能力調査制御委員会
目の前で多量の爆発が起こる。
その中心でアクロバティックに動くキラはまるで戦闘に特化された体操選手のようだった。
そしてその周りには俺に教えていた闇属性の魔法が拡散していた。
「こいつ、やっぱり強いっすよ。どうするんすか隊長!」
「逃げるな、まだ勝機は」
「勝機?カハッ、笑えるねぇ!」
そのとき隊長と呼ばれた男の顔にキラの膝が入る。
「隊長ぉー!」
「いいねぇ、その顔だ!糞ども!」
キラは躊躇なく集団を一掃する。そして一瞬の間をみて俺のところへ来ると
「柊、しっかりとその目に焼き付けろ!これがお前の目指す道だ!」
と言い、また集団内に入っていった。
次の瞬間、キラは横からの攻撃により、勢いよく横の時計台まで吹っ飛ばされた。そして大きな爆発音と共に壁にめり込む。
「この攻撃・・・あいつか」
「奴等だ。全員撤収!」
隊長は鼻を押さえ、その場から仲間をおいて逃げた。その場には俺とキラと怪我で動けない他チームのメンバーか残された。
そしてそこには学ランを着た黒い集団が列をなしてやってきた。
「これは・・・いったい」
その集団の隊長と思われる男は腰につけた刀を抜くと
壁にめり込んだキラに刃を向けた。
「またあなたですか・・・確か俺はこの前、次はないって言いましたよね?キラ・ヘルフレアさん?」
「これは自己防衛だ。裁くならそこで寝てるあいつらをやれ。東条」
「権利は俺に有りますから。あと彼は誰ですか?噂に聞く新人さんですか?」
東条と呼ばれた男はキラから刃を離し刀を鞘にしまうと、俺に近づく。
「はじめまして、俺は能力調査制御委員会の会長代理の東条 シュウだ」
東条は俺の手を無理矢理握った。
「よ、よろしく・・・お願いします」
「・・・なるほど」
東条はボソッと呟くと後ろで待つ黒い集団に撤退命令を出した。そして俺を見るとその場から消えた。
俺は壁にめり込むキラを引っこ抜くと東条について聞こうとした。
「・・・すごい威圧ですね。東条さんっていったい」
「この学校の権力者の一人だ。それにそれなりの力がある、能力のな」
「権力者・・・」
「まぁあまり深く考えんな。彼と互角に戦うだけの力量を持ったやつがチームOには四人もいるからな。そして六人になるだろう」
そのとき、終業を告げるチャイムが鳴った。
「よし、最後だ。ここから教室までダッシュだ!」
キラはそう言うと走り始めた。
「ま、待ってください」
俺もそれについていくように走った。
その夜、キラはある人間に呼び出された。それはとても意外であまり関わりのない人間だった。
夜風が静まる屋上、小さな町の光が幻想的な空間を作る。それは星空以上に綺麗で桜以上に華やかだった。
そこでペンを片手に空を書く人が柵を背中に座っていた。
「・・・やっときましたか」
「アンタが呼び出すとはどんな風の吹き回しだ?千歳さんよ」
「千歳でいいわ。留年組だし」
「・・・まだ治らないのか」
夜風でめくられた前開きのコートからは白い包帯が空を舞っていた。そしてその中には文字の書かれた包帯が見えていた。
「能力者は一般人より治癒力が高いっていうけど、腕一本治すにはそれなりに期間が必要だわ」
「包帯あってもな・・・で話とは何だ?・・・・・・柊のことか?」
「ええ、詳しく言えば彼の能力のね。どう?彼への特訓は?今日は委員会に邪魔されたみたいだけど」
「覚えのいいやつだ。たぶん次の大戦闘までにはなんとかなるかな」
「ちなみに対戦相手は?」
「チームTだ。隊長さえ押さえれば何とか」
千歳はキラを見て微笑む。
「・・・何だ?その笑みは」
「柊君のもう一つの能力に気づけば勝率は上がるかな。今のところリアさんしか気づいてないみたいだし」
「どういうことだ?まさか・・・第二能力か」
千歳は柵を飛び越えると出口に向かって歩く。そして出口まで行くと振り向いた。
「一つ言うとすれば、あなたは一つの星を見ることにしか目がなくて、他の星を見ることを疎かにしているってことかな」
そう言うと、千歳は手を振りながら暗闇の中に消えていった。
キラは空を見上げ、
「もう一つの星か・・・」
と呟いた。空にはたくさんの星が光っていた。
次の日の朝。まだ朝焼けが目に染みる中、俺はキラから教えてもらった能力の自主練習をしていた。
手のひらから出る闇はその光をも消し、地に落ちて弾ける。
今日も絶好調だと思い、闇を操っていると、手のひらにに集めすぎた闇が暴発し、分散した。
そして破片の一つが近くの道を通りかかった女に襲いかかる。女はまだ気づいていない。
「危ない!避けて!」
女はその声を聞き、飛んでいった破片に気づく。
次の瞬間、女は手を挙げた。すると破片は進行方向を変え、まるで女の前で跳ね返ったかのように
真っ直ぐ、俺に飛んできた。
俺はその破片を片手で受け取った。
「すみません!」
「校則に無かったっけ?学校外での能力使用は禁止って」
女は俺に向けて指を指し、二、三回指を折った。すると俺の足は無意識に動きだし、どんどん女に近づいていった。
「これって・・・」
「自分の世界ーワールド・イズ・マインーって言えばわかるかな?入ってきたばかりだから知らないか」
そして俺の頬を触る。
「私の名前は東条 アキネ。よろしくね、君の名前は?」
アキネは頬から手を離すと胸ポケットから生徒手帳を取りだした。
「柊です。・・・まさか通報とか」
「そんなことはしないわ。ただ・・・あなたの名前を知りたかっただけよ」
アキネは手帳に何か書くと、「じゃあね」と言って学校の方へ消えていった。
「・・・何だったんだ?」
午前六時、今日もこの重たい椅子に座る。
「会長。今日はどうなさいますか?」
「そんな強ばらなくていいわ、姉弟の仲でしょ?」
「ですが・・・」
私は足を組むと、椅子を90度回転し朝日を見た。
「今日は朝から良いものが見れたわ」
「・・・年に何度とない綺麗な朝焼けですか?」
「いいえ・・・それは・・・
その朝焼けを後ろにして、戸惑いながら闇を扱う男の子よ。名前は確か・・・柊君だったかしら」
私は手帳を閉じた。