僕の知らないひまわりでいず③
こちらの世界に来て4か月。最近は忘れがちになっていた、僕と佐藤芳佳の『死』という事実だった。
僕には心を痛めるような仕事仲間や友人知人もいないが、佐藤芳佳は当然違う。ある程度名の知れた声優さんである。
作者のあとがきには、市井さんのイラストと共に、声優『葵 聖』への感謝と『市井さんの転校』を描くことになった理由が書かれていた。
作中で登場人物達が市井さんに伝えていた言葉は、担当した声優さん自身の別れの言葉であること。そして、特に印象に残った一文があった。
「市井ゆうというキャラクターには、もっとふさわしい場所があって、それはここではありません。彼女にはもっと幸せになって欲しいのです」
それは、以前に佐藤芳佳が話していた『無理してみんなと合わせている』という設定のことだろうと思った。この事実を知っているのといないのでは、言葉の捉え方が違う。この設定を作った作者なりの罪滅ぼしだったのかもしれないと思った。
市井さんを幸せにすることで、作者は佐藤芳佳の冥福を祈ったのだ。
僕の目からは、いつの間にか涙が溢れ出ていた。
佐藤芳佳は、周りと仲良く出来なかったと言っていた。それでも、こんなにも彼女の死を悔やむ人たちがいる。それは、彼女が一生懸命に仕事に取り組んだ結果だ。学校のような仲の良さではないが、それでも信頼関係は結ばれているという奇妙な人間関係。社会人としては正しい人間関係を構築していたのかもしれないと思った。
インターホンが鳴った。宅配か郵便か。通販で何か買った覚えはないが。いや、樹木が買ったのかもしれない。
上着の袖で涙を拭い、玄関に向かった。佐藤芳佳には、この事実についてしばらく黙っていようと思った。タイミングを計って話そう。刺激が強すぎる。幸いにもこのデータは僕だけにしか渡してないそうな(樹木談)。
またインターホンが鳴った。おいおい、ちょっと急かし過ぎですよ。今出ますからちょっとお待ちを。涙が完全に止まってないのですよ。再配達表は入れないでね。
「ちょっと待ってくれー。今出るからのー」
大声で対応したのは樹木だ。それだったら樹木さん、代わりに対応してくれませんかね。
またインターホンが鳴る。わかったって!! 今出るから!! すぐ出るから!!
急いで玄関を開けると、
「よっ」
「おお……。いいタイミングだな」
短めのスカートとTシャツというラフな格好をした佐藤芳佳がそこにいた。
「あははっ。めっちゃ目が赤いねー。何か見てたの? イヌえもん?」
「イヌえもんで泣いたことないわ」
「ええ! 絶対泣くよ!! じゃあ何で泣いたの?」
「……ク、クラウドのアナザーストーリー?」
「また懐かしいの見てたなあ。あははっ、あれは泣くよねえ、分かるよ。人生だからね」
腕を組みをし、うんうんと頷いている。何しに来たのかは分からないが、とりあえず貴女の事を考えて泣いていたとは言えないのである。
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