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第十七話 記憶違い


 チチチ……チュン、チュン。


 朝日が差し込み、鳥の声で目覚めた。この地に転生して三日目の朝だ。とても、清々しい朝でやる気が漲ってくる。そう、漲っているのだ。主に下半身が。


 なぜかというと、男の生理現象でもあるのだが、それ以上に刺激を与えてくれる生物が俺の隣で悩ましげなポーズをして寝ているからだ。


 ……なぜだ……昨日、散々にルシアが『まだ、同衾はダメどすえ~』と言って、離れて寝たはずなのに、どうして彼女が俺の隣で抱きついて寝ているのか、誰か詳しく教えて欲しいと思う。


 寝起きの頭で推測できる範囲でどうしてこうなったかを考えみた。


 1、俺が夢遊病者で意識のないままにルシアを寝ている所から自分の隣に寝かした。


 2、そもそも、別で寝た記憶が間違っていて、二人で一緒に寝ていた。


 3、実はパラレルワールドに飛ばされて、ルシアとの同衾ルートに紛れ込んだ。


 4、ルシアの寝相が異常に悪くて、転がりながら俺の隣まできていた。


 寝起きの頭で考えられるのは以上の四点だけだった。


 1は自覚症状がないので何とも言いようがないが、転生前には一回も発生したことが無い事案なので可能性は低い。


 2は昨日の寝る前の記憶はバッチリと残っているので、記憶違いという可能性はとても低い。俺もまだ記憶機能は低下していないはずだからだ。


 3は転生した世界から更にはじき出されてしまうといった事案なので、俺自身で知覚することは不可能であると思われ、判断は保留させてもらいたい。個人的にはこの推測になってもらうと非常に嬉しくはあるが可能性は低いだろう。

  

 4は昨日の朝を考えると、ルシアは朝に弱いことは判明している。昨日の感じでは寝相までは分からないが、これが一番無難な解答だと思われる。


 とりあえず、4の可能性を信じて、眠っているルシアを起こすことにした。


「ルシア……ルシア、起きて」


「ふぅうん……おばーさん、まだおひいさん(お日様)出たばっかでしょ……もうちょっと寝かせてくれませんかぁ……すぅ、すぅ」


 ルシアの目が閉じたままなので、完全に寝ぼけていると思われる。寝る時の癖なのかルシアは何かに抱きついて寝ていたようで、今も俺を抱き枕の代わりにして爆睡中だった。


 抱き枕にされるのは特に問題はないのだが、足を絡ませて身体を密着させられているので、非常に困っていた。主にたわわな胸が俺を誘惑するように柔らかな感触を断続的に送り込んできているのだ。


「ルシア……起きてルシア。おっぱいが当たって非常に困るのだが……」


「ふみゅ……おっぱいなら……さっき……飲まれたでしょー……ふにゃ……ふにゃ」


 ファッーーーーーーーー!!! なんですとっ!! 俺はいつの間にルシアのおっぱいを飲んでいたんだっ!! まさか、記憶が飛んでいるのかっ!! 帰ってきて記憶ちゃんっ!! COME BACK!! 帰ってきてー!!


 俺が取り乱したことで揺さぶられたルシアが目を覚ましていた。見つめ合いながら沈黙の時間が流れる。


「……ふあっ! ひゃぁあぁあっ! ツクルにーはんっ!! ひゃあ!? またやってしもたぁ……うち、おばーさんから寝相が悪いと言われとったんですけど……ツクルにーはん、堪忍っ! 堪忍してなぁ! うちも悪気はないねんな」


 正解は4番目だったようだ。推測したとおり、ルシアは非常に寝相が悪いことが判明した。俺的には非常に有り難い寝相の悪さだが、本人はとても気にしている様子だった。


 だが、そんなことよりも気になることが判明したので、ルシアに事実確認をすることにした。


「……ル……ルシア……お、俺ってルシアのおっぱいを吸っ……ゴフウゥ!」


 言葉を言い切る前にルシアのヘッドバッドが胸にヒットして息が詰まった。


「ツクルにーはんは、なに朝からエッチなことを言ってるんですかっ! そないなこと、している訳ありませんやろっ!」


 ルシア先生はお怒りになられたようです。やはり、先程の言葉はルシア先生の寝言であったようで、俺の記憶が飛んだわけではなかった。


「ですよね~。失礼しました。どうやら、俺の記憶違いでした……くすん」


「……おっぱいが出るのはお子たちができた時やし、その時にちょいとだけなら……よろしいですよ……」


 か細く聞き取れないほどの声でルシアが喋った言葉が耳に入り込んでくる。


 ………ファッーーーーーーー!? ルシアたん、まだ子供は早いよっ!! いや、まぁそれは置いといて、ちょっとだけならいいの!! マジでっ!! God Has Not Abandoned Us!! 神は我を見放されなかったー!! ヒャッハー!!


 内心では狂喜乱舞していたものの、それを表に出すことはためらわれたので、キリッと顔を引き締めて努めて真面目に答えを返した。


「ごめん。ちょっと舞い上がってしまったようだ。すまなかったね。今の言葉は忘れてくれ」


「そうどすかぁ……でも、ツクルにーはん、鼻から血が垂れてますけど、どもないですか?」


 ルシアの指摘に咄嗟に鼻の下に手を当てるとダバダバと鼻血が垂れていた。


 か、かっこわるぅーーーー!! 鼻血垂らして恰好つけちゃったよっ!! マジでありえねえぇ!!


「ご、ごめん。ちょっと顔洗ってくる。ついでにちょっと道具作るから、朝ご飯できたら教えてくれるかい……ははは……」


「きーつけてくださいね~」


 ルシアから身体を離し起き上がると、足早に沐浴用の滝つぼスペースへ向かって歩き出した。


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