花火大会④
花火が始まった。大きな音と共に、1発2発と光の花が咲く。結局人ごみに紛れながらの鑑賞になってしまった。
「キレイだねえ」
市井さんがかき氷を頬張りながら感嘆の声を上げた。本当にその通りだ。近くで見る花火がこんなにもキレイだなんてすっかり忘れていた。
「そうですね……」
太田さんが大人気女児アニメのお面を被りながら力強くうなずいた。右手に救い出した金魚を持ち、左手に綿あめを持っている。その姿はまさに歴戦の花火大会マスターと言ったところか。綿あめ頬張りながら、さらに言葉を続ける。
「一発一発の太鼓の音がお腹の底に響きます……。そう……まるで太鼓のように……。なんて言うんですかね……。人の域に留めておいた私の感情が、本来の姿を取り戻していきます……。ストレスにに満ちた社会という呪縛を解いて、学生ではなく、幼児に近い存在へと変わっていく。大地と夜空と夜店を紡ぎ、花火大会という巨大なうねりの中で、自らをエネルギーを花火に乗せて爆発させる。純粋に花火を楽しみたい、ただそれだけのために...。モグモグモグモグ」
どうした? 太田さんどうした?どこかで聞いたことがあるようなセリフのような気もするが、何か名言の引用だろうか。
「なるほどなっ☆」
アルファが誰よりも早く相槌を打つ。え? アルファ今の意味が分かったの? まあ、分かったならいいか……。
焼き鳥を幸せそうに頬張る佐藤芳佳については、まあ何というか楽しそうで何よりである。おっさんにしか見えない。
「ふっふっふっ、人が少ない絶好の場所があるんだが、みんないかんか?」
突然、樹木がそんなことを言い出した。
「え? そんな場所あるの?」
皆が驚きの声を上げる。
「ここから近いのか?」
僕は樹木に聞いた。
「お兄ちゃんよ、それで『ひまわりデイズ』のファンを名乗るとは片腹痛いのう」
「花火大会の話なんてなかったぞ」
「あ! そうか! 分かった!!」
何かを思い出したか、市井さんが声をあげた。
「あー!裏の山か~~」
佐藤芳佳が続く。
「芳佳ちゃんも知ってるんだ! そう! あそこいつも人がいないんだよね!」
「正解じゃ! さっそく向かうぞ。案内はゆうに任せた」
「よーし、ひかりちゃん(樹木)に任された! みんないくぞおー」
市井さんが皆を引き連れ、ズンズンと人の波を掻き分けていく。
「レン、まだ思い出せんか?」
樹木がいたずらな笑みを浮かべる。
「まったく分からん。そもそも作中で花火の話なんてしたことないはずだが。アニメ化されてない部分か?」
「ふふーん、アニメ化してるぞ。5話だ」
「5話? 5話……」
その時、僕に電撃が走った。
「それは前半部、『穴場』というキーワードと共に4人が放課後の教室で雑談をしている回だ。いつも通りとも言える。最近出来たカフェや体育館の裏手にある駄菓子等々の話題が上がる中、市井さんだけ『裏山』と答える。そして「どこのよっ!」という突っ込みが入る。やはりいつものやりとりだ。市井さんは小声で「花火大会をやるとこだよ」と答えるが、チャイムの音で搔き消されてしまう。少し天然な市井さんが垣間見える微笑ましいシーンである。まさかここだったとは……」
「久しぶりの語り口調お疲れ様だな。相変わらずちょっと引くぞ」
「ありがとう。なるほどね、それで佐藤芳佳も気付いたのか」
「そういうこと。さあさあ、置いてかれてしまうぞ。私も場所までは知らんのじゃ!」
「そりゃまずい!」
僕と樹木は必死に皆を追いかけた。
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