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悪役令嬢は、希望の糸を断ち切られる。

前話が1か月前……。

すみません、今回もシリアスなターンです。

 ゆっくりと壇上に、アン○レ…もとい王弟殿下に近づいていく。近くにいる王族や、クラウド王太子は視界に入らなかった。

 ただただ、ひたすらに王弟陛下を見つめる。

 一度は失恋して、甘く狂おしい口づけで忘れようと誓ったのに、忘れられない。想いが、熱が、今にも決壊してこぼれそうだ。

 私は、壇上の前で淑女の礼をした。


「私の親友、ミラン・ヴォルトロール嬢ですわ」


 リーシャが王族に私を紹介する。いざ近づいてみると、緊張して顔があげられない。今私の顔は、ひどく真っ赤に染まっているだろう。


「噂には聞いている。 卓越した手腕で統治する地域を発展させているとか。 かしこまらず顔を上げなさい」


 声が、どこか似ていた。兄弟だから当たり前だと思う。私は、国王の促すまま顔を上げた。国王夫妻の近くに王弟殿下がいる。胸が締め付けられて、苦しい。今にも抱き着きたいのに。


「はじめまして、ヴォルトロール子爵令嬢……いや、バルテス侯爵令嬢と言うべきか。 余はエルドランド国王。 横にいるのは王妃、王太子のレイモンド、そして余の弟のアレクスタインだ」


 国王の声につられて、私はついに王弟殿下の顔を見た。互いの視線が絡まりあう。けれど、王弟殿下は私の知っているアン○レとは違い、薄っぺらい笑みを浮かべていた。


「お初にお目にかかります、ミラーナ嬢。 こんな美しい姫が未来の王妃とは、君も隅におけないなクラウド殿」

「ああ、そうだろう」


 え?


 一瞬、時が止まるような心地がした。

 王弟殿下とクラウド王太子は知り合いなのだろうか。しかも、どこか親しげすら感じられる。


「王妃に相応しい、最高の女だ。 半月後の挙式には、君も参加してくれるんだろう? アレク殿」

「ああ、もちろんそうさせてもらうつもりだよ。 隣国の王族としても、君の親友としても」


 一体何を言っているの?


 私の耳に、二人の会話が別次元の言語に聞こえて流れていく。

 不意に、肩を抱きしめられて顔を上げると、クラウド王太子がこちらを見つめていた。


「ミラーナ、そなたに似合う最高のドレスを用意した。 もう気が済んだだろう? わがままもそこそこにして、いい加減国に戻ってこい」

「お義兄さま!」


 不意に、腕をつかまれる。小さな手はリーシャのものだ。きっと先ほど気持ちを言ってしまったからだろう、リーシャの目は悲しげに潤んでいる。


「ミラーナ様は…ミラーナ様は、結婚などなさりません!!」


 クラウド王太子の手を離させて、リーシャが細い体と腕で私を抱きしめる。

 リーシャの温もりだけが、空虚になって寒い体をほっこりと温めた。


「これは王命だ」

「今のミラーナ様はエルドランド国の侯爵令嬢ではありません。 ローランド国の子爵令嬢ですわ!そ れに…っ!」

「リーシャ」


 ようやく出せた声が、かすれる。何度も殴られたような感覚が、頭を響かせる。


「私……私は」


 すがるように、私は王弟殿下にアン○レの面影を探す。けれど、王弟殿下はまるで私を知らないかのように、困ったように笑みを浮かべた。

 切り捨てられた、と思った。


「わ……私は」

「そういえば、ここで私の吉報も報告していいか? 王宮でひっそりと逢瀬を重ねた愛しい人と、結婚することにした」


 私の言葉を言わせないようにか、王弟殿下がとろけそうな笑みでリカルド王太子を見る。

 そして、呼んだのだろう。どことなくリーシャに似たような優しげな女性が、王弟殿下の隣に立つ。


「私の妻になる女性、カミラだ」





 世界が、ぐるぐると黒く回っていく。

 ああ、神様。世界はどうしてこんなにも残酷なのでしょう。

 少女漫画のミラーナは、悪役を全うしたにもかからわず救われたのに、私には救いはないのですか。
















 このままいくつの日を紡いだのでしょう。

 日が昇り、落ち、月が闇夜を照らしても、私の心は闇の中。


 あの後、私は気を失ったと聞いた。

 目を覚ました時には、バルテス家の屋敷に戻っていて、まるで今までの事が夢のような感覚に陥った。

 けれど、枕元で目を赤く染めて転寝をしているリーシャを見て、それは夢ではなかったと悟る。

 そして、リーシャを起こそうとして口を開いた瞬間、私は自分の声を失ったことに気づいた。

 何度も声を出そうとも、いびつな呼吸音しか発せられなくて、いつしか泣きながらリーシャを揺り起した。

 リーシャは、私が目覚めた時に嬉しそうに笑みを見せてくれたが、私がみっともなく泣き崩れているのに声ひとつ出さない異常さに気が付いて、屋敷の者を呼んでくれた。

 デビュタントは、私の心と声を奪っていった。


 それから、かわるがわる家族が私を見舞ってくれる。

 リーシャは忙しい合間を縫って、会いに来てくれた。

 王族関係で、私に会えるのはリーシャだけだ。特に王太子が何度も屋敷に来たらしいが、家族が追い返したとリーシャから聞いた。王族関係の話を聞いたのはこれだけだ。

 リーシャは私が思うより敏い女性だった。私の耳に入れまいと、一言たりとも口にしない。


「私が会いに来ると、苦しめるだけです」


 関係者だからと会いに来ることを辞退したリーシャを引き留めたのは私だ。

 その時だけ、無様だが声を発することが出来たからだろう。リーシャが傍にいると回復するかもしれないと、家族は喜んで迎え入れた。

 そこで、なぜいつもなら不在が多い家族が全員集結しているのかと疑問に思った。

 どうやら、「二人の王子に娘をコケにされて、我慢がならない」とバルテス一族集団ストライキを始めたらしい。

 あくまでバルテス一族だけだったのだが、噂は噂を呼び、城下町が一斉ストライキを始めてしまったので、私は即座にやめるよう触れを出してもらった。

 ミナちゃんへ、と屋敷にはいろんなものが贈られ、部屋中にひしめき合っている。それで、屋敷は何もしなくても食うのに困らないらしい。体が動くようになれば、一軒一軒お礼を言いに行かなければ。

 けれど、糸を切ったからくり人形のように、私の体は動かなかった。

 心すら、大きな穴が開いたように冷ややかだ。

 失恋して、再会して、もう一度地に叩きつけられた私の心は、思ったより脆いものだったようだ。

 王弟妃として教育されたのに、恥ずかしく、情けない。

 ちょっと遠くに離れてみたかった。どうせ王太子妃になると決まっているなら、その間だけでもと思っていただけだ。私とて侯爵令嬢だ。自分の意志に関係なく嫁ぐのはわかっていた。

 だが、恋をしてしまった。

 少女漫画で、ミラーナが悪役になった末に結ばれた相手だと知っていたから、きっと実ると信じていたのだ。

 国に戻れば王族に入るという事を忘れていた。

 このまま寝たきりになっていれば、事態は動かないと判っているのだろう。





 私は、このまま衰弱してもいいとすら、思った。







なんかもう、アン○レごめんって感じです。

このままだと、この人めっちゃ悪者ですよねぇ…と不憫に思えてきました。

次は、ちょっと別視点の閑話を入れようと思っています。


ずっと気持ちが上がらなかったので、半分放置してました。読み専楽しい。

次はは…早めに上げたいと思うんですがどうでしょうねぇ。ほかの話が浮かんで書きたくてたまらないんですぜ。

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