日曜日の練習日①
休日の時間感覚というのは、どうして壊れた速さなのだろうか。
昨日は『ひまわりでいず』談義で半日があっという間に過ぎてしまった。しばらくすると市井さんとエンカウントすることとなり、今日の話が話題の中心となった。
「お、起きたね。おはよー」
買い込んでいた有名パン屋のクロワッサン齧り、樹木が淹れたコーヒーを飲み干す。まるで我が家のようにくつろいでいるのは市井さんだった。
「今日は早かったのう。起こしに行く手間が省けたわ」
「練習するって約束したんだからちゃんと起きる」
せっかくの日曜日、本当はお昼くらいまで寝ていたい。いや、寝させてくれ。
「えらい! その意気込みがあればバンドの成功間違いなしだね」
褒めてくれてありがとう。樹木にもその心意気があれば、もう少し爽やかな朝が増えるのだが。
今日は地域研究部によるバンドの練習日になっていた。どこからか地域研究をしろよという声が聞こえてきそうだが気にしてはいけない。
しかし、顧問である山田先生も快くバンド練習を快諾してくれており、しばらく高校にある空いている音楽スタジオを使わせてくれることになった。放課後もそこで練習を始めたようだ。
もちろん俺は文化祭実行委員会の仕事のため放課後の練習には参加したことがない。というか今日のバンド練習が初参加だったりする。
ん? 市井さん、もしかして食パンも食べてる? しかも6枚切りの厚めのやつだ。どんだけ食べるんだ。朝から元気だなあ。
「ほれほれ、お兄ちゃん。さっさと食べないと九時に間に合わなくなるぞ」
文句は多いが、なんやかんやでこの樹木の面倒見の良さはありがたい。食後の洗い物を手伝うだけでここまでしてくれるのだ。ありがたい死神だ。
「ほれ、時間を間違えて焦がした食パンじゃ! 真っ黒だが、多分食べられるぞ。勿体ないからの」
「…………焦げてないのをください」
***
約束の時間は九時に学校だった。佐藤芳佳、アルファと太田さんはすでに先に到着しており、山田先生を呼んできてくれていた。
「よーし!! みんな揃ったね」
山田先生が先陣を切り歩き出した。俺達はぞろぞろと一体感もなく後をついて行った。
音楽専用のスタジオ棟がある辺り、この高校の大きさを改めて感じる。
***
「じゃあ練習の成果を披露するよ!!」
「わーー」
パチパチと座った山田先生が拍手をする。俺とアルファも一応拍手をする。
音楽に関しては本当によく分からない。アニメと漫画で得た少ない知識でなんとか伝えられればと思う。
ボーカルは佐藤芳佳、ギターは樹木、ベースは市井さん、ドラムは太田さんだ。楽器とかの機材は学校からのレンタルと聞いていている。樹木は買ったようだが。
俺とアルファは見学だった。もちろん、俺は実行委員会の仕事が忙しくて参加できないのが原因だ。
「くぅ……俺も演奏したかった……」
身体を震わせ悔しそうにしているアルファに関しては、単純に音楽センスがマイナスを振り切っていたからギターを外されたそうだ。
「本当にごめんね。ちょっと音鳴らさないで……」
という太田さんからの痛恨の一撃により泣く泣くギターを断念したとのこと。「下手なのはいいけど、主張が激しすぎて手に負えなかった」とは佐藤芳佳の談。それならしょうがないね。アルファには地域研究部としての本来の出し物を頑張っていただくことになった。
ドラムのカウントが始まり、樹木の空気の読めないギターソロから演奏は始まった。太田さんの流れるようなドラムさばきによって生まれた音の圧に圧倒的され、市井さんの細い指先から、見た目に反するほど魅力的な低音が生まれる。
そして―――佐藤芳佳が歌い始めた。曲は『氷川ルイの焦燥』の劇中歌であり、文化祭で披露した曲だった。
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