悪役令嬢は、隣国で男装の麗人になったようだ
日刊ランキング52位ですか…っ!?
ありがたや恥ずかしやでございます。
急にブクマとか増えたので、びっくりしました。
みなさんこんにちは。
ミラーナ・バルテス侯爵令嬢です!
今、私は隣国ローランドにいます。目の前には色鮮やかな田園風景が広がり、土と太陽の恵みを実感しております。
今日のオススメはキュウリ……っぽいもの。ウリキっていいます。まんまキュウリです。
トマトっぽいマトン……なんだか名前が急に肉っぽくなりました、と一緒にサラサラ行く小川にさらして冷やすと、最高に美味しい!
あぁ、土と太陽の恵みに感謝!
「…………って違う!」
はしたなく、ウリキをかじって私は心の中でツッコミをいれる。
え?声に出てました?
そこは見てみないふりがマナーですわ。
とにかく、あの怒涛の半月が嘘のように、私は隣国の親戚の家でゆったりスローライフしています。
家族には手紙で居場所を知らせているので、当然独自の情報網を持つ王太子もご存知のはずですが。
まぁ、私より兄が大事でしたのね。別に悲しくありませんが。むしろ兄の貞操が心配です。
あらいやだ、ミラーナってばハシタナイ。
「しっかし、平和よねぇ」
小瓶に詰めた味噌をウリキにつけると、格別な美味しさです。
ここに来てから一月、私は土壌改良から始めました。転生あるあるですわね。
経理の書類も、簡潔になるよう変えました。
領内のみ適応される条例を制定しました。
結果、親戚の持ち領の一部を任されました。
いまや私は、ミラン・ヴォルトロール子爵です。男装の麗人ですよ。アントワ〇ットではなく、オ〇カルになりました。
「ミランさま」
「アン〇レ」
「アドレーです。 ……当主さまがお呼びです」
こちらはアン〇レ。ヴォルトロール家に仕える筆頭執事の長男。見た目色気漂ういい男ですが、頭が切れ、18という若さで国際執事検定上級を取得しております。
ショタ当主だったら完璧と思い、眼帯を着けたら止められました。
「おじ様が? 何のご用でしょう」
「恐らく、次期当主として王宮デビューかと」
「んん?」
ローランドは女当主が認められている国です。
しかし、おじ様には私より年上のご子息や令嬢が四人います。年下は二人。全ておば様が母親です。最終的にはおば様が「もう夜の相手は嫌です!」と引き込もってしまうくらいラブラブだったそうで。
折角逃亡できたのですから、私もそんなラブラブな夫婦になりたいものです。
元々おじ様のご子息もみな優秀です。しかし、私が前世バリキャリで培った知識には敵わず、執務の合間を縫って私に教えを乞いに来られます。
それもそのはず、この世界と前世では生活基準のレベルが違いすぎます。つまり、私がチートすぎるということですわ。
結果、斬新な発想で改革を進める私が次期当主になり、優秀なご子息を補佐役として領地を発展させていこう……そういう話が出てきているらしいのです。
ご子息もご子息で、あっさり引き下がらないでいただきたいですわ。
「ねぇアン〇レ」
「…………はい」
いい加減訂正するのが面倒になってきたのだろう。アン〇レがため息と共に返事をする。
「結婚しましょう?」
「お断りします」
「私はバリバリ働ける。 貴方は貴族になる。 良くない?」
絶世の美少女ミラーナの、計算尽くされた角度で誘惑。だが、アン〇レは白けた表情で、額にデコピンをした。ミラーナは地味に痛がっている。
「恋愛年齢一桁が、そんなこと言うんじゃありません」
「出会った中で、アン〇レが一番いいんだもの」
そういうと、盛大にため息をつかれた。
「そんな事言うと……どうなるか判りませんよ?」
この色男は、わざと男の表情を見せて脅すから、好きだ。きっと16の小娘にしか見えてないのだろう。こうして情欲を込めて脅して逃げるように仕向ける。
現に、目を細めて顔を近づけても、私が受け入れ体制に入ると気づくや、デコピンを連打する。
「いい加減学習なさいませ!」
「アン〇レなら構わないって言ったじゃないっ!」
涙目で、額を押さえながら私は叫ぶ。
「そもそも、ミランさまは私の名前を覚える気さらさらないんでしょう?」
ああ、困ったお嬢さまを見るような顔。
こんなに優しい人だとは思わなかった。さりげなく野心を煽るようにして試したけれど、全く動じない。むしろ興味がないのかもしれない。
●
いっそ断罪されたかった。マンガは断罪された後のミラーナは回想でしか出てこない。
主人公はリーシャであり、リカルドとの恋愛が主軸であるからだ。
前述したとおり、この少女漫画でミラーナは読者人気上位だった。
幼いころに婚約者として、次期王弟妃、もしくは王妃を補佐できるよう徹底的に教育され、ほかの誰かに目を向けることも許されずにいた日々。
そんなミラーナを根本から打ち砕き、婚約者を奪い、断罪したリーシャ。
ミラーナへの同情、リカルドへの批判で人気急降下したこの少女漫画は、意外な最終回で幕を閉じる。
皆の祝福の中、結婚式を迎えるリカルドとリーシャ。
そんな二人に、一通の手紙が送られる。
差出人から、従者が差し出すのをためらったが、構わず二人は開封した。
差出人の名は、ミラーナ。断罪されて国外追放された悪役令嬢だ。
手紙には、結婚を迎える二人への祝辞、そして現状が書かれていた。
その背景に書かれていたのは、この国にいた時と違い、男性に寄り添い幸せそうに微笑むミラーナ。
妖艶な体だった彼女のおなかは膨らんでいて、数か月したら子供が生まれるのだという。
もし許されるのならば、子供を拝謁させたい。
願わくば、子供をあなた方の王子の側近にしたい。
リーシャがいたから、結果私は愛する夫と添い遂げ、幸せに暮らしているのだと。
そして、二人は涙し、結婚式開演で終わる。
実際、変な方向に行ってしまったが、私は断罪された。
国外追放にはならなくて、王太子の婚約者になってしまったのだけれど、隣国に行けばやはり、本来幸せになるはずの相手はちゃんと存在していた。
「ミランさま、早くしないとご使者が参られます」
「好きよ、大好き! 私は、貴方が…っ!」
アン○レは、困ったように笑い、私に手を差し出す。
「アドレー・コントラート!!」
アドレーは、断罪されたミラーナの、夫になるはずの男性だった。
この気持ちは、漫画の修復能力…つまり補正というものなのだろうか。
私は、アドレーに淡い初恋をした。
はい、浅井はご都合主義大好きです。
人生ほとんどを婚約者に沿うように教育され、好きな人も作っちゃいけない青春時代を送った挙句、婚約者かっさらわれて、底辺に行くとか不憫すぎるだろ…と。
なので、マンガのミラーナは初恋をして恋を実らせて幸せになりました。
…………というのを考えてしまったばっかりに、結末どうすんだよっと焦っております。短編のスピンオフなので、クラウドエンドというのは決まっているんですが、アドレーエンドの方がミラーナ幸せそうだよな、好みピンポイントだしと思ってきたりします。主従大好物なんです、すみません。
あ、時々出てくる名称は、ご存じ「フランス題材の某バラ」と、「悪魔な執事」です。