知っている街
やってきました池袋。相変わらず目眩がするほど人が多く、久しぶりに降り立った僕は、その波に乗れずただひたすらに人の波に流されていった。
「どうせ一人なんでしょ?」という心を抉ってくる誘い文句に僕は乗った。同じく『現実世界』からやって来た佐藤芳佳なら、どこまで『現実世界』と似ているのか、という今回の遊びの目的を十分に理解してくれると思ったからだ。
「サンシャイン行きたい!!」
どこに行こうか聞こうとした瞬間のことだった。楽しそうに東口の方向を指差す。
「いいんじゃないかな。文句なし」
「やったー」
佐藤芳佳が飛び跳ねるように歩き出す。池袋と言ったらサンシャイン。安直だ!と怒りの声が聞こえてきそうだが、池袋と言えば個人的にはサンシャインなのである。単純に僕が高い所が好きという事情もある。なかなか気が合うな、佐藤芳佳。
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「おい、佐藤芳佳」
「どしたのー?」
女性もののオシャレな? 洋服を手に持ったまま佐藤芳佳はこちらを振り返った。
「展望台行かないのかよ」
「え、行かないよ」
うーむ、前言撤回。てっきり展望台目当てだと思ってたのに、まさか洋服の買い物に付き合わされるとは。すでに一時間以上は洋服を見ている。
女性の買い物がこんなに長いとは思わなかった。女性とデートなんて高貴な遊びはしたことがないので知らないのも当然と言える。その程度のコミュニケーション能力でよく営業職が務まったなと我ながら感心してしまう。
「見て! この柄可愛いよね!」
「うむ」
「あー、でも、こっちのが可愛いと思わない?!」
「うーむ、うむ」
「でも値段がなあ、どう思う?」
「うーむ、うむ、うーむ」
「そっかあ……」
困った。心底どうでもいい。さすがに全裸のが良いですとは口が裂けても言えない。ちょっと眠くなってきた。展望台行きたい。高い所! 高い所に行きたい! モテないのが良く分かる思考回路である。佐藤芳佳がなにやら考え込んでいるようだが、どうせこの服を買うかどうかで悩んでいるのだろう。眠いし展望台行きたいし、やっぱり眠い。ボーッとしてきた。
「……展望台行く?」
「いく!!!いく!!!いく!!!」
思わず大きな声が出てしまった。突然の思わぬ提案に興奮してしまった。入学したての小学一年生が、初めての授業で物凄い勢いで手を上げる様に似ていたかもしれない。
やってしまったと思った。恥ずかしい。
「……………転生前は何歳だっけ?」
僕を見る佐藤芳佳の表情が非常に冷たい。
「32歳です……」
「恥ずかしいね」
さすが声優『葵 聖(アオイ ヒジリ』素晴らしい。怒りを含みながらも冗談交じりなのがよく伝わります。分かりました。反省はします。
でも、その声色、ちょっと気持ちいいです。




