B・P・I・G・B
部屋のなかに入った俺とルナは目の前の物に驚いた。
部屋のなかには数十個の球体が置かれており、その機械全てが奇妙な光を発している。
「これが訓練体『B・P・I・G・B』だ」
「BPIGB?何ですか?」
「あ、そういってもわかるはずないよな
Battle's Practice In Game Ballの略だ。この中には大量の情報空間が入っており、その中に自分達の意識を飛ばし、情報空間の中にある訓練場で能力の訓練をするというものだ。訓練場の大きさはこの学校にある戦場1フロアの約十倍以上だ。それに何よりも優れたところはどんなに攻撃を受けてもダメージをくらうことはない。つまり、痛覚がないということだ。
「痛覚がないってすごいですね」
「まぁ夢の中とでも考えとけ」
勅使河原はボール全てのドアを開けると、俺らを中に入れた。中はイスと大画面のモニターにイスの上には
ヘルメットがあった。
俺はモニターに写し出された指示通りに機械を設定していき、最後にヘルメットをつけた。
すると視界はどんどん狭くなり、完全に意識を失った。
ヘルメットをつけたあと、俺はまるで水中で体が上へ浮き上がるような感覚をとらえた。
そして目を開けるとそこには何もない草原か広がっていた。
「ようこそ、BPIGB空間へ」
耳元についたイヤリングのようなものから声が聞こえる。ずっと何か言っているが俺はその空間に目がいってしまい、聞き取れなかった。
とりあえず俺は勅使河原やキラやルナを探すために走った。俺が最初立っていた場所の近くには何の足跡もなかったため、近くにはいないと考えた。
そして少し走ると勅使河原を見つけた。
「お、わかったか。ここが空間内だ。どうだ?」
「本当に夢の中とは思えませんね・・・。キラさんとルナはどこに」
「また設定間違えたかな、あいつは」
「設定って?」
「あのモニターに出ていた設定通りにやるとこの空間に移動できるのだが、あいつはいつもパスワードとかを間違えてな」
確かにキラならあり得ることだ。でも、ルナは・・・
「たぶんあのルナっていう子もそうだろうな。設定はあいつがしてたし・・・。今回はこういう世界があるってことで終了。エスケープで戻ってな」
勅使河原はそう言うと手を振り、大声でエスケープといい、消えた。
俺も続けて、エスケープと言った。
翌日、朝のホームルームの時間、いつも前に立って何か言う係はいつも通りのリアではなく、オルガだった。
「次の王座決定戦の相手が決まった」
「あの・・・王座決定戦って」
ルナは首をかしげた。
「王座決定戦とは全チーム参加の団体戦だ。最初は会議で対戦相手が決まり、そこからは自分達で対戦相手を探し、戦うというものだ。前チャンピオン、チームAは今回、参加しないため、優勝できるチャンスはある」
「それって俺らもでるんですか?」
「当然だ。柊、ルナにも参加してもらう。人数が足りないからな。その分、俺らも君たちを全力で守る」
「仲間を殺した人間が良く言うぜ」
クラスの後方でキラが笑いながら言う。
「お前の伝達が機能しねぇから、あいつらは死んだんだろうよぉ」
キラの言葉に四津野は耳をふさぎ、雷帝は頭を抱える。
「今回はお前の指揮は無視するぜ。あのときのお前みたいによぉ!」
「あぁ、無視していい。今回は俺が指揮ではないからな」
「「「!!!」」」
その言葉を聞いてキラ、四津野、雷帝は思わず、目を大きく開き、驚いた。
「・・・何言ってやがる。どういうことだ!?」
「今回は『指揮』という役は無しで戦ってもらうということだ」
「あ?お前の頭は空っぽか?指揮がいないってことは戦況を知ることもできねぇってことだぜ?」
「何か考えがあって言ってるんだよな!例えば小型通信機を使うとか」
思わず、四津野も立ち上がり、怒鳴った。
「考えはある。指揮の座に柊かルナを置き、どちらかを守るというものだ。指揮の簡単な説明はこのあとの一、二週間の授業で教わるとリアから聞いた。つまり、すぐに戦力として使えるということだ。そしてもう一人はダブルユニットを使わせてもらおう」
ダブルユニットとは、事前戦闘後の配置決めの時に仲間同士の間を近くすることをいう。事前戦闘を有利に取れるチームOだからこそ考えることのできるやり方だ。
「そこでどちらかを守るように俺ら先輩の誰かを配置するというものだ」
「なるほど・・・考えはわかった」
四津野はあきらめたのか静かに座った。
「・・・まだ、あきらめないのか?キラ」
「うっせ!じゃあもしも」
「キラ、もういいだろ」
雷帝は後ろからキラの肩を叩く。
「オルガにはオルガなりの考えがあるんだよ。それにお前は最後、勅使河原に何て言われた?」
「・・・・・・わかったよ。今回はお前の指揮に従ってやんよ。ただ、少しでも陣形が崩れたり、チームが負けそうになったら、俺なりの戦い方をするぜ。いいか、それでよぉ?」
キラが諦めたことでこの場は何とか収まった。
「それでは一週間後、一回戦目がんばるぞ!」
『おう!』
俺はあの後、雷帝のところへ向かった。
「お、柊か。どうした?」
「あのとき、勅使河原さんに何て言われたってキラさんに聞きましたけど、勅使河原はキラさんに何て言ったんですか?キラさんがあの場から退くってことはそれほどの」
「あ、それか。それはな『とにかく後輩を守り、とにかく王座に登ることを目標にしろ』ってな。まぁもっと長かったけどな」
「何か思ってた通りですね・・・あ、いや、その」
俺は思わず本音が出てしまった。
それを見て雷帝はなぜか微笑む。
「やはり似てるな・・・」
そして雷帝は何かボソッと言った。
「何ですか?」
「何でもねぇよ。それよりも次の授業、急げよっ」
「あ、はい!」
俺は急いで準備をすると、教室から出た。
雷帝は誰もいなくなったのを確認すると、
「やっぱり似てるな、兄に・・・」
と呟いた。