ヒーロー
僕は人生なかで一回だけヒーローに出会いました
ここはアメリカの病院。
ここに一人の少年が入院してきました。
「それでは、お願いします。サム、いい子でね」
―うん。バイバイ、ママ
「じゃあ、サムくん、お姉さんに掴まって、病室にいくわよ」
―うん
コンコン
「どうぞ」
なかから、しわがれた声が聞こえた。
「失礼します、ハスマンさん。今日からここに入院するサム・ライアンくんです。ほら、自己紹介なさい」
―サム・ライアン、六歳です。目が見えません。よろしくお願いします。
「礼儀正しい子じゃな。わしは、ハスマン・リード。六十歳じゃ」
六十歳!僕のお祖父ちゃんぐらいかな
「じゃあ、サムくん。君のベットはここ。ハスマンさん、よろしくお願いします」
パタン
ドアがしまる。
ガサガサ
ハスマンさんが起きたのかな。
「えーと、サムくん。だったかな、君は目の手術かい?」
―ううん、違う。心臓の病気です。
「そうか、わしは心臓だけはピンピンしておる。だが、もう長くはいきられまい」
―そうなんだ。でも、何で?
「年寄りだからのう」
―そっか。ねえねえ、顔さわってもいい?
「よいが、どうしたんじゃ?」
―僕は目が見えないから、触って覚えるんだ。でも点字も読めるし、勉強もするよ。
「そうなのか。おいで」
サムは近づくと、顔をさわり始めた。
―お髭がふわふわ、優しい顔だね。
「そうか。それはありがとう」
「サムくん。あらあら、仲良くしてもらっているのね。ちょっといいかしら、検査にいく時間よ」
―うん。じゃあまたあとでね、ハスマンさん。
「ああ、待っておるぞ」
パタン
後ろでドアがしまる。
「サム、いい子にしてた?」
―うん、ママ。それに、ハスマンさんとも仲良くなったよ
「そう。ハスマンさん、いつも息子がお世話になります」
「いやいや、とても礼儀正しい子じゃ。わしも楽しいよ」
「すみません、これからもよろしくお願いします」
「ああ」
「じゃあサム、またくるわね。それまでいい子でね」
―うん。バイバイ、ママ。
ガサガサ、パタン
ママが出ていった。
―ねぇ、ハスマンさん。僕はいい子じゃないよ。
「それはまたどうしてだい?」
僕はママの言うこと聞いて、動いてるだけだよ。目が見えないから一人じゃなんにもできないし、病気になって、迷惑かけてるし
「そうか。だが、そうやってママのことを考えられるサムくんはえらいと思うぞ」
―そうかな。……ハスマンさん、またこうやって、お話ししてもいい?
「ああ、いいぞ。何せわしは、君の十倍は生きているからな」
それからというものサムくんはハスマンさんにいろいろな質問や相談をし、ハスマンさんはサムくんが納得するまで説明してあげました。二人はとても仲良くなっていきました。
ある日、サムくんはハスマンさんに質問しました。
―何で人間は死んじゃうのかな?
「それは、みんなが生きていたら、地球に入りきらなくなるからだよ」
―じゃあ、どうやって死ぬ人を決めるの?子供でも死ぬ人はいるし、悪い人で生きている人もいるよ
「人間は、生まれたときに死ぬときも決まっておるんじゃ。それが天命。残酷だが、そうしないと、いけないのじゃ。だから、子供でも死ぬし、悪い人も生きている」
―じゃあ、天命って助けられないのかな?ママがここのお医者さんは僕を助けてくれるって言ってたよ
「それはサムくんの天命が長いからじゃよ。神様はサムくんに長く生きてほしいと思ったんじゃ。だから、お医者さんはサムくんを助けられる」
―そうなんだ。
またあるときは、
―ハスマンさん、1番悪いことって何?
「なんだと思う?」
―うーん。人に嫌な思いをさせること
「そうじゃな、それも正解じゃ。だがもうひとつある」
―……わかんない。教えて、ハスマンさん。
「それは、自分から死んでしまうことじゃ。前に天命の話をしたのを覚えているかい?」
―うん。神様からもらった生きられる長さのことだよね
「そうじゃ。自分から死ぬことは、天命をやぶることと同じじゃ。天命は短い人もいれば長い人もいる。長く生きたかった人もいるのに、天命で命がなくなる人もいる。その人のためにも生きるんじゃ」
―でも、みんなに嫌なこと言われて死んじゃう人もいるよ。その人はどうすればいいの?
「その人は、自分が悪いと思ってしまいがちじゃ。だから、周りの人に相談して助けてもらわなければならない。だが、助けてくれる人がいなかったら、悪く言う人がいるところにいかなければいいんじゃ。苦しい思いをして行かなきゃならん所なんてないんじゃよ。」
―そうやれば、神様が助けてくれるよね。だってその人は頑張ったから。
「そうじゃな、それに生きるという選択の方が辛いんじゃ。」
―どうして?
「生きていると辛いことも苦しいこともたくさんある。だから、生きていく方が難しい。しかしな、」
―しかし?
ハスマンさんはニコッと笑うと、また話し出した。
「しかし、楽しいこともある、笑顔も幸せも嬉しさも、たくさんあるんじゃ。それは自分から切り開いていくんじゃよ。まあ、時には運もいるがな。でも、辛くなったら誰かが手をさしのべる。そんな国になってくれるとよいが、残念ながらまだそうではない」
―僕が助けるよ。そんなヒーローになる!
「サムくんは優しい子じゃな。そうして、誰かをサムくんが助けられたら、今度はその人が誰かを助けてくれるよ」
―そうなんだ!じゃあ、いろんな人に優しくすれば、皆が優しくなるんだね。
「ああ、きっとな」
サムくんが来てから半年がたとうとしていました。あと少しでクリスマスです。
―ハスマンさんはほしいものある?
「わしはないよ」
―なんかあるでしょー
「そうじゃな……サムくんの笑顔、それがほしいな」
―そうか……じゃあ、写真撮ろうよ!
するとサムくんは看護師さんを呼んできて、写真をとってくれるよう頼んだ。
―ハスマンさんも一緒に!
パシャ
そのあと、サムくんのお母さんが写真をやいて、ハスマンさんに渡した。そこには、サムくんの最高の笑顔が映っていた
「サムくんはほしいものがあるかい?」
―僕は……友達がほしい。目が見えないから遊べないし、心臓の病気になってからは外で遊んでいないんだ。
「そうか。病気は仕方がないが、サムくんは最初から友達を作るのを諦めていたのではないか?」
―……そうかもしれないな。でも……
「じゃあ、いろんな人に話しかけてみてごらん。きっと誰かが友達になってくれるよ。君は優しい子じゃからな」
―分かった。いろんな人に話しかけてみるよ。
「それが1番じゃ」
それから数日後、サムくんの容態が急変しました。
「サムくん?大丈夫か?」
「サム、サム!」
「呼吸が浅くて非常に危険な状態です。一刻も早く処置しないと…」
「……お母さん、看護師さん。少しよろしいか……」
ハスマンさんはなにかを決心したようでした。
ママ?
ハスマンさん?
ここ、どこ?
眩しいよ…眩しい?
「……ム、サム」
誰?何で見えてるの?
でも、ママの声……
「サム……よかった」
―ママ?目が見えるよ。ママの顔が分かる。あれ、ハスマンさんは?
「……サム。これ、読める?」
―…うん。
そこには、万年筆のきれいな青色でこう書かれていました。
『サムくん
メリークリスマス!
この手紙が読めているということは、なおったんだね、おめでとう。
天命の話をしたのを覚えているね。君はこれからいろんなことを学び、友達をいっぱいつくって生きていくんだ。わしは残念ながら天命がきてしまったようじゃ。君は優しくて素直な子じゃ。その心を忘れなければ、友達をいっぱいつくれるよ。君からのクリスマスプレゼントは受け取った。だから、わしからのプレゼントも受け取ってほしい。
わしの元気な心臓と、君の澄んだ目だ。それさえあれば、君は優しいヒーローになれる。
頑張れ!天国から見守っておるぞ。
ハスマン・リード』
「サム…」
涙が止まらない。でも、ハスマンさんは僕に優しくしてくれた。だから僕は、いろんな人に優しくするんだ。それがハスマンさんとの約束だから。
十二歳の誕生日、ハスマンさんのお墓の前でハスマンさんが心臓移植のドナーになってくれたこと、ハスマンさんが遺産から僕の目をなおす手術費を出してくれたことを知った。ハスマンさんは僕のヒーローになってくれたんだ。
そして僕は、たくさんの人を助けることをお墓の前で誓った。
それから十年後、僕はセラピストになった。
人の悩みを聞き、共に苦しみ、助ける。
ハスマンさんにもらったクリスマスプレゼント。
それを無駄にしてはいけない。ハスマンさんは決められた命なかで、最後に僕を助けてくれたのだから、今度は僕がヒーローになるよ、ハスマンさん。
読んでいただき、ありがとうございます(o^^o)
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