文化祭
リアルな文化祭の思い出は、特別ない。
高校生らしいイベントに青臭い反骨心で抵抗していた訳ではない。
クラスの出し物は覚えているし、そのために少しばかり手伝いしたことだって覚えている。
ただそれは情報として覚えているだけだ。感情は全く動いてなかったんだと思う。
いつの間に始まり、いつの間にか終わっていた。
それがリアルな俺の文化祭だった。
「眠いね。昨日は思ったより時間かかっちゃったね。帰り遅すぎてママに怒られちゃった。なんかこっそり徹夜したクラスがあったみたいだよ。副会長かなり怒ってた」
欠伸をしながら一ノ木さんは言った
「こっそり隠れてやがったのか。まったく、あれほど帰ってくれってアナウンスしてたのに」
俺はそう答えたものの、言葉ほど怒っている訳ではなかった。
どうせ昨日の一日限りだ。毎日仕事で徹夜をしている訳ではない。言ってしまえば
ただの学校行事。社会の中でも重要性なんて全くないイベントだ。
それに熱くなれる姿は微笑ましく、そして羨ましくもあった。
「昨日言ってたこのクラスの看板、ちゃんと間に合ったみたいだね」
「よかったな。作るの忘れてたって放課後に大騒ぎしてたからな。少し手伝ったかいもあった」
「だよね」
一ノ木さんは小さく拍手をした。
あれほど何も感じなかった文化祭。今回は違っている。
一つ一つの景色に、ちょっとずつ俺は関わっている。
このクラスは予算が足りなくて泣きついてきたとか、あのクラスは火を使いたくて最後まで生徒会室に交渉に来ていたとか、学園祭のポスターをどこに貼ろうとか、そんな小さな出来事の積み重ねがこの文化祭の景色を作っている。
そして、佐藤芳佳達のバンド演奏があった。
何も感じないなんて無理な話だ。俺は不感症ではない。もう一生は終っているけど、きっと一生の思い出になるに違いない。
死んだ後にまさかこんな経験をするとは思わなかった。樹木には感謝しかない。もちろん口では言わないけど。
「今日はそこまで仕事ないから楽でいいよね~」
グッと背伸びをする一ノ木さんを眺めつつ、やっぱりおっぱいそんな大きくないんだな、原作通りだな、なんて考えられるほど気持ちの余裕はできていた。
「芳佳ちゃん達とはもう話はしたの?」
「少しな。いつもよりは口数が少なくて、市井さんも太田さんもかなり緊張してる感じだった。いつも通りだったのはひかり(樹木)だけ。みんなガッチガチだった。アルファの手伝いをしている方がメインになったくらいだ」
「あはは、妹ちゃんらしいね。地域研究部の展示も思ったよりちゃんとしていたよね」
「なんかアルファにエンジンかかったみたいでな。会長に目を付けられるのも嫌だったし、ありがたい限りだよ」
アルファは佐藤芳佳の気合に当てられたなんて言っていた。俺も頑張らないと、と思ったそうだ。まあ、その気持ちは俺もよーく分かっていた。
文化祭のステージは午後イチからだった。身内が参加するというのに、どこか他人事で、当事者感がなくて、一人の観客としてワクワクしていた。葵聖のLIVEとして楽しもうとしてる自分がいた。久しぶりの感覚だった。
ステージ時の部が始まるそれまでの間、俺と一ノ木さんはその準備をしつつ、クラスの展示を見て回った。
一緒に食べたお化け喫茶のオムライスはそこそこの味だったけど、なんか面白いなと思った。




