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文化祭前日

 文化祭がいよいよ明日に迫っていた。


 ステージの結果発表から今日まであっという間だった気がする。毎日が激流だった。特にここ2、3日は帰るのが21時を過ぎている。社畜時代には普通だった時間であり、翌日にも若干の疲れが残る感覚は久しぶりだった。



 「いよいよだね」


 ステージの設営を手伝っている時だった。一ノ木さんが改まってそう言った。


 「さっさと終わらせて温泉でも行きたい。身体バキバキだ」


 そうは言ったものの、それほど嫌な疲れではない。半分冗談で言った。


 「あはは、わかる。すっごい疲れたよね。特に機材の搬入! 会長、間違いなく人の配置失敗してるよ。手伝ってくれる人少なすぎい」


「今日、桜城の奴、小鞠にめちゃくちゃ文句言われてたな。『先輩……☆(キレ)』みたいな感じで」


「雰囲気ちょっと真似したね。あはは、似てる」


「結局俺達の仕事量も、最初に言われたことよりも増えているし、意外と適当な会長だよなあ。エリート感出してるのに」


 まあ、それでも、高校生だと思えば十分凄いとは思っている。自分がリアルな年齢だった時にできるかと言われたら絶対に無理だ。コスプレ喫茶で並んでいるモブAが限界だったはず。今の俺はよくやっているとも言える。俺偉い。


「……レンくんってさ。落ち着いてるよね。頼りになったよ。前からすごく大人な感じはしてたけど。想像を超えて大人だったね」


「まあ……」


 実際おっさんだからね。年相応な落ち着きだということか。悪い気はしないが、なんとも複雑な気持ちではある。


「一ノ木のがすごいよ。特に気配りがすごい」


「なにそれ~。褒め方雑~」


 バシバシと背中を叩く仕草は、なんともおばさんみたいだが、照れている姿は、年相応でとても可愛かった。


 「そういえば芳佳ちゃんのライブの練習見せてもらったけど、選考会の時よりもレベルアップしてたね! 本番楽しみになったよ」


 「確かに……な」


 年相応なもう一人の人物である佐藤芳佳。


 選考会が終わってからの彼女は鬼気迫るものだった。


 原因は選考会の選評が伝わったことだ。


 「めっちゃ悔しい」と、合格したにも関わらず彼女はプンスカと怒っていた。もちろん、市井さんはじめ他のメンバーに当たるようなことはないが、アルファの足のすねをガシガシと蹴っ飛ばすくらいのことはしていた。


 審査の内容を伝えるなんて、昨年はしなかったことだった。桜城曰く、より良いステージにするためのアイデアとのこと。


 グルグル回せよPDCAと言っていた。覚えたてのビジネス用語を使いたくてしょうがないのだろう。


 とにかく、その評価に佐藤芳佳のプライドが傷ついたのは間違いなかった。時流がめちゃくちゃ厳しく採点を付けていたのだ。ステージで俺に話した内容と全然違う。佐藤芳佳に対してのアドバイスが多いこと多いこと。


 色々と技術的なアドバイスもあったようだが、個人的に『声色が男に媚びすぎている』というコメントには苦笑いしてしまった。


 佐藤芳佳の声は大好きなのだが、そこまで売れている声優でないのも事実だ。歌に関しても上手いことは上手いのだが、少しヲタク寄りというか、一般受けし難い感じだ。


 本人はその癖を消すように努力しているようだけど、微妙に可愛さが漏れてしまっているのは俺も気づいていた。


「この選評を書いた奴を絶対に見返して、最優秀賞を取るんだから!」と意気込んでいた。


 最優秀賞なんてないんだけど……。まあ観客で生徒達が盛り上がればいいなとは思った。


 佐藤芳佳が頑張ってきたのは間違いないのだから。


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