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【2】それって初体験?

第2話は少し長いです。

読みづらい場合は、数回に分けてお読み下さい。

 新学期が始まってあっと言う間の4週間。

 麗らかな日常は、どこか平穏で何故か焦燥感に満ちている。

 サツキには判っていた。

 高校へ入ると、男女の関係がよりハッキリしてくる。

 もちろん仲のいい異性の友人もそれなりにできる。

 しかしそんな事で満足している場合じゃないのだ……

 穏やかな春風に誘われるように、それ以上の関係になる連中を幾人も見かけた。

 やっぱり中学とは違う、明らかな男と女の付き合い……

 確かに中学の時だって、下校時に手を繋ぐカップルはいた。

 もちろん、サツキには手の届かない光景だったが……

 だが高校へ通いだすと、それ以上の関係という連中の噂話が、あちらこちらで飛び交う。

 このままでは、何れツカサにも明確な彼女が出来てしまう。そうなれば、自分の想いは永遠に届かないだろう。

 手遅れになる前に何か行動を起こさなければ……このままではダメだ。

 しかし、サツキにはひとつ大きなコンプレックスがある。

 視力が悪い為、小学校5年の時からメガネを使用しているのだ。

 初めてメガネをかけて学校へ行った時、同じクラスにはツカサがいた。

 そして男子の誰かが冗談で言った。

如月きさらぎ、教育ババアみてえ」

 その時サツキは笑って受けながしたが、心は酷く傷ついた。

 自分のキャラ的リアクションは、笑って受けるしかなかった。それをよく判っていた。

 その後も、時折男子は彼女をメガネババアなどとふざけて呼んだ。

 メガネってそんなふうに見えるの? そんなオバサンみたいに見えちゃうの?

 小学生がかける初めてのメガネと言う事もあって、細いフレームの地味なものだった。

 母親は銀色を薦めたが、サツキは黒を選んだ。

 それでも細身の黒いフレームは、誰かには教育ババアに見えたのだろう。

 その頃から、ツカサはサツキの顔をまともに見なくなったような気がする。

 まだいろいろ話もしたし、登下校も一緒の事が多かったが、彼の視線はサツキの瞳の中には入ってこなくなった。

 メガネのレンズが彼の視線を妨げるのだろうか……

 違う……あたしのメガネ姿が嫌いなんだ。

 やっぱり、メガネなんてかけるとブス? そんなあたしと一緒にいるのはイヤ?

 サツキは自分の視力の低下を恨んだ。



 普段の生活には全く支障は無い。

 親友もいるし、クラスでは男女隔てなく話しもできる。

 どちらかと言えば、サツキは明るく活発な方だろう。

 しかし……この問題に関して、メガネ姿は彼女の活発な行動力をいでしまう。

「サツキ、どうしたの? ぼうっとして」

 校舎の窓から外を見つめるサツキに声をかけてきたのは中学からの親友、涼風すずかぜイズミ。

 彼女はショートカットを風に靡かせてパタパタ駆けるような、サツキに輪をかけた明るさで元気一番の印象だが、実は文化系だ。


「昨日どうだった?」

 昨日……そう、サツキは彼女に強く勧められてコンタクトレンズの専門店へ行った。

 初めてのコンタクトに挑戦するべく、朝母親に出してもらった保険証を握りしめて勇んで向ったはずだった。

 実はイズミは中学で知り合った時、既にコンタクトをしていたのだ。

 その自然な風貌に、サツキは多少羨んだことも在る。

 しかし目の中に異物を入れたまま生活するなんて、サツキにはどうにも抵抗があった。

「全然平気だよ。直ぐに慣れるって」イズミはそう言って笑った。

 最近では休みの日はカラーの入ったコンタクトを着けている。

 サツキは窓枠に肘を着いたまま、空を見上げた。

 もちろんメガネのレンズ越しに……

 伸びやかな虚空の向こうに、シルクのような雲が浮かんでいる。

「それがさ、やっぱあたしにはムリだよ」

「えっ? じゃあ、買わなかったの?」

 イズミはいかにも信じられないという言い方だ。

「うん……目が痛くて開けられない」

「ソフトは平気でしょ?」

「そうなんだけど……入れたコンタクトがどうしても取り出せなくてさ」

「ええっ? そんなの直ぐ慣れるよ」

「あたしにはムリだよ。自分で判るもん」

 イズミは溜息をついて「やっぱ、あたしがついて行けばよかった」

「そんな事しても変わらないよ」

 イズミはそれを聞くと、サツキの手を掴んでトイレに引っ張って行った。

「ていうか、サツキ髪切った?」

「うん。昨日切った……」

 廊下を歩きながらサツキが応える。

「なんでコンタクト買わないで髪とか切ってんの?」

「いや、それとコレは関係ないし……」

 トイレのドアを開けて中に入ると、洗面所の鏡の前でイズミは

「いい、見てなよ」

 そう言うが早いか、あっという間に自分の瞳からコンタクトレンズを外してみせる。

「どう? 簡単だよ。何回かやれば直ぐ慣れるって」

 指先に乗ったコンタクトをサツキの目の前に差し出した。

 彼女が使っているのも、ソフトレンズだった。

「大きいから最初は大変だけど、毎日やれば直ぐ慣れるって」

 そう言いながら、彼女はさり気ない動作でコンタクトを瞳に戻す。

「ツカサ君ともっと近づきたいんでしょ?」

「ち、近づきたいって言うか……」

「コクりたいっ!」イズミが笑って言う。

「こ、コク……そんなの……」

「何よ、今更。少しは当たって砕けてみなよ」

「いや……砕けるのは嫌なんだけど……」

 イズミは洗面台に寄りかかって

「だいたいメガネが悪いとはいわないけど、キスの時邪魔になると思わない?」

「えっ? キスの時邪魔になるの?」

 サツキも洗面台に寄りかかる。

「だって、彼の顔が近づいてメガネのフレームが頬に食い込んだらイヤじゃない?」

「そ、そんな事ある?」

「判んないじゃない。男は不意にしてくる時だってあるんだよ」

 イズミは洗面台の空きスペースにぽんと飛び乗るように腰掛けると

「アンタがビックリした拍子に、彼の目にメガネが刺さったらどうする?」

 冗談半分にそう言って笑う。

 サツキは思わずメガネを外して、マジマジとそれを見つめた。

 いま使用しているのは、グレーのセルフレームで最近流行の横長の角型タイプだ。

「ほら、あんたはメガネが無い方が絶対イケてるよ」

 イズミは自分より長いサツキの髪の毛の先を摘んで揺すった。

「そ、そうかな」

 サツキは振り向いて鏡を覗き込む。

 ぼんやりと自分の顔が映るのが見えるだけなので、あまりピンとこない。

 イズミは、サツキがツカサに対して特別な感情がある事を中学の時から知っていた。

 そしてサツキが意外とかわいい顔をしている事も。

 実際メガネをかけていても、それはあまり変わらないと思っている。

 ただ、サツキ自身がコンタクトを着けたがっている事を知った彼女は、わざとメガネが無い方がいいと背中を後押ししているのだ。

 実際コンタクトにしてメガネのコンプレックスから開放され、積極的になったり性格が明るくなったりする場合はある。

 サツキは何時も明るいので日常での心配は要らないのだが、ヤッパリ友達として親友の恋は実らせてあげたい。

 メガネを取る事でそれが少しでも叶うなら。


「だいたい最初は誰でも痛いんだから」

 イズミは宙に浮いた足をブラつかせる。

「初めてでも、痛くない人は痛くないって言ってたよ」

「そりゃ、あたしもあんまり痛くは感じなかったけどさ……」

 トイレのドアが開いてハルカが入って来た。

「――あっ、あたしも、あんまり痛く無かったよ」

 サツキとイズミはポカンと彼女を見つめる。

 ハルカの視力は両目共に1,5だ。二人共それを知っている。

「あ、あんた目悪く無いじゃん……」

 イズミが言う。

「あれ? 初体験の話じゃなかったの?」

 笑うハルカを、サツキはメガネをかけながら見つめた。

 イズミは思わず、洗面台から飛び降りて

「あ、あんた、いつの間にしたの?」

「えっ? 春休み……だけど」

 ハルカはそう言ってから、詰め寄るイズミに向って

「……あれ? 何の話?」




次回【第3話】更新は3/5未明頃になる予定です。

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