夏。
近年の熱中症対策の呼び掛けが効を奏しているのか、ペットボトル飲料の回転率は非常に高く気を抜けば品薄となってしまう。
彼女に了承の意を伝えると祐介は店内奥へと引っ込んだ。
普段から暗いバックヤードに足を踏み入れると、ギクリと硬直した。
人が居る。
白いワンピースを着た髪の毛の長い女性の後ろ姿が確認出来た。困ったタイプの客だろうか。
祐介は戸惑いながらも関係者以外立ち入り禁止だ、と告げようと近付き声を掛ける。
「お客様――···っ!」
振り返った女性の顔を見て引き攣った小さな悲鳴が思わず漏れる。
眼孔の窪んだ真っ黒な瞳はその人物が人ではない事を示していた。
祐介は転がる様にバックヤードから飛び出ると床に手足を突く。
大きな物音に驚いた店内にいた客が此方に注目している、藤崎も祐介の様子に慌てて此方に駆け寄った来たのが解った。
「どうしたの?!」
「······」
幽霊を見たなんて、信じて貰える訳がない。
青い顔をして口を閉ざしている祐介の耳元に彼女は「ゴキブリなら私が退治してあげる」と検討違いだが頼もしい台詞を囁きバックヤードに入って行った。