日曜日の練習日②
懐かしい曲だ。
それが最初の感想だった。10年近く前の曲だから当然とも言える。
いや、今はアップデートによりこの世界が2022年か2023年ということならば、15年以上昔の曲になっているはずだ。
10年一昔という言葉もあるが、15年なら一昔半前の曲と言ってよかった。
「懐かしいねえ。君たちがこの曲を知ってるとはね。私が中学生くらいの時かな。歌ってるオタクの子がいたなあ。凄い上手でね。気になってアニメも見たんだ」
山田先生が嬉しそうに話す。そう言えば山田先生は30歳にくらいだった。先生とは言っているが、転生前の俺と同じくらいの年齢だ。懐かしくもなるはずだ。俺もよくノスタルジックになるので気持ちがよく分かる。
演奏は、多少拙いところはあるものの、それでも佐藤芳佳の圧倒的な歌唱力もあって、文化祭で発表しても問題ないように思えた。もちろん、桜城の納得いくクオリティかと言われれば、もしかしたら周りの演奏技術が厳しいかもしれない。
「どうじゃったかの?」
演奏を終えた樹木が自信たっぷりに聞いてきた。
「まあまあかな。演奏はまだまだだけど」
「まあ……まあ!!!! 全く、音楽センスがない男はこれじゃから!!!!」
樹木がプンスカと怒っている。怒り方が漫画みたいだ。
残念ながらそこにお世辞はない。樹木の自信たっぷりの表情に釘を刺したかった訳でも、断じてない。
「落ち着いて、ひかりちゃん。紛れもない事実……」
汗を拭きながら太田さんは冷静に答えた。
「毎日練習してるけど、なかなか上手にならないよねえ」
市井さんもペットボトルの水を口に含みながら言う。素直に受け止められすぎても、なんだか申し訳ない気持ちが生まれる。俺言うだけだし……。演奏できないし……。
「先生はとっても上手だと思ったけどね。すっごい懐かしかったよ! なんでこの曲にしたの? 好きなの?」
テンション爆上がりな山田先生が捲し立てるように質問を浴びせた。確かに今の高校生がわざわざ昔の曲を選ぶ理由は知りたいはずだ。佐藤芳佳と樹木という特殊事情を知らなければ、俺だってきっとそうする。中年あるあるなのかも知れない。
「私が好きだから、みんなにお願いしました」
佐藤芳佳が嬉しそうに答えた。
「へえ~! アニメも知ってるの?」
「もちろんです! 30回は見ました!」
「す…すごいね……。オタクだね……。佐藤さんは、意外レトロ趣味なんだね」
「え、あ、あ、はい……」
佐藤芳佳は少し複雑な表情をしながら頷いた。
まさかレトロ趣味と言われるとは思わなかったのだろう。残念だが、二回のアップデートのせいで佐藤芳佳もアラサーになっているのだ。もし亡くならずに声優を続けていれば中堅どころ。結婚してファンを泣かせていてもおかしくはない。そういえば先生とほぼ同学年か。
「で、どーよ? 文化祭出れそうか?」
真剣な表情で聞いてきたのはアルファだった。演奏が出来ないから他人事という訳ではなかった。アルファはアルファなりに、このバンドの力になりたいと思っているのだろう。
「どうかな。正直、素人の俺でもあんまり上手いとは思わなかった。今年のステージは冷やかしのような演者を除外したい意向みたいだし、まだ厳しいと思うかな」
「レンの力でなんとかなんねえのか? コッソリ入れたり?」
それは俺も少し考えていた。今の立場を利用すれば出来なくもないと思ったからだ。理由なんていくらでも作れる。ただ―――。
「みんながそれで納得するとは思わない。それでステージに立っても―――きっと良い思い出にはならない」
「うーん、たしかにそうだな」
アルファも納得したようだった。佐藤芳佳達は、先ほどの演奏を聞き直しながら、あーでもないこーでもないと話し合っている。彼女達の頑張りに砂をかける様なことをしてはいけない。
「俺達はどうするよ」
アルファが聞いてきた。
「表の出し物、地域研究部の展示物をしっかり作ろうぜ。先生や生徒会に難癖付けられてもいけないし」
「だな」
「あと、アイスでも買ってくるか。みんな暑そうだし、俺も食いたいし」
「だな!!!」
俺とアルファは意気揚々とコンビニに駆け出した。
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