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第七話 初めての夜


 ルシアの作った夕食はウサギ肉と食用キノコを塩で煮込んだ簡単な料理だったが、作ってくれたルシアの愛情がタップリと注がれた夕食であったため、転生前に食べていた食事の数倍は美味しく感じる食事だった。


「調味料が揃うと、もっと美味しく調理できるのですが……今はこれが限界どすなぁ~」


 大食漢だと言っていたルシアは、小さい身体のどこに収まるのか分からないほどの量を食べていた。その様子を見ていたこちらに気付き恥ずかしそうに上目遣いで見てくる。


「かなんわ~。ツクルにーはん。あんまり見んといてください。うちのご飯食べるトコなんて見ててもしょうもないですやろ~?」


「いやぁ、どれだけでも見ていられるね。ルシアさんは綺麗な食べ方をするから、見ているこっちが楽しくなっていくよ」


 応急で作った箸を上手に使ってルシアは煮込み料理を食べている。


 熱いためか、すぐに食べられないようで、フーフーと冷ましてから食べているが、その冷ました料理をアーンとしてくれたらいいなと思っていた。


「うちばっかり食べとったら、ツクルにーはんの分が無くなってしまうから、食べさせてあげましょか~? アーンしておくれやす」


「アーン」


 ジーッとルシアの食べるところを見ていたら、急にフーフーしたウサギ肉を口元に持ってきてくれた。


 おもわず、反射的に差し出されたウサギ肉を口の中に入れていた。口に入ったウサギ肉は自分で食べた時の数倍はおいしく蕩けそうな美味しさを発揮している。


「美味しいよ。ルシアさんの夕食は最高だ。美味い。人生の中で一番美味い料理だった」


「喜んでもらえて良かった。明日からの料理当番は全部うちが担当しますわ~」


「ああ、あの食材でこれだけ美味しい料理を作ってくれるなら、是非お願いしたいね。俺が作ると何か味気ない料理ができそうだし。ルシアさんの手料理なら何でも食べられるよ」


「もう、照れてしまいます~。ツクルにーはんは、うちのことをほめ過ぎとちゃいますか~?」


 ルシアは褒められたのが恥ずかしいのか、お腹の辺りをポコポコと軽く叩いて照れていた。その姿にズキュンと心臓を撃ち抜かれてしまう。


 萌えるぅ……萌えてしまうぅ。ルシアたん……マジ、天使……俺、このまま昇天しちゃうかもしれねぇ……。


 ポンポンとお腹を叩かれる度に、小柄なルシアの身体をギュッと抱きしめたくなる衝動を抑えるのに苦労していた。


 はぅううぅ、ルシアたん。なんという、可愛らしさ……。


「ごめん、ちょっと外の空気を吸ってくるわ。ついでに俺の寝る場所も作ってくる。ルシアさんはこの小屋を使っていいよ」


「へ!? ツクルにーはんは、この小屋で寝てくれないのですか? 街を追放されてから、うち一人ではよう眠られへんのどす。添い寝はあかんけど、近くで寝てくれまへんか~?」


 お腹をポコポコ叩いていたルシアが急に抱きついてきた。少しだけ、フルフルと身体を振るわせている。


「うち一人で寝るのは怖くてかなわんのです! どなたはんとも喋らんと、一人寂しく魔物に怯えて寝るんは、もう嫌や。ツクルにーはん、ワガママなうちの願いを聞いてくれませんか?」


 腰にギュッと抱きついてきたルシアが、不安げな顔で見上げていた。その翡翠色の瞳の奥に恐怖と孤独を感じ取ったことで、ルシアのお願いを拒絶することができなくなってしまった。


 抱きついているルシアの頭をワシャワシャと撫でてやる。


「承りました。ルシアさんの安眠は俺が守ることにしよう。だから、ルシアさんは俺に美味しいご飯を提供してくれるとありがたい。助け合いの精神でいこう」


「ふぇええぇっ!! ツクルにーはんは優しい人どすなぁ。こないなにワガママなうちを許してくれるなんて……堪忍なぁ……ホンマに堪忍……」


 追放されて何日間彷徨ったのかは分からないが、ルシアに魔物の恐怖と夜の孤独を植え付けることには成功していたようだ。


 俺のように今日あったばかりの男にすら、抱きついて離れないというのは、相当にトラウマを抱えてしまったに違いない……。


 恐怖と孤独に怯えるルシアを見てしまったら、やましい気持ちは一切消え去り、純粋に彼女の安眠を守ってやりたいという欲求の方が強くなっていった。


「よし。添い寝はできないけど、ルシアさんが寝るまではこのまま一緒にいてあげるよ。安心して眠っていいよ。俺は絶対にルシアさんを守ってみせるからさ」


「ツクルにーはん……うちが起きてもこの小屋からいなくなっていませんよね?」


「ああ、大丈夫。ルシアさんさえよければずっと一緒にいていいよ」


「本当にほんまなん?」


「本当さ。俺は多分嘘つかない」


「多分って何どすそれ。ちゃんと約束してください。それと、うちのことはルシアと呼び捨てにしてくださいよ。さん付けは他人行儀に聞こえますよって、同居人なら家族も同然ですやろ?」


「ああ、分かった。約束するよ。俺はルシアとずっと一緒にいるよ」


「本当……に……ツクルにーはんは……すぅ、すぅ、すぅ」


 夕食を食べてお腹が膨れ、屋根のある場所で寝られることに安堵したルシアが腰にしがみついたまま寝落ちしてしまった。多分、最低でも一週間以上はまともな睡眠が取れていなかったものと思われる。


 ……早いところ寝具もつくらないとな……まだ、暖かいとはいえ、この格好で寝ていたら、いつ風邪を引くか分からない。大事なルシアが風邪でも引いたら狼狽えてしまうことは確実だ。


 とりあえず、明日からの水路開削を終えたら、農園整備と鉱石堀りができる道具も揃えないと。男としてMY同居人を苦労させるわけにはいかないからな……


 そんなことを考えている内に初日の疲れも重なって倒れ込むように意識を失っていった。


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