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境界線の先の僕らにしか見えない隣人  作者: 伊勢海老
【第一章】徒歩15分のアパート
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第1話

この春、祐介は無事に大学に合格し、順風満帆な学生生活を送っていた。


目まぐるしい講義も、一人暮らしの為に決めたアルバイトもこなし、

半分幽霊部員になりつつある歴史研究会のサークルの飲み会も、そこそこ顔を出すサイクルが初夏に向けて出来上がりつつある。



「飲んでるか?」


その日も、アルバイトがない日だったので誘われた飲み会にたまたま顔を出しただけのはずだった。


「佐倉こそ、酒の臭いがしない」


辺りにはアルコール独特の臭いが漂っているが、目の前の男は何処吹く風とばかりに、へらりと笑う。


「俺はいいんだよ。家に帰って調べたい事あるし」


佐倉は殆ど飲みサークルと化している「歴史研究会」では珍しく真面目に活動している男だ。


「それよりさ」


祐介が手持ちの飲み物を口にしながら目をやると、さっきまで緩い表情をしていた佐倉は落ち着きなく何かを告げようと言葉を選んでいるのがわかる。


新生活も落ち着いてきたし、浮いた話も周りでもよく聞く。

佐倉も、その口であろうと内心ほくそ笑んでいると予想外の言葉が掛けられた。


「最近、変わった事ない?」


心臓が心なしか早く鼓動を刻む。

祐介は表情が固くなっているのも気付かず、無理やりな笑みを作った。


「変わったって、何?」


心までも固くしている様で自然とグラスを持っている手にも力が入る。

その姿に中途半端な事を言うまいと佐倉も決意したのか、はっきりと告げた。


「気を悪くしないで欲しいんだけど、俺、【見える】んだ」


「・・・やっぱり?」


佐倉の目には祐介が、澱んだねっとりとした暗い空気を纏っている様に見えていた。


余計な世話かとも思ったが、時折講義で言葉を交わしたり、学食等を共にする仲の祐介を彼は放っておけなかった。


「最初は、さ。気のせいかと思ったんだ」


歯切れ悪く最近あった事を振り返る様に呟く。


「出した覚えのない靴が出てるとか。朝はバタバタしてるし、勘違いかなって。でも、毎日決まって一足だけ出てるんだよ」


「他に実害は?」


「今んとこない。あ、・・・でも最近靴が毎日出てるなら出てこなくしてしまえと思って、靴を全部出して寝るようにしたらコップが机の上に置かれる様になった」


周囲の喧騒が嘘の様に遠く聞こえる。

強がっていた祐介も笑みを潜め、丸まった背中を更に丸くして俯いた。

到底常識的ではない自らの言葉に自信がないらしい。


「それってさ、此処には、もう一人いるよって言ってるみたいだな」



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