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(閑話2)王弟殿下は、煌々とした月の光に魅せられる①

王弟アレクスタイン視点です。

色々こじらせたメンドクサイ性格をしております。

 アレクスタイン・ローランド。当時まだ国王であった前国王の父と、侍女の母を持つ現国王の末弟。よくある「お手付き」で授かった男児だ。

 けれど、侍女は懐妊を悟ると、結婚をすると嘘をついて城仕えを辞めた。またもやよくある「王妃が陰湿ないじめをしてくる」というわけではなく、むしろその逆で、「お優しく慈悲深い王妃様を裏切るような事をしたくないから」という理由だった。女児であれば王女として外交カードに使えるが、男児であれば国を揺るがす存在になるかもしれない、と。才能は未知数だが、他の兄弟と親子ほどの差がある若さは大きいだろう。

 彼は、母親の実家で産まれた。その時には、嘘が真になったようで長い間父親と思っていた平民出身の騎士が、母親と共にいた。幸いにも、容姿は母親にそっくりだったため、誰もがこの夫婦の子供だと祝福をしてくれた。

 それから、彼は父親から騎士の手ほどきを受け、母親から家の本業である執事の基本を学び、10歳で住んでいた領の領主に執事見習いとして仕える事となった。人より器用な彼は、教えられることを水を飲むように吸収し、いつしか将来の執事長候補としての扱いを受けるまでに成長した。


 そんな彼の生活が一変したのは15歳の時だ。領主が彼の有能さを惜しみ王立の学校に進学させたいと申し出てきたのだ。もちろん領主がすべての学費諸経費を持つという破格のもの。彼の出自を隠してきた両親は、はねのけられるほどの理由を用意出来ず、彼は王立高等学校に進学した。

 そして、彼はその学校で無二の親友と出会う。それは、隣国ローランドから留学してきた第一王子クラウド・エルドランドだった。クラウドは、彼の有能さに気づくと側近になれと迫ってきた。

 クラウド王子といえば、すでに名門バルテス家の嫡子を側近に迎えていると聞いていたのだが、話によればバルテス家嫡子ことカイン・バルテスは医者になって国に貢献したいと言っているらしい。そのため、カインに代わるような候補を留学中に見つけて引き抜こうという目的をこの留学に持っていた。その白羽の矢が立ったのが、彼だ。

 彼の本質は騎士であり執事である。孤高で無口なクラウドの真意を察し、補佐をする事はさして難しいことではなかった。彼もまた、どこまでも自分の限界を引き上げてくれるクラウドに仕える事は本意にも思えていた。

 ただの主君と従者ではなく、言葉無く背中を預けられるような親友になり、クラウドの留学期間が終わっても、二人の関係は変わらないと信じていた。

 それが崩れたのはほんの些細なことだ。国王夫妻が、隣国の第一王子に不都合がないか学校に行幸したのだ。その時、クラウドは己の側近かつ親友として彼を紹介した。留学後も側近として連れて行ってもよいかうかがう為でもあっただろう。初めて見る国王夫妻に謁見が叶い、目を合わせた時の国王夫妻の表情は、今でも彼の記憶に残っている。


 笑顔が、固まる瞬間だ。

 王妃は、彼の両親の名を訪ねると、大きな瞳を潤ませて彼の背中を抱きしめた。国王は、どこか申し訳なさそうな表情をして彼を見ていた。


「その瞳と声、まさしく王族のものです」


 背中から腕をほどき、間近で見つめられた王妃に、彼ははっきりと宣告された。国王は、婚約者のいる侍女に手を出したと王妃だけに告げていたらしい。2人とも、まさか子供が宿っていたとは考えていなかったのだ。

 将来の国王の側近であり、将来の宰相が、隣国の王族の特徴を持っていると要らぬ災いが両国に降りかかるかもしれない。彼は、将来の希望を一つ失い、その時より王子として扱われることとなる。同時に、16年彼と共にあったアドレー・コントラートという名前も捨てることとなった。

 彼は学校の授業と並行して、王族としての学習も始めた。卒業と共に、そのころには異母兄が国王になっていたので王弟としてお披露目され、本格的にアレクスタインとしての人生を進むこととなる。






 それが私の今までの21年の人生だ。












 王弟といっても、私は次期王位になど興味はなく、むしろ父譲りの威厳と優しさを持つ異母兄を補佐するために、宰相という一度捨てた夢をもう一度拾って温めていた。

 そんなある日、クラウドからやけに嬉しそうな手紙が届いた。

 学生時代から「好きだ、結婚したい、いや俺の嫁」と言い続けていた隣国宰相家の令嬢ミラーナ嬢との婚約を確定させたという吉報だった。王家と繋がりの深いバルテス家の令嬢が、らしくもなく自らほころびを晒したという。

 クラウドの話からして、王弟妃になるため身も心も厳しいほどに磨いていた彼女が、何故こんな下らない事をと疑問に思ったが、普通なら絶対にありえない恋を、自らを装いかなうと信じ続けていたクラウドに降りた奇跡は祝福の念しかない。


「王弟妃、か」


 前国王夫妻と異母兄の好意により、私の母親の素性は一切を伏せられている。明らかに王太后ではない母を持つ、けれど王族のしるしは持つ怪しすぎる私に、娘をと持ちかけてくる貴族は珍しい。おまけに、余計な争いを招かないよう、側近も友人もつけず王宮に引きこもる私を伴侶にと思う女性もいないだろう。

 いっそクラウドの弟の婚約者になった令嬢のように、庶民に近い令嬢なら来てくれるかもな、程度には思った。それだけ、クラウドのミラーナ嬢に向ける熱意は、私の中で伴侶への憧れと理想を多少はもたらしていたらしい。

 口元を緩めながら、私は親友に送る手紙を書いた。そしてその足で国王の執務室へ向かった。




 それからしばらくして、私は眉をしかめる状況に遭遇した。

 クラウドに手紙を書いた直後、私は国王である異母兄に一つの願いを伝えた。一言でいうと、市井にでて妃を探したい、という事だ。貴族の間では敬遠される私でも、庶民に近い所だと好いてくれる女性が現れるかもしれないと。

 異母兄は、国が私から身分と名前と生活と隣国の宰相になる夢を奪ったことを気にしていたらしく、妃くらいは口出ししないと決めていたそうだ。

 そういうわけで、国の許しを得て、私はこっそりアドレー・コントラートとして王都より距離のあるヴォルトロール子爵家に執事として採用された。ヴォルトロール家は、筆頭執事として働いている伯父の養子を装った私を喜んで迎えてくれた。伯父も、昔の私を知っているからか、王弟アレクスタインになっても甥アドレーとして扱ってくれる。

 瞳と声を気にされなかったのは、ここが辺境だからだろうか。まだ一介の騎士の嫡男という身分であった以前のような態度を取られ、私はやけに浮かれていたのだ。

 だから、目の前に親友の婚約者が急に現れて、珍しく表情をゆがめてしまったのは仕方ない。


「私は、ミラーナよ。 ここではミランと名乗ることになるけれど。 貴方が私の付き人なのね、よろしく頼むわ」


 クラウドが夢中になるのに合点がいくくらい、彼の好みだと思った。気位が高く、貴族の令嬢らしくありながら、使用人におごり高ぶることのない、理想の主だ。王弟妃にはもったいない、王妃として輝ける至高の存在たらんと。


「アドレー・コントラートと申します。 よろしくお願いいたします、ミラン様」


 私が胸に手を添え頭を下げると、頭上から息が詰まる声が聞こえた。


「アドレー…貴方がアドレーなの!? 嘘、………たのに、会えるなんて」

「如何しましたか?」


 許しを得ず顔を上げると、ミラーナ様がなぜか顔を赤く染めて目を見開いていた。

 目を合わすと不敬なので、かすかにきれいな鼻に視線を合わせていると、目の前で「ヤバイ」「マジイケメン」「やだ、マジストライク」と意味の分からない言葉を呟いている。少し心配になった。


 それから、ミラーナ様は私の性格を見抜いているかのように、私を振り回した。何をされても怒らないわけではないが、怒るまでもない悪戯や行動に、つい弟妹を思い出す。王族では末子だった私だが、コントラート家では下に2人の弟と1人の妹がいる長男だ。

 ちょうど、妹がミラーナ様より1つ下くらいだろうか。

 ミラーナ様も、私が妹のように接しても嫌がることはなかった。

 

 私がミラーナ様との生活に慣れてきた頃、私は一通の手紙を受け取った。ミラーナ様がヴォルトロール家にいる事、私がミラーナ様の執事になりそこらの男には手出しさせないという事を添えて手紙を送っていた。それの返事だろう。

 クラウドは、私が騎士として執事として仕えていることを羨ましく思いつつ安心していると書いてきた。申し訳ないが、そのまま気が済むまで傍にいてほしいと。伴侶探しのついでなので、それは別分構わない。


「アン○レっ! ん、誰からの手紙?」


 さっと手紙を取られそうになるので、反射的に頭上高くに上げる。それを取ろうとして、ミラーナ様は私に抱きついた。クラウドにもそんな素を見せてやればいいのに。


「さあ、誰でしょうね」

「………もしかして、女性なの? 私がいながら浮気?」


 ミラーナ様が、頬を膨らませて睨んでくる。まるで兄を恋人にとられた妹のようだと言ったら、また怒るだろうか。


「いえ、私の親友からの手紙ですよ。 近々結婚するので招待したいと」

「あらそれは嬉しい知らせね! 主として私も挨拶に行きたいわ」


 貴女と、クラウドの結婚式。

 想像するだけで、頬が緩む。大好きな二人が、夫婦になるのだ。それを喜ばない訳がない。


「ん?」


 けれど、ちくりと何かにつつかれた感触。それは、まだ無自覚の前兆だったのかもしれない。






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