真実を知るために・・・
朝練が終わり、俺はクラスに先輩たちよりも早く着いた。そして暇潰しに校内を歩いていた。
校内は俺が入学するはずだった高校よりも広く、校内地図はまるでどこかのアトラクションの大迷宮よりもグチャグチャだった。入学した次の日、玄関から少し遠い場所にチームOのクラスがあるため、迷わないように早めに校内地図を頭の中に入れとけ、とキラに言われたのを覚えている。
そして曲がり角を曲がったとき、走ってきた誰かにぶつかった。よくあるラブコメではお約束転回だが、この話ではそんなふうにはいかない。
「大丈夫?ケガはない?」
その人は今朝会ったばかりの東条アキネだった。やはり能力か何かバリアでも貼られているのか、俺は倒れたがアキネは何事もなかったかのように直立していた。
「大丈夫です。・・・アキネさんって何かバリアでも」
「大丈夫ですか?物音が聞こえたのですが」
俺の声をかき消すかのように言葉を重ねてきたのは能力何とか委員会の隊長代理でアキネの弟、東条シュウだった。
「ええ、大丈夫よ」
「・・・いいかげん戦闘以外での能力使用はやめてください」
「ごめんごめん。それよりも彼」
「どこかで見たような・・・」
シュウは目尻にシワを寄せる。そして何か気づいたような顔をした。
「この前の!」
「知ってるの?」
「ええ、昨日チームOのキラと特訓してました」
「調査報告書のチームOメンバーって彼だったのね・・・じゃあ報告書の欄の彼の名前は消しとくわ」
「どうしてですか?」
「その場は見てないけれど、何か悪いことをするような目じゃないから」
「会長。八方美人という言葉を知っていますか?」
「じゃあシュウは目は口ほどに物を言うって知ってる?」
「・・・それは対等できませんよ。むしろ上乗せです」
アキネは何も言えないのか黙りこむ。
「・・・まぁいいわ、名前は消しといて」
「それでも・・・消しときますよ」
シュウはそう言い、曲がった角の廊下の先に消えていった。
「ごめんね、シュウはいつもあんな感じだから」
「はぁ・・・で調査報告書って?俺の名前って?」
「あぁ、その話?まぁ本当は部外者に教えるのはダメだけど教えるわ。昨日、時計台近くでチームOのキラとチームWの連中が許可なしで戦闘をしたというのでね」
「そこに名前を書かれるとどうなるんですか?」
「正直、減点かな?減点はあらゆるものに響く。個人でいうと成績の単位とかチーム総合順位にも響くわ。特にチームOは戦闘評価はほぼトップに近いわ。でも、報告書の減点で総合は減っちゃうの。例えば今回のような無許可戦闘や雷帝の戦闘中の飲酒やキラの器物損害などね・・・まぁ昔はそんなことなくて良いチームだったけど、隊長の卒業や指揮の変更や戦闘の不参加でどんどんチーム内環境は沈んでいったわ」
「そうなんですか・・・」
「あ、ごめんね。別に君のチームを悪く言ったわけじゃないわ。それに今はあなたがチームを変えていってるんだわ」
「チームを変える・・・ですか」
「そう。例えれば、四つの離れた歯車を君が真ん中に入ったことで全部を回すことができるって感じだよ」
アキネはなぜか少し汗をかいている。
俺はこの会話でチームの情報を得ることができた。
リアが最初に言っていたこととは真逆でチーム内は仲が悪く、全員が個々のことにしか興味ないということ。俺とルナが入る前の隊長が優秀だったということなどなど。
「あ、ありがとうございます」
アキネはふと何かに気づくと時計を見て驚いた。
「あ、もう時間!それじゃあ、がんばってね」
アキネはそう言うとシュウの言った方向に消えていった。
昼休み。俺はもう少しチームのことを知るために、チームの戦果などが保存されている書庫の鍵をアキネからもらい、書庫に入った。
アキネの情報によると、この書庫には去年の戦闘の戦果が全て入っており、そのときの戦闘メンバー、指揮、監督まで書かれているようだ。
俺は早速、去年の戦果の書いてある書を取りだし、ページを開いた。そこにはリア独特の丸文字が書かれていた。そこそこ痛い・・・
そんな中、全く書体の違う字で書かれた報告書を見つけた。
「筆記者・・・勅使河原 八野地?・・・誰だ?」
「あー、その人が前隊長ね」
俺は驚いて、報告書の束をひっくり返した。後ろにはアキネが立っていた。
「な、何ですか!驚かさないでくださいよ!」
「ごめんごめん、でも戦果を持ち出されたり、コピーされたりしたら困るから近くで見てろって言われててね」
「・・・ひっそりと見物はやめてください」
「で、その人のこと知りたい?」
「まぁ情報はないよりはましですので」
アキネは髪の毛を触ると、話始めた。
「チームO前隊長、勅使河原 八野地。彼はそのころのチームOメンバー勅使河原を除いた8人を完全にまとめ、どんな戦況からも優位に戦うための戦闘を作り出す。そこから着いた名前は鬼の頭脳。だが、彼は卒業前の戦闘で心にケガを負うの。今は無いけど7vs.7の特別戦闘ってのがあったの。そこでメンバー二人を指揮のミスで殺してしまうの」
「指揮で殺すって・・・」
「一人は四人が固まったところに入れてしまい、もう一人はそいつの後ろにいた敵に気づけずに・・・二人目は今もメンバーの一人の心に大きな傷を与え、治らないままでいるわ」
「それって・・・」
「・・・さすがに教えられないわ。あの人からは口止めされてるからね」
アキネは俺の口の前に指で十字を作る。
「ちょっと口が過ぎるかな、アキネさん」
出口の方から聞いたことのある声が俺らの耳を通る。そこにいたのは視線を尖らせ、アキネを睨む四津野だった。四津野は今にも腰の剣を抜きそうだ。
「おや?噂をしてれば本人が来ましたか。私は彼の追求の結果を述べたまでです。彼も報告書を見て気づいたようですしね」
「今の発言でそいつは気づいたらしいが?」
「まぁ報告書を見ればわかることです。日付は確か」
次の瞬間、四津野は間合いを詰め、剣を抜いた。だが、その剣は隣の本棚の本を切るだけですぐに鞘に戻る。
「相変わらずめんどくさいな、アンタの能力」
「もう聞きあきたわ、そのセリフ」
二人は火花を散らす。そしてその間で俺はどうすれば良いかわからないまま、時間は刻々と過ぎて、昼休み終了のチャイムが鳴った。
次の時間、俺は相変わらずチームOの先輩のことが気になっていた。
確かにこの何週間か、先輩たちを見てきたがちゃんと会話しているところを見たことがない。授業後の十分休みは本を読んだり、寝たり、瞑想したり、酒を飲んだりとで単独行動をして、昼休みは教室から消えるといった感じだ。
そして今も作戦会議を主体とした授業だが、誰一人として会話しようとしない。キラに関しては授業自体に出席していない。
「ねぇ、柊君?」
突然、横からルナに呼ばれた。
「ど、どうした?」
「聞きたいのは私の方だよ、さっきから怖い顔して。何かあったの?」
「いや、ちょっと考え事してた。で何か」
「作戦会議なのに先輩誰一人として話そうとしないじゃん?どうしたのかなって」
「それは俺が説明しよう」
突然、背後から低い声が二人の鼓膜を振動させる。そこにいたのは教室の隅でいつも酒を飲む雷帝という男だった。
「どういうことですか?」
ルナはそんな人物の言葉に耳を傾ける。どこか真剣な顔をしている。
俺も気になっているため、正直、酒臭いこんな人の話は聞きたくないが、聞くことにした。
「あれは二ヶ月前のことだったかな・・・
俺らチームOはその頃一個下のチームAと戦闘をしていたんだ。そのときのメンバーは指揮に前隊長の勅使河原がやっていて、オルガ、四津野、キラに今はいない火の能力を持ったペチカと空間に結界を張るヒスイが出てたんだ。
そこで事件は起きたんだよな・・・