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第九十二話 入城


 ジャガイモ、玉ねぎ、鶏を丸ごと使った豪快な塩味の鍋を大鍋で煮炊きして、出来た端から器を持って待っている難民達に分けていた。大鍋で煮込んでいるので、大味かと思ったが鶏からの出汁と玉ねぎの甘み、ジャガイモのほくほくした触感が美味しさを増していた。そして、器に付けられた粒マスタードを鶏肉に少し付けて食べると、これもまた程よい刺激となって食欲を増していく鍋になっていた。


「相変わらず、ルシアの料理は神も認める美味さだね。みんなすぐに食べきっちゃって並んでるし。二人とも疲れてない?」

「うちはお料理するの大好きだし、そんなに疲れてへんよ。それより、ツクルにーはんもおかわりどうです?」


 ニッコリと笑って給仕する隣でイルファが疲れ切った顔をしていた。ルシアは余裕だと言っていたが、難民は三桁の人数にのぼっており、それだけの人数の腹を満たすための食事を作るのは大いに重労働であるのだ


 ルシアたん、アンタすげえよ。超人ルシア爆誕ですよ。


「ありがとう。難民の人達にもそろそろ行き渡ったから、ルシアもイルファも配膳を任せて休憩してくれ」

「ツクル様……アタシばタマちゃんの膝枕で横に……」

「しょ、しょうがないニャ。今回だけワシの膝を貸してやるからニャ。イルファ、よく頑張ったニャ」


 和装イケメン男子に変化しているタマが疲れ切ったイルファを膝枕しながら頭を撫でていた。どう見てもバカップルなのだが、ついこないだ俺もやっているので、タマ達のことは言えなかった。


「おーアツアツだねい。タマちゃんや」

「ミャア! ツクル。これはイルファが休みたいって言ったからニャ。ワシがこうしろと言ったわけじゃないぞ」

「はいはい、分かってますよ。二人でしばらくイチャイチャして良いからね」


 寝息を立てていたイルファを起こさないように、タマの元から退散する。すでに日が落ちており、辺りは暗闇に包まれていた。難民達は空腹を紛らわせたことで落ち着きを見せているが、かといって、このままの状態が続けば再び暴徒となりかねない。


 フェンチネル側の衛兵も城壁の上からこちらの様子を窺っており、まだ開門する気は見せていなかった。


 このまま、足止めも結構困るんだよね。何か打開策がないかな……。


 ルシアの元を離れ、街道上でウロウロとしながら思案を重ねていると、来た道の方から松明の明かりが近づいてくるのが見えてきた。


 ……新しく到着した難民だろうか……。


 ゆっくりと近づいてくる人物に眼を凝らしていくと、先日別れたあの犬頭族の男性の姿が見えてきた。少し疲れている様子でフラフラとしていたので、急いで駆け付けていく。


「おおぉ、これは先日お会いしたクリエイト商会の方ではありませんか……」

「貴方こそ、あれから休養をあまりとらずに来られたのですか? 一日以上は安静にしておいて下さいと伝えたはずでしたが……」

「私も急ぎの用でフェンチネルに戻らねばならぬ身でしたので、休んでいる暇はなかったのですよ。ああ、そう言えば。この前は助けて頂いたのに名乗りもせずご無礼いたした。私はクライットと申します。フェンチネルの領主ハクライ様の家人をしております」


 犬頭族の男性は、フェンチネルの領主を務める妖狐族であるハクライの家人であった。つまり、使用人ということなのだ。とすれば、彼に頼めば領主との伝手となり、難民達をフェンチネルに腰を落ち着けさせてくれるかもしれない。


 俺は縋るようにクライットの肩を揺すった。


「おお、貴方はこのフェンチネルの領主様の家人でありましたか。実は今、難民が門番と諍いを起こしてフェンチネルの門が閉じられてしまっており、街に入れずに困り果てていたのですよ。恥ずかしながら、貴方の力をお借りしたいのですが……」

「知らぬ間に大変なことになっておりましたなぁ。日が暮れておりますゆえ、今日は無理ですが、明日私とともにご領主様に会ってもらいましょう。命を助けられた御恩に比べれば、酷く少ない対価で申し訳ないが……」

「いえ、クライットさんのご助力は万金の価値を持つものです。さぁ、私が肩を貸しますのでテントでゆるりと休まれよ」

「かたじけない……」


 俺はクライットに肩を貸すと、テントのある場所まで一緒に歩いていった。



 翌日、日が昇ると、クライットが城門に近づいて衛兵に向けて開門するように要求してくれた。


「我が名はクライット。領主、ハクライの家人である。門を開けてくだされ。難民達は暴徒化せぬと誓っておるし、ここにおられるクリエイト商会の方が入市税を立て替えてくれると申しておるのだ」


 クライットが言うように、昨夜のうちに難民達から意見を募り、大半の者がフェンチネルに伝手があることが判明しており、俺が入市税を立て替えれば、暴徒化しないと約束を取り付けていのだ。入市税の原資はラストサン砦の奴等の略奪品を使うことに決めていた。


「しばし、待たれよ。領主様に確認を取る。クライット殿の顔は知っておるが、話が話だけに私の判断では開けられない」

「分かりました。ここで待ちます」

「どうなりますかね?」


 隣に立つクライットに開門の確率を尋ねてみた。


「ハクライ様は金になることを選ぶ方です。もしかしたら、多少の袖の下はいるかもしれませんなぁ。ですが、お店の場所は私が良い所を紹介しますよ。これでも、街では顔が広いので」

「無体な袖の下でなければ、私も支払う用意はしてきていますので、できればお取次ぎ願いたいですな」


 商人を偽装しているため、クライットからの袖の下要求もサラリと受け止めていく。基本、魔王軍は袖の下を入れてからでしか動かないのだ。それは、役得であり彼らの収入源でもあるので、こういった慣習がまかり通っている。ゲームでも衛兵などに賄賂を握らせて砦に侵入することもあったので、その辺りはゲーム世界を踏襲しているようだった。


 しばらく待っていると、ギギギと音を鳴らして重たい城門が開かれていった。


「ハクライ様よりの許可が出た。ただちに難民達の入市税を支払い。クライット殿と居城に出頭せよとの報告を受けておる」

「はは、ではすぐにお支払いいたします」


 俺達は難民達の分の入市税を払い、クライアットとともにフェンチネル入城を果たしていた。


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