花火大会③
日が沈み辺りはすっかりと暗くなった。雨の匂いはわずかに残り、蒸し暑さが戻り始めていた。
「ねえ、何食べよっか!」
市井さんのテンションが上がり始めている。無理もない。道一杯に並んだ屋台を見れば誰でもそうなってしまう。花火の打ち上げまでにはもう少し時間があった。いい席で見たいという気持ちもあり、会場である河川敷に向かったものの、すでに隙間なく人で埋め尽くされていた。そりゃそうだよなと思った。
僕たちは当初の予定通り、ブラブラ食べ歩きながら、その辺で花火を見ることになったのだった。
「あー困っちゃうね!! 焼きそばとたこ焼きとフランクフルトとリンゴ飴と焼きそばが食べたい」
「お店選びは慎重ではなくてはいけません……。屋台は一期一会です」
市井さんと太田さんがウンウンと悩んでいる。市井さんが焼きそばが食べたいのは伝わって来た。
気持ちは分かる。僕もそんなに決断が早い方ではない。行動が速い樹木とアルファはすでにかき氷を頬張っているが、あの二人を基準にしてはいけない。あいつらが速すぎるのだ。
「唐揚げと~ビールでいいんじゃない?」
「まあ、それが安定だろうな」
流石の佐藤芳佳である。王道を行く。その提案を待っていた。花火! ビール! 唐揚げ! そして浴衣! まさに3種の神器! 4つあるような気がするが気にしない。隠し武器である。そんなにお酒を飲む方ではないが、こういう雰囲気の時は飲むようにしていた。
唐揚げを注文し、いざビールを! と思った時、ふと我に返った。
「おい、僕達高校生じゃないか」
「あ、そうだったね。うっかりうっかり」
佐藤芳佳も慌てたように言った。
「長いボケだったね!」
「高校生がお酒を飲んではいけません」
「「モグモグモグ」」
市井さんと太田さんがケラケラと笑っていた。樹木とアルファは唐揚げを食べている。僕は仕方なくコーラを注文した。
ボケだと思われていたようだがボケではない。久しぶりに大人でないことにガッカリしてしまった。こっそりコーラにアルコールを入れてもらおうかと思ったが、そこまでしたらアルコール中毒者の行動のようだと思いやめた。
佐藤芳佳を見ると、ジッとビールサーバーを見つめいてる。諦めきれないのだろう。
「ウーロン……ハ……、いやコーラ……ハ……いやいや……」
ソフトドリンクの後ろにどうしても『ハイ』を付けてアルコールを入れようとしている。
「生……生……ウーロン茶です……」
「あはは! 芳佳ちゃん面白い」
市井さんをはじめ女の子たちは笑っている。しかし、佐藤芳佳的にはガチの心の格闘なのだろう。こいつ、一人の時はコッソリ飲んでるような気がする。
「はいよ! お嬢ちゃんにはフランクフルト!」
「ありがとう!」
市井さんはフランクフルトと注文したようだ。嬉しそうに頬張っている。何気ない仕草ではあるが、これがアニメや漫画ならきっと大事なシーンとなるはずだ。
「ほら、乾杯。ビール残念だったな」
僕は佐藤芳佳のコップに挨拶した。
「ははは、飲みたかったな。カンパイー」
残念そうな佐藤芳佳の顔がなんとも面白かった。
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