僕の知らないひまわりでいず①
ラブコメの波動に包まれた部室は、佐藤芳佳と市井さんの到着によって、8月10日に開催される花火大会の打ち合わせ会場に変貌した。
とんだとばっちりで禁断の兄妹愛の物語されそうになったが、そんな心配は無くなるくらいに普段通りの会話が展開された。もちろんアルファと太田さんについても。
それはもう昨日の話。今日は8月4日だ。楽しい一日は過ぎるのも早い。夏休みは残り26日。一日一日大事に使う必要がある。
今日はとても大事な用事があった。
それは『ひまわりでいず』を読むこと。そう、僕の知らない5年間の物語を読むことだった。
スマホ起動し、指定されたファイルを開く。確かにそこには『ひまわりでいず6~11巻』と書かれたファイルが保存されていた。
樹木は隣の部屋でオンラインゲームをしている。絶対に僕の部屋を覗いてはいけないと伝えてある。
「レンは鶴だったのか?」
という古臭い冗談には突っ込む気力も起きない。単純に僕の気持ち悪い顔を見せたくないからだ。とにかく、この作品を嗜んでいる時の僕は気持ち悪い。お見せできない顔をしている。これだけは紛れもない事実だ。
僕が知っている『ひまわりでいず』は単行本だと5巻まで。月間連載を追っていたため、実際は6巻の途中までは内容を知っていることになる。その時点で高校1年の3学期が始まった時だった。実はアニメの方は時間を飛ばし、3学期の終了までを描いている。いわゆるオリジナル部分だ。アニメはそこで最終回を迎える。変わらない日常がいつまでも続くことを示唆しながら。
それはそうとして、僕の知っている原作の『ひまわりでいず』は6巻の途中、3学期開始時点までということになる。「社会人編に突入している」という樹木の迂闊なネタバレが、僕が続きを読むことへの足かせとなっていた。樹木め、許すまじ。
心を強く持ちながらファイルを開く。
『一ノ木 青花』と『高山 羽希』『竹下 雪絵』そして『市井 ゆう』。
何度見たか分からない人物紹介。懐かしいようで、懐かしくない顔ぶれ。特に市井さんに関しては、なんだかテレビに出演した友達のような、とても不思議な感覚に陥る。
ページをめくる度、どんどん作品の世界に吸い込まれていく。ただただ4人が喋っているだけなのになんでこんなに面白いんだろうと、思わず顔が緩んでしまう。変わらない女子高生たちの日常がそこにはあった。
今この作品の世界にいるのに、全く違う世界の物語のように楽しんでしまっていた。市井さんの反応が、僕たちと一緒にいる時と違うのも気にならなくなっていた。
6巻も終盤に差し掛かった時だった。心躍らせながら次の話に進んだ時、あまりの衝撃にスマホを落としそうになった。
『市井さんの転校』
その文字が目に飛び込んできた。
「え!!!! 市井さん転校すんのっ!!!!!!???」
「びっくりしただろー」
樹木が扉の向こうからコッソリのぞいていた。だから開けるなってー!!!
読んでいただきありがとうございます。またブックマーク、点数ありがとうございます。
冬の童話を投稿しましたのでよかったら読んでみてください。




