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出会い

この日は朝から頭が痛かった。

なにか良くないことがおきると、予想していたのかもしれない。

昨晩は記録的な熱帯夜だった。

真夜中でもお構い無しに部屋中に響くセミの鳴き声と、なかなか寝付けないジリジリとした暑さに耐えられず、エアコンを強風設定にしたまま寝たせいだと思う。

頭を抱えながらベッドから立ち上がると、ローテーブルの上に置きっぱなしにしたビールの空き缶と、食べ終わってそのままの食器が目に入ってきた。よく見るとテレビ台は埃をかぶっているし、床に脱ぎ捨てた服はもはやどれが洗濯の済んだものなのかもわからない。自分でも呆れるが、一人暮らしの男の部屋なんてこんなもんだ。

頭痛薬は切らしていた。ここ最近原因不明の頭痛に襲われることが多く、つい先日最後の2粒をあけてしまったところだ。



俺はシャワーは朝に浴びるタイプだ。

賛否両論あるだろうが、昔からそうだ。

仕事から帰って冷蔵庫にあるものでまず腹を満たし、ビールを飲みながらテレビを眺める。そして携帯で某まとめサイトを見たりしているうちに眠くなってくるので、電気やテレビをつけっぱなしで朝まで起きないことも多々あるのだ。まわりからみて、最低限の清潔感はある方だと思う、デスクに物が多いとかは置いておいて。だから寝坊してどんなに遅刻ギリギリでも、朝のシャワーと歯磨きだけは欠かさない。仮に寝落ちせずに、夜にシャワーを浴びていたとしても、朝起きたらシャワーを浴びる。どうせ浴びるなら朝だけでいいじゃないか、と気付いて以来ずっとこうだ。ちなみに歯磨きの時間は長い。テレビを見たり携帯をいじりながら、20分くらいは歯を磨いているだろうか。そのわりには現在虫歯の治療で歯医者に通っている。


長い歯磨きとシャワーを終え、洗い終わっているであろう服に袖を通して家を出ると不快な蝉の声が耳に入る。

月曜日は憂鬱になる、とかよく聞くけど俺にとって平日の朝は何曜日だって憂鬱だ。仕事が嫌いな訳では無いし、職場での人間関係も至って良好だ。特に予定があるわけでもないのに雨が降っているとなぜか憂鬱になる休日と同じ感覚だ、晴れていても家にいることには変わりないのに。


勝手に治るだろうと思っていた頭痛は、電車に乗ってからも、会社の前まできても、治らなかった。だからと言って耐えられないほどの痛みでもないし、なるべく考えないようにして会社のドアをあけた。



どちらかといえば俺にこの仕事は向いていないと思う事の方が多い。建築・設計兼営業。インテリアを勉強していたわけではないが、大学に来ていた求人からなんとなく面白そうだなと選んだ場所になんとなく受かってなんとなく働けているのだ。

どちらかといえば第一印象も、真面目そうだとか怖そうだとか口数が少なそうだと言われる方だから多分営業向きでもない。

人並みには話はできるが、人見知りなたちなので進んで会話を楽しむ事もあまりない。

かといって、向いてないから辞めようとは思わなかった。大きな仕事を抱えている時は確かに辛いこともあったし、ストレスで胃薬に助けられる日々もあったが他に向いている仕事も特に思いつかないし、なんだかんだで4年目だ。



金曜日の夜は確か急に誘われた飲み会に駆けつけたんだっけ。デスクがいつにも増して散乱している。唯一「A型感」を発揮するのは図面を引いている時くらいで、私生活はだらしないものだった。

「おはよう。」

透き通った声が耳に届く。

同じように「おはよう。」と返すと彼女はコーヒーをデスクの上に置くと、お礼も言わぬうちに微笑んで去っていってしまった。

仁木さんは1つ年上の同期で、ショートカットが似合う、誰もが認める美人だ。いつも落ち着いた大人っぽい服装をしているけど、バッグにはなぜかいつもきのこのキーホルダーがついている。仕事をテキパキとこなすかっこいい女性だが、甘え上手で褒め上手。そういう面をうまく使う世渡り上手な女性なのだ。

仁木さんが置いていったコーヒーからは、白い湯気が立っている。

頭痛にカフェインって良くないんだっけ…。




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