文化祭ライブ
体育館の舞台裏で、ステージ担当の人達と進行表の最終打合せを行った。
演者と出し物に変更はなく、大きなトラブルもないため、ステージの部は予定通りの進行となる。
俺と一ノ木さんの仕事はここまでだ。
後はアクシデントがないことを祈りつつ、これから始まるパフォーマンスを楽しむだけだった。
緞帳の向こう側では多くの生徒が集まっているのが分かる。
姿は見えなくとも、二つの耳では捕まえきれない多くの私語が、重い緞帳を微かに揺らしていた。
ステージの部は文化祭のメインイベントであるため、クラスの出し物を一時中断し、生徒たちはこの体育館に集まっていた。もちろん保護者や校外のお客さんもいる。体育館はかなりの賑わいをみせていた。
葵聖は、今からここでライブを行うのだ。
順番は三番目。最初の方だ。すでに控室(そんな大層な部屋ではない)で準備していた。
「めっちゃ楽しみー」
と言いながら市井さんに抱き着いたりして遊んでいた。昨日の方が緊張していた位だった。逆に他の三人はすでに終わっていた。
「く、口がカラカラなのじゃ……」
あんなに余裕をかましていた樹木が緊張で使い物にならなくなっている。太田さんはずっと胸のあたりを抑えて黙っているし、市井さんは笑顔のまま顔が青ざめていた。
頑張れという言葉を軽くて使いたくなかったが、
「頑張れ」
というほかない。
アルファに「もっといい言葉ないのかよ」といじり交じりの突っ込みを受けたが、結局はアルファも「頑張れ」とだけみんなに伝えていた。結局同じじゃないか。
そんなこんなでステージの時間は着々と近づいていた。
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桜城生徒会長のどうでもいいあいさつがあり、ステージ担当者たちの軽い前説が終わると、いよいよ午後のメインイベントであるステージの部が始まった。
一組目、二組目と身内の声援が中心な、そこそこな盛り上がりで進んでいく。文化祭前に桜城が高いレベルの演奏をと息巻いたこともあり、去年の映像で見せられたような悪乗り的な盛り上りは今のところない。
肝心な演奏レベルといえば、突然出演者がプロ並みになる訳ではない。上手い下手なんてどうでもよく、みんな頑張っているなあというのが率直な感想だった。
「芳佳ちゃん達いよいよだねっ! なんか私も緊張してきたよ」
一ノ木さんは身体を揺らしながら、祈るように両手を胸の前で握った。
「お、俺達が練習をみてきたんだぜ。きっと上手くいくさ。なあレン!」
アルファが声を震わせながら俺の肩を叩いてきた。お前が一番緊張してどうする。
降りた緞帳の奥では、きっと佐藤芳佳、市井さん、太田さん、樹木の四人が準備をしていることだろう。どんな話をし、どうやって心を一つにしているのだろう。俺は、彼女達の姿を想像することしかできない。
仲間の成功を祈るという、アルファが持っているような気持ちがない訳ではない。頑張っている姿はずっと見てきている。絶対に成功して欲しいのは本心だ。
ただそれ以上に―――やっぱりどこか当事者感がないというか―――モブ的? いや視聴者的な立場をこのライブを楽しもうとしている自分がいた。
今から登場するのは、声優の葵聖と『ひまわりでいす』の『市井ゆう』だと、どうしても考えてしまう。
高校の文化祭でライブを観るという環境がそういう気持ちにさせているのかもしれない。
この世界に来てからもっとも強く―――佐藤芳佳と市井さんの存在を―――大好きな日常アニメ作品に登場するキャラとして認識しようとしている。
『次は地域研究部の演奏です』
そのアナウンスと共に幕が上がっていく。
楽器を構えて真剣な表情をする四人の姿が、そこにはあった。




