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第六十一話 タマの処遇

軽い衝撃とともに身体中にジンジンとした痛みがほとばしる。その痛みによって半ば無理矢理に意識を覚醒させられていた。


「イデデデぇ……体中がひりつくように痛いじゃねえか……」


「ワ、ワシの身体がぁ!! 何だ! どうなっておるのだっ! うおぉ! 魔力が枯渇しているだと!」


 痛みで意識が飛びそうになるのを我慢しながら、目を開けると目の前にいたはずのイクリプスは姿を消し、修練のダンジョンに戻っていた。そして、天井まで頭がつかえそうなほどの巨躯だった化け猫のタマがびっくりするほど縮んでおり、今のサイズは子猫と同じくらいに縮こまっていた。何やら、こちらを攻撃しようと足元まで近寄って猫パンチを喰らわせてくるがダメージを負わせることはできていない。


「ワシに何をしたのだっ! 古の魔王様から絶大な力を与えられたワシがこのように無力な子猫に戻されるなど屈辱でしかないわっ!! えい、ええい!!」


「ざまあみろっ!! へへっ!! お前は無力な子猫になった。今なら、ちょっと首をへし折るだけで倒すことができるな」


 ジンジンと身体中が痛みを発して、肉の焼けた嫌な匂いが鼻につくが、痛みに耐えてタマの首根っこを掴むと顔の前に持ってきた。


「な、何をするっ! やめるのだっ!! ワシは大事なダンジョンマスターだぞ。殺すと、ダンジョンから出られなくなる。それでもいいのかっ!!」


 タマは首根っこを掴まれて、ジタバタともがいていたが、死の恐怖を感じているらしく、身体をガクガクと震わせて怯えているのが見て取れた。


「ほほぅ、では一回殺してみるか。お前のおかげで俺の身体はこの有様だ」


 重度の火傷を負っている身体は水膨れが破れ、汚らしい汁を垂れ流しては、絶え間なく意識が飛びそうになる痛みを発していた。


 俺の本気を悟ったタマがせわしなく、目を左右に動かし、助けを求める存在を探していたが、生憎と自分が吹き飛ばして気絶をさせてしまっている。


「ま、待て。ワシを殺すなんてことはやめるべきだぞ。この非力で何ら力のない子猫を残虐非道に殺せば、異常者のレッテルを貼られてしまうぞ」


 タマは憐みを誘うような眼で俺を見つめてきた。


 クッ、卑怯な奴め。俺が子猫を惨殺できないとでも思って……思って……ぬこめっ! くそう、殺せねえっ! 


 子猫になったタマの愛らしい仕草に思わず萌えてしまう。こういった場合、犬よりも猫の方が断然に可愛い仕草を知っているような気がする。


「クッ! 卑怯な奴めっ!! 仕方ねえ、助けてやる代わりにダンジョンから出せ!!」


「おぉ、ワシは話が分かる奴は嫌いじゃないぞ。よしよし、では修練クリアでダンジョンを脱出させてやる」


 タマがニャゴ、ニャゴと何かを唱えると、皆が発光し光に包まれていった。



 光が収まると修練のダンジョンの入り口があった高原地帯の草原に戻っていた。そして、ルシアやハチ、ルリ、イルファ、ピヨちゃんも目を覚ましていく。


「これで、お前等は修練者として一段階昇ったことになり、次の修練のダンジョンの入り口が開かれたであろう。これは、ダンジョンの位置を示すコンパスだ。受け取るがよい」


 解放されたタマが祠の中から手のひらサイズの方位磁石を引っ張り出してきた。薄汚れているが、作りはしっかりとした方位磁石となっており、今は南を差して緑に光っていた。


「これは?」


「修練のダンジョンの場所を特定するためのアイテムだ。距離に応じて緑・青・黄色・赤と針先に色が変わる仕様になっておる。それで次の修練のダンジョンを探すのだ。それともう一つ」


 タマは再び祠に走り中から三角錐の石を持ち出してきた。


「クリア特典の【転移石】だ。これでゲートを作れば、移動も楽になるだろう。ワシが与えてやれるのはこれくらいだ。後は精々自分達で頑張りやがれ!!」


 捨て台詞を放って修練のダンジョンに戻ろうとしたタマであったが、祠に近づくと入り口が音を立てて崩れ去り、祠は爆散して粉みじんに消え去っていた。


「あぁあっ!! ワシの修練のダンジョンがぁあ! 貴様等、どうしてくれるのだっ!! ワシの棲家が爆散し果てたぞっ!!」


 轟音を響かせ土煙を上げている元修練のダンジョン入り口を茫然と眺めて立ち竦むタマがワナワナと震えていた。


 ざまぁねえぜ。いい気味だ。いてて、いいかげんマジで回復薬飲まねえと、立ってられねえや。


 途方に暮れるタマを見て、ほくそ笑んでいたが、火球によって火傷した皮膚はジクジクと痛みを発し、耐えようのない苦痛を俺に与えてきていた。急いで、インベントリから回復薬を取り出すが、痛みが酷すぎて回復薬を持つ手に力が入らずに地面に転がってしまった。


「ツクルにーはんっ!! うちのためにこないに酷い恰好になってしもたなんて……早う、そこに横になってくださいっ!! 今からすぐに回復薬を飲んでもらいますぅ~!」


 俺の惨状を見たルシアが慌てて横になるように言ってきた。痛みが酷くて立っているのが辛かったので、ルシアの言う通りに草地に身を横たえて休息を取る。すると横に座ったルシアが回復薬の瓶のフタを開け、薬を口に含むとそのまま俺の口へ直接流し込んできた。触れたルシアの唇は柔らかく、甘い微香が漂っていた。


 ファッーーーーーー!! ルシアたんっ! 何ということを!! ああぁ、俺のファーストキスはルシアたんとぉおおお!!


 必死の形相で、俺に口移しで回復薬を飲ませるルシアに気圧されてしまい、されるがままに回復薬を飲み下していった。しばらくすると、回復薬の効果を発揮した知らせる緑の光が身体を包んで、焼け爛れた皮膚の再生が始める。ジクジクと針を刺すような火傷の痛みは和らいでいった。


「ヅグルざぁあんっ!! こんなんえらい恰好になってまで、うちを守ろうとしはっただなんて、お馬鹿さんやわ~。うちのことなんかほっとかれればよろしかったのに!!」


 ポタポタとルシアの涙が俺の頬に伝い落ちてくる。ルシアを守って酷い火傷を負ったことをとても心配して泣いているらしい。


「ああぁ、でもちょっとだけ無理した甲斐があった。ルシアからの嬉しいプレゼントがもらえたからね。あいたたた。痛いよ。ルシア」


 キスしたことを思い出したルシアが顔を真っ赤にさせて、ポカポカと頭をマッサージしてくれていた。


「バカ、バカっ! ツクルにーはんのいけず~っ!! 無茶ばかりせんといや!!」


 ポカポカと頭を叩いていたルシアが、俺の耳元に顔を寄せると小声で囁いてきた。


「……ツクルにーはんにだけ言うときます。実はうちも接吻するのは初めてなんよ……」


 ルシアの告白に一気に顔が火照ってしまう。

 

 愛情の籠った特製回復薬を美味しくいただきました。


「もう一回してもらえるとありがたい……です」


「ツクルにーはん……」


 そして、もう一度だけルシアに口移しで回復薬を飲ましてもらった。



 キュポン。


 回復薬の瓶から薬を直飲みすると、カラになった瓶を草原に投げ捨てる。


「うへぇ、腹がタポタポだ。あいたた。ルシア、そこはデリケートだからやさしくお願いね」


 瀕死の重傷からの回復に回復薬を五本ほど飲み切っており、薬の効果によって焼け爛れていた皮膚は綺麗に再生していた。その間もルシアがかいがいしく、溶けた鎧を皮膚から引きはがしていく。


「ホンマ、にーはんは無茶しはりますなぁ……あんまり無茶されたら、うちは心配で心臓がギューッとなってしまいますわぁ……」


 脛当てが溶けて皮膚に張り付ている箇所を、ルシアがよく切れるナイフでスッと切り離していく。こういった腕前は料理人の祖母仕込みの腕で、綺麗に鎧と皮膚とを紙一重の差で切り離していた。


「ところで、なんであのタマがあんな羨ましい場所に鎮座しているのか、俺の教えてくれる人はいるか?」


 目の前では子猫化したタマを胸の谷間に挟んだイルファが、ペロペロと舐めだしかねない勢いでタマの毛並みを撫で上げていた。


「ぬこ、ぬこがアタシの近くにばいると。ぬこち゛ゃーーーん!! はぁ、はぁ、素敵な毛並みばして可愛らしかね」


「こ、こらっ! 勝手に触れるなっ! うわっぷ! なんでこんな場所にワシを挟み込むっ! ぷにぷにして柔らかくワシを圧迫させて殺す気か」


 イルファの大きな胸の谷間で溺れるようにもがいていたタマが喚いている。


 う、羨ましい。なんという極楽地獄……タマよ。おっぱいの海に沈むがいい。感想は後で聞かせてもらうからな。


 俺を重度の火傷を負わせたタマであったが、彼のおかげでルシアから嬉しいプレゼントがもらえたことで、恨みは差し引きゼロとしている。


「ツクル様っ!! この可愛らしかぬこば、お屋敷で飼ってもよろしいやろうか?」


 イルファがおっぱいに挟んだ子猫を飼いたいと言い出し、キラキラとした眼でお願いをしてきていた。


「あら、イルファさんは猫好きなのですな。うちも猫ちゃんは嫌いじゃありませんし、ツクルにーはんが、ええとおっしゃらはるなら、いいんじゃないですか~」


 ルシアからもイルファの胸で溺れているタマを飼いたい視線がチクチクと突き刺さってくる。


 ……ルシアも飼いたいのか……。いやでも、そいつは元ダンジョンマスターだぜ。今は家なしだけどな。


 二人からの飼いたい光線に負けそうになった俺は、草原で休憩していたピヨちゃんやルリ、ハチに助けを求める視線を送った。


「あたしは別に仲間が増えるのは賛成よ。でっかい化け猫はゴメンだけど、ちっちゃい子猫なら害もないしね」


 ルリも飼うのを容認派に転換していた。


「おいらはルリちゃんがええなら、ええがや」


 ピヨ、ピイヨ。


 ハチもピヨちゃんも容認派になった。となると、俺がどれだけ反対を言ったところで最高意思決定者のルシアが容認しているので、タマの処遇は決まったも同然であった。


「タマよ。悪いが貴様はイルファのおもちゃとなった。精々可愛がってもらうことだな」


「ツクル様!? タマちゃんを飼うてんよかと!?」


「はぁ!? お前等、ワシをどこへ連れ去ろうとしておるんだっ!! ええい!! 放せ!! 攫われるぅーー!! 放せえーー!!」


「ちゃんと世話をするように。タマの面倒はイルファに任せたぞ」


「は、はいっ!! タマちゃんはアタシがしっかりと世話ばするけんっ!! タマちゃーん!! アタシが今日からおかしゃんだからね」


「ちょ、ちょ。バカっ!! ワシは数百年以上生きとる老猫だぞ。そんな、生まれたての子猫とはちが……あっ、ああ。やめんかっ!」


 超猫好きのイルファに捕獲されたタマは、こうして俺達の仲間に加わることとなった。


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