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悪役令嬢は、体当たりで失恋をする

遅くなってすみません。

少女漫画によくあるシーンがあります。R15程度と思われますが、ご注意ください。

 思えば、私はきちんと社交界デビューをしていなかった事に気づく。

 いつも親に付いていて、パートナーであったリカルドとペアになることはついぞなかった。婚約破棄されて、新たに王太子と婚約させられたパーティは内々なもので、それがデビュッタントと言われれば、違うと答えざるを得ない。

 多分、舞踏会を断罪の場にするほど王家は愚かではないし、皆の前でバルテス家を貶めることはしたくなかったという事だろう。

 

 だから、王宮から届いた招待状に胸を踊らせた。

 王宮の舞踏会が社交界デビューというのは緊張するけれど、今までの努力が自信になっていた。

 王弟妃になるべく受けた教育、作法、マナーは、見劣りしないと思う。


「どうかしらアン〇レ」


 私はアン〇レの前でくるりと回った。柔らかく風を孕んで、スカートが膨らむ。

 着ているのは菖蒲色のドレスだ。髪を束ねるアクセサリーと、耳飾りは、目に合わせた翡翠。


「よくお似合いです、ミラン様」

「有難う。 でも、子爵なのにドレス着なくちゃいけないなんて、面倒ね」


 初め、社交界と聞いて白藍色の爵位服を用意していたのだが、ドレスを指定されたため封印された。


「ミラン様は女性ですから」

「ところで、誰がエスコートして下さるのかしら」

「次男のエリック様です」


 ヴォルトロール子爵家次男エリックは、当年20歳。婚約者はいらっしゃると聞きましたが。


「エリック兄さまが?」

「エリック様の婚約者であられるユスティア様は、ミラン様と同じくデビューされる弟君にエスコートされます」


 同年代の、親戚になる男の子か。

 仲良くなれたらいいなと思った。


「アン〇レは従者として行くのよね?」

「私は……いえ、屋敷におります」

「何故?」

「問われましても。 私のような新米よりヴォルトロール子爵家に恥じない従者を選ぶのは当然でしょう」


 アン〇レは行かないのか。

 一番見せたい人がいないと、気持ちが萎む。私はとたんに行く気が無くなってきた。


「なら、今一緒に踊ってくれないかしら? テビュタントで恥はかきたくないの」


 そう言うと、アン〇レは困ったように笑う。時々、そうだ。普段は飄々と傍にいるのに、私から近づくとこういう反応を返す。


「だめ?」

「代々ご子息、お嬢様にお教えするべく習っておりますが、私がミラン様にお教え出来ることは」

「教えてとは言っていないわ。 同年代の男性と踊るのはどのような感じか知りたいの」


 嘘は言っていない。私が習ったダンスの先生は、父くらいの人だった。

 紳士で不快感のない、スマートな先生だと覚えている。

 しばらくアン〇レの目を見ていると、諦めたのかアン〇レはその場で跪き、片手を差し出す。私を真摯に見上げる姿は、どこかの貴族のようで、心が跳ねた。


「私と一曲ご一緒頂けますか? ミラーナ嬢」


 本名で呼ばれて、一気に体が熱くなる。今私はきっと、顔が赤くなっているだろう。

 震える手を気持ちで抑えながら、アン〇レの手に、私は重ねる。すると、アン〇レは揺らぐ事なく立ち上がり、空いた手を私の背中に添わせた。

 今、アン〇レと密着している。


「右から行きます」


 やんわりと、かつしっかりとしたリードだ。社交界経験がない私でも判るほど、アン〇レのダンスは上手い。完璧な淑女に仕上げた私でも主導権を譲ってしまう。

 崩れても支えてくれる安心感が、失敗を起こさせない。


「疲れましたか?」


 まだ始まったばかりだ。

 疲れてはいないが、間近で見るアン〇レの顔に、心が落ち着かない。

 断罪されたミラーナが幸せになるのが判る。アン〇レは優しく紳士だ。傷心のミラーナを包んで癒して、謝罪させるまで支えたのだろう。そして子供を宿すまでに愛し合ったのだ。


「子供っ!?」

「ミラン様?」

「な、何でもないわ!」


 考え事をしているのは丸わかりだろう。けれど踊りを止めないアン〇レに、嬉しく思う。

 私は、それに甘えて意識を考えに落とした。

 そうだ、漫画のアン〇レとミラーナの間には、二人の愛の結晶が宿った。子供編の読み切りも見たが、アン〇レに似た二人の息子、ミラーナに似た三人の娘がいた。頑張りすぎでしょ、とツッコミを入れたくなるが。

 つまり、このままいけば私はアン〇レに…この、しっかりとした胸と腕に抱かれるのか。

 私とてウブではない。耳年増なメイドから、そういった色恋の話も聞いている。もちろん前世の記憶からも、男女が何をするか知っている。

 だから、嫌じゃない。アン〇レなら構わない。逆に、王太子に迫られた時は、ただただ嫌悪感だけが募った。リカルドとは想像すら出来ない。


「ミラン様、気持ちが入っていませんね」


 どれだけの時間深く意識に入り込んでいたのだろう。アン〇レが動きを止める。


「あ、いや。あまりにスムーズだったから」

「考え事をしていても、ミラン様は飛び回る蝶のように優雅に舞われていました。 デビュタントも、隣国に戻られた後の王太子妃としても、問題はないでしょう」

「…………っ」


 判ってはいたけれど、直接アン〇レの口から言われると、心が折れそうになる。


「王太子妃なんかじゃない」

「私はそう聞いております。 エルドランド王太子自らに見初められた、博識で賢女、次期王妃に相応しい麗しき淑女。 ミラーナ・バルテス侯爵令嬢」

「やめて!」


 バッ、と私はアン〇レを振り払う。アン〇レだけには言われたくなかった。まるで、他のものになるのを良しとする言い方が、苦しい。


「もしエルドランド王太子や王弟妃候補リーシャ嬢の見る目がなくて国外追放になったなら、ローランドの王太子妃に迎えたかった。 貴女なら、きっとこの国を発展させてくださる」

「………なんで、そんな事を言うの? 嫌よ、アン〇レだけは、そんな事言わないで!」


 もう聞きたくないと両耳を手で塞ぐと、アン〇レは私の腰に腕を回し、空いた手で、私の手に触れた。


「ローランド王太子妃に、なりませんか?」


 甘い甘い、まるで口説かれているようなセリフなのに、アン〇レは自分を求めてくれない。

 苦しくて苦しくて、涙が決壊する。

 貴方じゃなければ、母国の王太子だろうが、ここの王太子だろうが一緒だ。

 そして、アン〇レは従者と主人の間の壁を壊そうとしないのだ。そう思うと、私はひどく心が冷えていった。


「アドレー、命令よ」


 涙を拭って顔をあげ、アン〇レをきちんと名前で呼ぶ。

 アン〇レの表情が、微かに歪む。少しは動揺してくれて嬉しいと思う気持ちを抑えて、私は全ての気持ちを込めて誘惑する。


「これが最後。母国に帰って王太子妃になるから、だから」


 コクリ、アン〇レの喉が動く。少しは、魅了出来ているかしら。


「私に口づけさせなさい」


 返事は聞かない。動揺してくれたのか、少し空いた唇に、舌を捩じ込む。

 これが私よ、ミラーナよ。

 両腕をアン〇レの首に絡めて離さない。

 少しでも求めてよ!そしたら、そしたら仕方ないって諦められるから。全く無関心だと、悲しいから。

 思いが通じたのか、成されるがままだったアン〇レが動く。頭を大きな手で押さえられ、深く口付けを交わす。

 耳と頭に響く水音。

 呼吸と、互いを求めるように喘ぐ声。

 それすらも気持ちを昂らせる。

 多分あまり経っていない。けれど長く感じた時間は、どちらともなく唇を離して終わった。

 アン〇レの、私を見る眼差しに色気を感じて、満足する。私に興味が、異性としての色気がなかったわけじゃなかったと、思えたからだ。


「貴女はひどい」

「ひどいと思うなら…」


 アン〇レは、私の唇に親指を押し当てて続きを封じる。


「理性が持ちませんから、それ以上は言わないで」


 既成事実が作れたら、親兄弟はいくら庶民相手でも反対はしない。それだけ、私の、ミラーナの見る目を信じてくれている。


「私も親兄弟も、貴方が庶民でも反対はしないわ」

「知っています。 けれど、今の私ではだめなのです」


 アン〇レは、私の泣いて腫れ上がっているだろう目元に軽く唇を落とすと、丁寧な礼をして、部屋を去った。








 その直後、アン〇レは知らぬ間に従者職を辞し、屋敷を去る。足跡すら残さぬ所業に、ツテを使ってもアン〇レの形跡すら見つけられない。

 逆に、アン〇レ……アドレー・コントラートという人物が、存在しない事がわかり、途方にくれた。

 私の淡くも熱い初恋は、こうしてあっけなく終わった。


いつの間にかブクマがすごいことになっていて、恐縮するやら内容の薄さに申し訳ないやらで、あたふたしております。

前回、初恋しました!今回、失恋しました!……って展開早すぎるよ!って自分が一番突っ込んでます。


で、前書きで注意したねっとりラブシーン(?)はR15の範囲ですよね。

浅井の書き方がねちっこくて、オーバーしたらどうしようとか思ってます。

ハーレク○ン程度だと思うんですが…どうでしょう。


もうちょい続きますが、変わらずお付き合いいただけると嬉しいです。


冒頭が1話や閑話とのつながりに不自然さを感じたので、少し修正を入れました。

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