自分自身の戦い方
三日後。俺はほぼキラの能力を覚えていた。完璧とはまだ言い難いが、それに近いものはこの両手の中にあった。
キラの能力『悪魔の力』は砲撃型攻撃能力というものに分類され、その中でも特に強いものとキラは自負していた。他の人の能力をあまり見たことないため、何も言えなかったが、確かに見ていた感じ、強いだろう。それにキラの場合はアクロバッティックな戦闘型をしているため、相手を翻弄するという効果付きだ。それと比べると俺は少し能力に頼りすぎている気がする。そのため・・・
「今日一日、少し剣術を教えてください!」
今日はキラの訓練を休み、四津野のところに来ていた。
「・・・無理だ。君に剣のセンスはない。それに私もキラや雷帝のような自己流の戦闘型。だから真似ることかができないし、教えることもあまりできない」
「ルナは?」
「彼女なりの剣術を持っているから、今やっていることは瞑想などの精神集中や私との手合わせくらい」
「・・・やはりダメですか」
「諦めたならこの部屋から出ていって、はっきり言って、訓練の邪魔」
俺は四津野に無理矢理、部屋から出され、部屋のドアの鍵を閉められてしまった。
「どうするか・・・」
俺がドアの前で少し考えていると
「あ、柊君」
横から聞いたことある声が耳に入ってきた。
その方向には東条 アキネが立っていた。
「どうしたの?こんなところに立って」
「・・・ちょっと相談してもいいですか?」
俺とアキネは四津野、ルナが訓練している部屋から少し離れた場所にある休憩所に行くと、席に座った。
「で、相談って?」
「俺ってキラさんから能力を教わったんですけど、みんなが言う『戦闘型』ってのが無いんですよね。それでどうも能力に頼りすぎてるなって感じちゃって」
アキネは休憩所入ってすぐのところにある自動販売機のオレンジジュースのふたを開けると、少し飲み背もたれに寄りかかった。
「戦闘型って、実は形だけでほぼ戦闘内では消えてしまうことが多いの。例えば、あのキラのアクロバット戦法?あれって超接近戦には役立たずだから。それにこの学校の能力者の大半が自分の能力に頼ってるんじゃないかな。私だってもしも能力が無くなったらただの女の子だし。まぁ頼ってないと言えるとしたら・・・四津野さんくらいかな」
「やっぱり・・・」
「いや、たぶん柊君の思ってるものとは違うわ」
「・・・どういうことですか?」
「四津野さんの能力って能力っぽい能力じゃないの。言っちゃうと四津野さんは能力者じゃないわ」
「・・・え?」
「四津野さんは運動神経と最強の剣術を持った一般人よ」
それだけでも『一般人』と呼べるものではないが、確かにこの学校の生徒としては一般人なのか。
俺も最近までは一般人として生活していたわけだし。
「突然だけど、ここで問題。四津野が入学してきて二ヶ月間で何人殺したでしょうか?ヒントは戦闘回数は六回です」
「殺した人数・・・そんな問題出すってことはやはり多めですか?」
アキネはうんともすんとも言わないでニコニコと笑っている。
「・・・15人ですか?」
「もっと多いわ。正解は22人でしたー!」
俺はそれを聞き、唖然とする。
戦闘は戦場に出る五人と指揮をする人一人で チームをつくるため、単純計算すると、一つの戦場で最大五人の死体が転がるということになる。
だが、アキネの言った22人というと、一回の戦闘で約三から四人死んでいることになる。
ここでルール上の矛盾が生じた。
「・・・確か戦闘のルール上、メンバーが三人以上死んだ場合、そこで戦闘がおわるんじゃないでしたよね?おかしくないですか?」
「単純に計算するとね?」
「 ? 」
「二人を同時に殺したっていう戦闘結果はよく聞くわ。だから・・・」
「・・・すいません。四津野さんの戦果を見せてもらえませんか?」
「時間が良ければどうぞ」
俺はアキネと資料室前までいった。ドアの上には『OPEN』の文字が書かれていた。
「おかしいわね。誰にも鍵は貸してないと思うのだけど」
「誰かがいるってことですか?」
「えぇ。でも、誰かしら?」
俺は恐る恐る資料室の重いドアを開けた。
中からは突き刺さるような視線がこちらに向かってきた。その威力はまるで、キラを吹っ飛ばしたときのようだった。
入り口の先には、開いたファイルを組んだ足の膝にのせ、こちらを睨むシュウがいた。シュウの下にはたくさんのファイルが積み重なっていて、シュウはその上に座っていた。
「会長といつかのチームO新人ですか」
「 こら、シュウ!後輩でも挨拶しなさい!」
「・・・ちわ」
シュウはあきれ顔で静かに頭を下げた。そして部屋に響かない程度の音で舌打ちをした。
「で、何のようですか?」
怒っているのか、不機嫌なのか、理由は知らないがさっきからこちらを、威嚇する闘犬のように睨み付ける。疑問型の中でも怒りが剥き出しになっていた。
「彼が四津野について知りたいらしくね」
「ここにある資料よりも会長の脳にある資料の方が良いのでは?」
「言葉よりそれ事態の資料の方が分かりやすいし、本当だということがあらためてわかるでしょう?」
「・・・確かに。で、どのくらいのを」
「入学当初の戦果と最近のを。最近って言っても少し古いのしかないけどね」
アキネは奥の方から表紙の焼けたファイルを持ってきて、近くの机の上にドスンと音をたて、勢いよく置いた。辺りを濃いほこりが舞う。
「これが今から四年前の資料ね」
アキネはファイルから何枚か紙を取りだし、俺の前に置く。内容には『死亡』の文字がところどころかいてあるのが、一目見てすぐにわかった。
「四津野 千理。この頃は『王牙の死神』と呼ばれてたわ。今は確か・・・『戦場に舞い降りた死神』って一部の人から言われてるわ。彼女の通ったあとには草一つ残らないとか言われてたわね」
「草ひとつ残らないって・・・」
「でも、その頃のチームOは四津野について一つ気になることがあったらしく、チーム内では天使って呼ばれてたらしいわ」
「天使・・・真逆じゃないですか?」
「まぁこの話はここには無いから自分で・・・ね?」
気になるが少し触れてはいけないというのはすぐにわかった。
「おい、新人」
「何ですか?」
シュウは何を考えているのか、やはり俺を睨んでいる。
「こんなところでそんな資料を見てる暇があったら、練習したらどうだ?先輩が強いから大丈夫だろとか思ってんだろ」
「べ、別にそんなこと・・・」
「今回俺らは出ないが、気を抜くな。俺ら以外にも強いやつらはたくさんいる。それに、今回の戦闘は優勝者には俺らチームAと王座をかけた決定戦が行われる。今のお前ではまず、チームは崩れる一方だろう・・・俺が今から言いたいことがわかるか?」
俺は少し固まり、一つ答えを出した。
「・・・死ぬってことですか?」
「・・・わかってんじゃねぇか。今のままいくと、死しか無いんだよ。それを無くすために今を頑張れ。今を生きろ」
そう言うと、シュウはファイルを脇に抱え、部屋から出ていった。
「・・・ごめんね。シュウは別に」
「いや、俺が悪かったんです。シュウさんの言うとおり、すぐに訓練に向かいます。資料、ありがとうございました」
俺はそう言うと、静かにドアを閉め、キラのところへ向かった。
そして、戦闘が始まろうとしていた。