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【9】だって、姉妹じゃん。

 太陽は沈みきって、カーテンを開けたままの窓際に微かな月影が注いでいた。

 薄暗い中に、細く別の光が差し込む。

 サツキの部屋のドアが静かに開いて、廊下の明かりが入って来たのだ。

「サツキ? どうしたの? 具合でも悪いの?」

 ゆっくりと足音が近づいて来ると、サツキはベッドの上に起き上がった。

「お姉ちゃん。帰ってたの?」

 サツキの姉、ハヅキが立っていた。

 サツキよりも5つ年上の彼女は、県庁のある大きな町に就職して一人暮らしをしている。

「うん。連休だしね。さっき着いた」

 ハヅキはそう言って笑うと、背中にかかる長い髪をかき上げて

「どうしたの? 何度もノックしたのに返事もないし……電気もつけないで。失恋でもした?」

 サツキは胸の奥を覗かれたような思いだった。

「な……そ、そんなんじゃないよ……」

「ふぅぅん」

 ハヅキは笑みを浮かべたまま「ご飯の支度できたよ。降りてきなよ」

「うん。今行く」

 サツキが少し明るい声を出したのを聞いて、ハヅキは部屋を出て行った。



 夕飯を終えると、サツキは久しぶりに姉と話しをした。

 昔から何でも話せる面倒見のいい姉だった。

 小さい頃ツカサと喧嘩して泣いて帰ると、いつも姉が話しを聞いて慰めてくれた。

 サツキはそれだけで気持ちがラクになって、次の日には再びツカサと会う事ができた。

「そう言えば、あんたメガネは?」

 ハヅキはコーヒーを口にして言った。

「コンタクトにしちゃった」

「へえ。いいじゃん」

「そうでもない……ていうか、やっぱり止めとけばよかった……」

 ハヅキはコーヒーカップをテーブルに置くと

「なんだなんだ? やっぱり失恋か?」

 サツキはオレンジジュースを口にして

「そんなんじゃない。ていうか、それ以前ってカンジ」

「ほほぉ、高校入ってカッコイイ奴でも見つけた?」

「どうだろ……」

 その時、風呂場へ向う母親がリビングを通り過ぎる。

「サツキはまたツカサ君と一緒なのよ」

「お、お母さん、余計な事言わないでよ」

 二人の会話に、ハヅキの目がきらりと光った。

「あんた、まだツカサ君だったの?」

「な、何よ、まだって。何にもないからね。あるわけ無いじゃん。今までもこれからも」

「あんた、ホント判り易すいよね」

「あ、あたしそんな判り易い?」

 ハヅキは再び飲もうとしたコーヒーカップを口から離して

「もう、感情ダダ漏れってカンジ」

 そう言って笑った。



 ゴールデンウィーク、サツキは姉と過ごした。

 去年は何かといえば、イズミやハルカと過ごす事が多かったから、久しぶりの姉妹みずいらず。

 サツキは姉がいてよかったと思った。

 もしひとりっ子だったら、一人でひたすらモンモンとした日々を送った事だろう。

 買い物して街をブラブラして、映画を観て……何だかのびのびと自由な連休だった。

 ハヅキは6日の午前中に帰るというので、サツキは駅まで送って行った。

「お姉ちゃんさ、連休に出かける彼氏とかいないの?」

「あはははっ、実は、あたしも失恋したばっかりよ」

「そ、そうなんだ」

 ハヅキはプラットホームの風を受けながら蒼い空を仰いだ。

「帰ってきてよかった。あんたといると何も気を使わないね」

 ホームに電車が入って来たのを見て「じゃあ、がんばれよ」

「うん。お姉ちゃんもね」

 サツキはそう言って大きく手を振った。

 何時でも会える距離だが、何だかやっぱり淋しかった。

 淋しさが溢れ出さないように、笑顔を絶やさず走り出した電車に向って手を振り続けた。

 心の奥が小さく萎んでいくのを感じて、サツキは大きく息を吸った。



 サツキがホームを出て改札を抜けると、横から走って来た自転車がすぐ傍で止まった。

「サツキさん?」

 サツキが振り返ると、何だか見覚えのある女性がいる。

 しかし、彼女はそれが誰なのか思い出せない。

 だいたい年配の女性に知り合いなんているか? 誰かのお母さん? に、してはちょっと若いか?

「覚えてないの? 私の事」

 サツキは慌てて思い出そうとする。

「いや……あの……えっと」

「あら……前にツカサ君に会った時には覚えてたわよ」

 その言葉でサツキも思い出す。

「あっ、冬月サヤ子先生?」

 冬月ふゆつきサヤ子はサツキが小学校5、6年生で担任だった教師だ。

 当時は25歳くらいで、5年生の担任では一番若かった。

 髪型も変わったし少しふっくらして、一瞬では思い出せなかったのだ。

「やっと思い出した」

「なつかっしい! お久しぶりです」

 サツキは思わずピョンピョン跳ねる。

 若い冬月先生は多くの生徒から親近感を持たれ、好かれていた。

「落ち着きなさいよ」

 冬月はそう言って笑うと「何か、可愛くなって。時間あるなら、少しお茶でもする?」

「うん。ひまひま!」

 二人は駅前の喫茶店に入った。






「放課後のプリズム」を読んでいただきありがとうございます。

サツキ・ツカサ・ハヅキ…ちょっと名前表記がややこしいです(苦笑。

次回【10】屈折…

3/15・25時過ぎの更新予定です。

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