花火大会⑤
花火を見ながら僕と樹木はみんなを追いかけた。
しかし、ピークに達した観客たちの間を掻き分けるのは想像以上に大変で、いつの間にかみんなを見失っていた。
「はあ……はあ……市井さん達どこいった?」
「わからんの。電話してみるか?」
いつの間にか握っていた樹木の左手から自分の右手を開放し、スマホを取り出した。
「すごい手汗だな。スマホが壊れる」
「暑いからしょうがないじゃろう」
佐藤芳佳に電話をかけることにした。相変わらず花火の音は大きく、体中に響いてくる。言ってしまえば全身バイブレーション中だ。花火と観客の声によって着信音は掻き消され、そして常に体が震えているこの状況でスマホに気付いてくれるだろうか?
願いを込めてタップする。
「もしも~し」
着信時間なし。佐藤芳佳だ。出るの早いな。
「うしろうしろ~」
続けて佐藤芳佳はそう言った。後ろだと?
「おお芳佳だ! 助かったの!」
樹木が跳ね上がって喜び、佐藤芳佳はにっこりと微笑んだ。
「よかった。迷子になるかと思ったよ」
「二人を連れてくるようにと命令がありましたので。みんなは先に行ってるってさー」
「ありがとう」
「ささ~、早く行くよ!」
佐藤芳佳はそう言うと、樹木の右手を掴んだ。二人は楽しそうに人ごみをすり抜けていく。僕はその後についていった。先程までの苦労が嘘のように前に進む。人混みが二人を避けているようにも感じる。佐藤芳佳はモーゼの末裔なのだろうか。
道の両側には出店が並び、家族連れや友達同士、そして付き合っていると思われる男女が、時には足を止めながら花火を見ている。みんな幸せそうだ。
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しばらく歩くと、裏山の入り口まで来た。あんなに多くいた観光客達はほとんどいなくなった。いかにも『地元民です』という人達だけが花火を見ている。観光客が少ないのはこの雰囲気のせいだろう。
「あれっ? 松本君じゃん」
呼ばれた方を見ると、原付バイクに腰かけた一ノ木 青花がいた。まさかの出会いだ。
「久しぶり。一ノ木さんも見に来てたんだ」
作品の中ではよく知っている一ノ木だが、クラスメイトとしてはまだまだ出会って3か月の異性だ。話すだけで緊張してしまう。断じて女性経験の少なさから来るものではない。
「もち! 松本君達はいつのメンバー?」
「そう」
「相変わらず仲いいね!」
「そうだね。一ノ木さんも友達と来てるんじゃないの?」
「予定が合わなくってねい。あのニャロメどもですよ。だから原付の試運転も兼ねてね」
「原付……乗るんだ……?」
作品内では語られてない趣味だった。それとも最新刊では登場しているのか? 途中で読み止めず最後まで読めばよかった。
「夏休みに免許取ったんだ。最近釣りとかキャンプとかしたいなと思って。とりあえず手始めに原付の免許を取ってみたってわけさ」
「すごいね。アクティブだね」
もっと気が利いた返しは出来ないものかと思ったが、自分の性格的にしょうがない。やはり自分が知らない一ノ木の趣味だった。元々放課後の教室で話をしているだけの『THE帰宅部』だけあってアウトドアとは無縁のはずだった。
アップデートの影響で少し性格が変わったのか? そんな考えも脳裏によぎる。
「何ナンパしてるのかと思った。一ノ木さんじゃん。久しぶり~。元気だった?」
話に入ってきたのは佐藤芳佳だった。
読んでいただきありがとうございます。またブックマークありがとうございます。花火大会編は次でおしまいです。




