花火大会②
登場する作品は実在の作品ではありません。完全にフィクションです。ネタバレ等作品内容への言及もありませんし、類似するような表現もありません。安心してお読みください。
「ねえ、今から曇るよ?」
「そりゃあ、あの入道雲を見れば誰だって分かるぞ」
樹木が特に意味のない情報を伝えてきたが、何か元ネタがあるのだろうか。まだ見ていない(やっていない)作品のネタをぶっこむのは止めていただきたい。
電車の窓から外を見ると、大きな大きな入道雲が空を覆っていた。先ほどまでの青空が嘘のように、辺りは薄暗くなり始めていた。
「あ、雨が降って来た。花火が始まる前に雨が止むといいね」
「そうだねー」
「新しい浴衣……濡らしたくないです」
「濡らしてこそ浴衣とも言えるぞ」
今僕たちは隣の市で開催される花火大会の会場に向かっていた。
「やっぱりは浴衣は最高だなあ……」
話している女性陣を眺めながらアルファがポツリと呟いた。全くその通りである。
「ホントだよな。夢みたいだ」
アルファの言葉に熱く同意をする。
市井さんは黄色と青を中心とした花柄だ。着こなしも崩すことなく大人っぽくまとめている。上げた髪型がとてもかわいい。普段見ることが出来ないうなじがハッキリと見える。これぞ王道の浴衣姿である。
一方、佐藤芳佳だ。スクール水着事件のせいで少し警戒していたが、全くの杞憂だった。赤とピンクを中心とした少し派手目な浴衣であるが、とても可愛い。わざと少し気崩しているせいもあり、いつもより少し色気を感じる。やっぱり声優さんは凄いなあとファン目線に戻ってしまう。
太田さんも樹木も、少し子供っぽい浴衣ではあるが、それも新鮮でとてもかわいい。
なんだか今日はかわいいしか言ってないな。
しかし、一緒に花火大会に向かっているのに第三者目線になってしまうのは、やはりこのような経験の少なさからくるからだろうなと思った。
雨が少し強くなってきたようだ。窓の外は雨粒で見えない。扉が開くたびに雨の匂いとゴロゴロという雷鳴が車内に広がった。
「なあ、さっきの樹木が言ってた『今から曇るよ?』っていうのが何のネタか分かるか?」
僕は佐藤芳佳になんとなしに聞いた。
「え、うん。『曇りの子』ってアニメだよね。樹木ちゃんにオススメされてブルーレイで見たよー」
「アニメなのか。聞いたことないなあ。タイトルくらいなら結構知ってるんだけどな」
「知ってる方が怖いよ。私達が死んだ後の作品だからねー。映画で、凄いヒットしたらしいよ。2018年?だったかな」
「たしかに2018年頃は死んでるな」
「あははっ、でしょー」
そう死んでいるのだ。死んでいる時期のことはもちろん知らない。樹木がこの世界を2020頃仕様に少しアップデートしたとの話だが、スマホを始めとした細かい備品の変化くらいで、世界に発信されている情報自体は2015年頃のままのような気もする。
ふと、一つの事が気になった。
「そう言えば、『劇場のアヴァ』の最新作って公開されたか聞いた?」
『劇場のアヴァ』とは90年代に社会現象にもなったアニメだ。専門用語満載のよく分からない作風と、終わったようで終わらない物語が特徴で、2005年に映画として作り直している作品だった。何を隠そう、自分がアニメを見るようになったきっかけの作品であり、良くも悪くもアニメを見続けていた元凶であった。
「あー!! ずっと延期してたよね。私もちょっと気になるな」
佐藤芳佳の言う通り、何度も何度も延期をしている作品だった。いつ終わるのか? 生きている内に完結を見れるのか? と思っていた作品だった。
「なあ樹木、何か知ってるか?」
「ようやく2020年に公開されたぞ。私はまだ見てないがな」
「ホントかよ!! 見たいなあ。アップデートでなんとかならないのか?」
「死神でも映画泥棒はできんぞ。ブルーレイ化されるまでちょっと待て。買ったら持ってきてあげるから」
「善悪の基準が分からん。でも楽しみしてるわ」
『次はかんのう~、かんのう~』という車内アナウンスが流れた。どうやら目的の駅に到着したようだ。雨は小降りになっている。
遠くの空には夕日で赤味がかった青空が見え始めていた。
「なあ、今から晴れるぞ」
「そうだろうな」
心が弾む。いちいちネタを入れないと気が済まない安定の樹木であるが、晴れることはやっぱり嬉しいことだった。さあ花火大会を楽しむこととしますか。
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