勅使河原 八野地
雷帝はどこかの探偵、刑事かのようにそう言い、窓の外を薄目で見た。
「俺はあのとき、上から見ていてその場にいないため、何が起きたか報告書を見て知ったんだが、どうやら勅使河原とオルガが喧嘩をしたらしい」
「喧嘩・・・ですか?」
「あ、その前にオルガが指揮伝達ということを教えてなかったな」
指揮伝達とは、戦場のあらゆる場所にある圏外地域に指揮役が指揮室という指揮を行うところから直接電波を送らず、あえて伝達役に送り、持ち込み可能範囲の圏外地域でも電波の届く小型の通信機で、指揮を仲間に伝えるというものだ。そして伝達役は戦闘時以外は送られてきた指揮をすぐに送るために集中してなければならない。そしてこの方法は他の班には無く、チームO独特の物らしい。
「そのときの戦場はF2の圏外地域多量の場所だったため、オルガの役というのは大切なものだった。だが、オルガは小型の通信機で送られてきた指揮を無視したんだ。別に敵が目の前にいたわけでもないのに」
「どうして・・・。伝達は戦闘時以外、通信機に送られる指揮を見るのが仕事ですよね?」
「どうしてかはあいつに聞いてくれ。正直、何でだか未だに誰も予想すらできないんだ。それで、あいつらが誰一人として話そうとしないかというとその事件によってオルガを軽蔑し始めたからだ。言うならば隊長として見なくなったって感じかな。そこから全体的にひびが入り始め、今にあたるってことだ。俺はそんなにオルガを憎んでないが」
雷帝はそれだけ言うと懐から酒の入った小さいボトルを取りだし、ふたを開けた。
学校からの帰り道、俺とルナはちょっとした飲み物を買いにコンビニへ行った。買いたいものは人気で売れすぎで出荷停止になった物だ。
ルナはそれを確認して高いところにある飲み物を背伸びして取るとレジに持っていった。俺は後ろからそれを見ていた。そこで店員の顔を見て、その名札を見た。
「あの漢字・・・どこかで・・・」
研修中の下に書かれたとても難しい四文字の苗字。そこには『勅使河原』と書かれていた。
「・・・あなたって元チームOのリーダー、勅使河原 八野地さんですか?」
俺は恐る恐る聞く。店員は目をそらし、
「それはいったい誰ですか?」
と言う。・・・間違いなく、勅使河原 八野地だ。
「おーっす!八野地さん!」
そこにタイミング良くキラが入ってきた。右手には昼休みのみ学校の食堂で売っている、人気の『超BIGなカツサンド』が握られていた。
店員は驚いた顔をするとやはり目をそらす。
「お、柊にルナ!奇遇だな。お前たちも練習の相談か?んなわけないか」
「キラさん。この人が勅使河原 八野地さんですか?」
店員は完全に包囲され、逃げられない状況になり、ため息をついた。
「ったく。お前が来なければ逃げれたが、運が良かったな、後輩よ」
店員はレジから出るとつけていた眼鏡を胸ポケットにしまい、横に分けていた髪をかきあげた。
「俺が元チームO隊長の勅使河原 八野地だ。よろしく!」
「懐かしいっすね、その自己紹介」
「キラ!これから入る後輩に俺のことは話しとけと卒業式のとき言ったろ!」
「あ、すいません!それどころじゃなかったもので」
勅使河原は店員のときの高めの声とは一変、力の入った低い声に変えた。あのキラが敬語を使うということは本当にすごい人なんだというのを確信した。
「で、いつものは持ってきたよな」
キラは元気よく返事をすると、右手に持ったパンを渡す。勅使河原はそれを受けとると、レジにある電子レンジで温め始めた。
「今日も闇使いの練習か?」
「はい。あ、柊も訓練受けるか?」
「そいつも闇系の能力なのか?」
キラは何を隠しているのか、勅使河原の耳元で何か言った。何か怪しい・・・
「なるほど、なら柊には俺の能力『波動』を伝授しようじゃないか」
「波動ですか?」
「うむ。波動とは・・・言葉で伝えるのは難しいから見せようじゃないか」
数分後、店の裏口から黒いジャージ姿の勅使河原が現れた。右手の人差し指には何かの鍵を回している。
「遅れてすまない。ちょっと店長と話しててな。今車を出すから」
勅使河原はコンビニの駐車場にある一台の車に駆け寄ると車のドアを開け、鍵を刺した。
「全員乗って。ちょっと遠くにいくぞ」
キラは勅使河原の言葉に返事をすると、俺らの手を握り、車まで走った。
そして勅使河原は全員乗ったのを確認するとアクセルを踏みこんだ。
「これから行くところは学校から唯一学校外能力使用を許された地区だ。たぶん後輩たちは知らないだろう」
まずそんな場所があったことさえ知らなかった。
車を走らせて数分後、車は駐車場で停まった。そこにあったのは寂れたゲームセンターだった。
「この中にある。空気は悪いが、俺らからしたらいい訓練場所だと思う」
勅使河原はゲームセンターの入り口を開けるとカウンターのような場所に置かれた小皿に百円玉を入れた。
「ここは三時間百円で自由に練習を行うことができる」
「その金ってどこにいくんですか?見たところ誰もいませんが」
「まぁ下行けばわかるさ」
勅使河原はそう言うと、店の奥にある扉を開けた。
「そしてその場は地下にある。ついてこい」
扉の先には長い階段があり、壁の凹みには火のついたろうそくが点々と置かれていた。
「・・・不気味ですね」
「まぁ知らない人がこれ見たら怖がるだろうな」
「でも、この先にはこんな古くさいものではない」
「キラ。それ以上言うな、つまらないだろ?」
「ですね。すみません」
本当にここまで弱そうなキラは初めてだ。
そんな話をしながら少し歩くと、真っ赤なドアがあり、その先で何か機械音が聞こえる。
「ここがその訓練場ですか?」
「あぁ。入るぞ」
勅使河原は真っ赤なドアの横にある何かのスイッチを押すと、そのドアを開けた。
※
その頃、学校のある扉の先では全チームの隊長が集まっていた。
そしてその中から一人の男が集団の前に置かれたステージに上がった。チームA隊長、ゼロハート・ブリュンヒルデだ。
「これから全チーム王座決定戦を開始する!」
オルガ以外のほぼ全員はそれに拍手をする。
「ここにいつも通り対戦表がある。ここには全チームの対戦相手が書かれている。それでは読み上げる」
次々と読み上げられるなか、いよいよチームOが呼ばれた。
オルガは他のチームのような拝むことをせずに、腕を組み、前の席に足をかけている。
「第十部チームOはチームXと戦闘を行ってもらう」
オルガはそれを聞くと、席から立ち上がり、その部屋から出ていった。
余裕だ・・・
扉近くにいた人はオルガがそう言ったと言う。