久しぶり部室④ラブコメの波動後編
少しずつクーラーが効いてきた。わずかな時間だけというのに部室内の熱気にやられて汗が噴き出していた。それでも当初の男だらけが生み出した汗臭さよりはマシだ。
「暑いなあ、暑いなあ、喉が渇いたなあ」
と樹木は机に突っ伏し呟いている。実は職員室に行く途中にコッソリと人数分の飲料水を購入しているのだが、このままにしていても面白そうなので、もう少し後に出そうと思った。ふふ、久しぶりにSの血が騒いでしまったぜ。
「レン、さっきジュース買ってただろ? あれもう飲んじゃおうぜ」
最強最速の計画ブレイカーである。まさか見られていたとは。アルファ、その優しさが誰かを傷つけていることを君は知らなくてはいけない。一本『Master』という強力なエナジードリンクを反射的に購入してしまったが、これはアルファに差し上げよう。
「初めて飲んだが、凄い味がするな」
との言葉。今日は24時間戦えるぞ。社畜時代を経験した僕が保証する。
「太田さんは何がいい? 炭酸飲める?」
「はい……ありがとうございます……。えっと、私は最後でいいですよ……? レン君が好きな物で」
「気にすんなよ。基本的に自分が好きなの選んでるからさ」
「そうですか……。ありがとう」
太田さんは頭を下げながら俺から炭酸飲料を受け取ると、アルファの向かいに座ってチビチビと飲み始めた。仲良くしている間とは言え、こうやって感謝されるのはやはり嬉しい。
樹木を見ると、勝手に俺の鞄から飲み物を取り出し、腰に手をあて、豪快に飲んでいる。本当に人それぞれだ。
俺も飲もう。残っているのは無駄に容量だけでかい麦茶だ。一口、二口と麦茶を飲みこむと、体の中からスッと冷えていくのが分かった。喉の渇きが引いていく。汗をかいていたせいか、いつもより美味しく感じる。
「キャ……!」
小さな悲鳴の方を見ると、太田さんが飲み物を少しこぼしていた。手が滑ったのだろう。たしかタオルを持ってきていた、拭いてあげよう。僕がそんなことを考えた時だった。
「太田さん大丈夫!!!」
稲妻のごとく反応したのはアルファだった。持っていたハンカチを勢いよく取り出すと、烈火の勢いで拭き始めた。
「え、そんな……」
控えめな太田さんは思わずアルファの動きを静止した。そう、それが全ての原因と言っていい。
二人の両手が絡み合うように触れ合ったのだった。
元々太田さんが好きなアルファの気は動転し、すぐに手を引っ込めて黙り混むと、そのただならぬ雰囲気を察した太田さんも俯き、顔を真っ赤にしてしまった。
樹木はまだ飲んでいる。とてもうまそうにジュースを飲んでいる。
これがここまでの経緯だ。
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そう! ただ手が触れ合っただけなのだ!! 手が触れ合った!! だけ!!!!
「なあ、樹木。手を貸してくれないか」
「ん? 何かあるのか?」
僕は樹木の手を握りしめた。
「なんじゃー? 突然恥ずかしいの~」
なるほど、樹木も少し面白い反応をしている。よくよく考えれば現実世界の日常においても恋愛は自然に溶け込んでいる。日常系アニメの世界とは言え、ちょっとした切っ掛けで日常はラブコメへと変化してしまう。
「きょ、兄妹でなにしてるんだお前ら!」
「な、仲が良いですね……」
アルファと太田さんの言葉で僕はハッとした。
しまった! 樹木と手を握りっぱなしにしていた。急いで手を振り払う。ラブコメ展開のどばっちりだ。血のつながらない兄妹愛ルートに入るのだけは阻止しなくてはいけない。ラブコメの波動に巻き込まれてはいけない。
読んでいただきありがとうございます。またブックマーク、点数ありがとうございます。気楽に読んでいただけるとありがたいです。




