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大好きな日常系アニメの中に転生したようだが  作者: しんしん
バージョン1.01
54/77

花火大会⑥

 佐藤芳佳さとうよしかは「久しぶりだね!」「どうしたの?」とテンション高めな感じで一ノいちのきと会話をし始めた。


 そして僕は会話から押し出された。女の子同士の会話とはこうも参加しにくいものなのかと感じる。最近は女の子に慣れてきたかなと思っていたが、どうも勘違いのようだ。


 二人の様子を離れて見守る。事情を知らなければ、二人はただの友達にしか見えない。


 一ノ木達から市井さんを引き離すことに成功したとはいえ、佐藤芳佳は一ノ木に対して警戒心はあるようだった。あからさまに態度に出さないが、僕達といる時より少し一生懸命に喋る。


 きっと、市井さんを見せないようにしているのだろう。


 その姿が少し微笑ましい。本人に言ったら本気で怒るだろうけど。


「遅いなあ。もっといい場所があるのに。花火終わるぞ」とやって来たのはアルファだった。


 佐藤芳佳もアルファの存在に気付いたようで、


「ごめんねー、一ノ木さん。またね!」


 と会話を切り上げた。


 一ノ木が、


「またね」


 と軽く手を振った。その姿はアニメでよく見た姿だった。

 放課後で雑談をし終えた一ノ木はよく「またね」と手を振った。そして市井さんも、それに応えるように「またね」と言った。声が一緒というのは凄いことだ。アニメの中にいるという実感が久しぶりに湧いた。


***********


 アルファの後について裏山を登った。ほんの5分くらい。すぐに開けた場所に出た。


 そこはとても不思議な場所で、先ほどまでいた地元民的な人も、観光客と思わしき人達もいなかった。僕と佐藤芳佳と市井さんに樹木じゅもく。アルファに太田さんだけ。


 市井さん達は「凄い! 凄い!」と歓声を上げながら花火を見ていたが、こちらに気付いたようで「レン君と芳佳ちゃんも早く!」と手招きした。


 特等席で見る花火は格別だった。


 他に邪魔をするものがない、仲の良い友達グループだけで見る花火大会。正直、死んで良かったとすら思ってしまった。生きていた時、ここまでの幸せがあったのだろうか? いやない。


 「ねえ」


 ふと、佐藤芳佳が声をかけてきた。


 「『ひまわりデイズ』の漫画の最終回って読んだ? アニメと一緒なのかな?」


 自分も流石に「終わらずに社会人編に突入しているらしく、11巻まで出てるよ」とは言えなかった。樹木じゅもくはサラッとネタバレしたが、そもそも『ひまわりデイズ』は6巻で最終回を迎えると予告されていたのだ。


 アニメの爆死と共に終わった(予定だった)悲しい作品なのである。


 そして―――その最終回の予定だった回が、市井さんの転校に変わったなんて。佐藤芳佳のーーー葵聖あおいひじりへの別れの言葉が綴られているなんて。


 とても言えない。


「最終回、読みたい?」


 僕はそう聞いた。質問に対しての答えになってないが、許して欲しい。


「うーん……」

 

 佐藤芳佳は少し迷っているようだった。


「よく分からないなー」


 困ったような笑顔を見せながらそう言った。


「内容によっては見てもいいかもー!」


「そうか……わかった……。終わらずに社会人編に突入している。しかも11巻まで出てる」


 僕はそう言った。


「え!!! ほんとに!!!」


「嘘だよ」


 ここまで驚いた佐藤芳佳は初めて見た。目が飛び出る勢いで開いていた。思わず嘘だと言ってしまった。佐藤芳佳を傷つけてしまったと思ったからだ。


 ポカポカと僕の頭を殴ってくるが、残念ながらダメージはない。痛くも痒くもない。


「でも……それなら読んでみたいかも」


 と花火のような笑顔で佐藤芳佳は微笑んだ。その笑顔を見て、僕はホッと胸を撫で下ろした。


「分かった。後で渡すよ」


「うん、ありがとー」


 巻末の別れの言葉を、佐藤芳佳はどう読むのだろうか。


 僕の勝手な考えかもしれないが、巻末の別れの言葉は、葵聖にとって大事な言葉になると思った。

読んでいただきありがとうございます。またブックマークありがとうございます。


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