はじまりの一日目
「「失礼します!」」
俺とルナの声が静かな教室に響き渡る。
本を黙々と読む眼鏡をかけた男。目を閉じ瞑想する短髪の女。サングラスをかけ、机の上に足を乗せて頭の後ろで腕を組む男。机の上に酒瓶を置き、グラスに酒を注ぎ、悠々と飲む男。色々な人間がいるのがすぐに見てとれた。
「今日この学校に入学し、このチームの一員となる二人、柊 海都君とルナ・レッドネイサーだ。よろしく」
本を読む男は俺らに気づくと本を置き、立ち上がり俺らに近寄った。
「俺はこのチームのリーダー、オルガ・アーガイルだ。よろしくな」
オルガは手を出した。俺はその手を握った。
「能力値256~269か」
オルガは握った瞬間、ボソッと何か言った。
「え?何ですか?」
「いや、なんでもない」
そしてルナとも握手を交わす。今度も何かボソッと言い、机に戻った。
「彼のいった数字は気にしないで。・・・えっと席はその二つの席に座って」
そう言い、リアは二つの席を指差す。
「昼休みになったら寮の方を教えるわ。その重たそうな鞄は私に頂戴、持っていってあげるから」
リアは俺からスーツケースを取ると教室から出た。
一切、チームの先輩と話さずに一時間を過ぎた。
チャイムと同時にリアが入ってくる。
そして俺らはこれから使う寮の部屋へと向かった。
その道中、リアはチームのことについて話した。
チーム内のルールや目標、メンバー一人一人の能力や性格や趣味など。
そして俺らの話になる。
「君たちは自分の能力がどんなものか理解してる?ルナさんはあの魔法陣的に吸血鬼でしょ?」
「あ、はい。でもまだ未熟で、呪文を唱えても効果が心配です。前に使って大恥かきまして」
「ルナさんは理解してるようだね。柊君は?」
俺は少し考えてから
「まだわからないです」
と言った。あの事件のときに初めて自分のなかに眠る能力に気づいたのだが、それを言葉には出せなかった。あの手の甲からでた半透明な赤色をした爪、それの正体を知るためにここに来たと言っても過言ではないから。
「そうか・・・。なら君たちがこれから行く寮の部屋の左の部屋に住んでいる千歳さんに聞いてみればわかるんじゃないかな」
「千歳さん?」
「まぁ行ってみればわかるよ」
俺らはようやくこの学校の寮に着いた。
「ついたよ。部屋は二人一部屋で、大きさは普通の寮の部屋の二倍の大きさだから狭いってことはないかな?部屋の番号は203だから」
リアはそう言い、俺とルナに部屋の鍵を二つずつ渡すと「あとは自分達で」と言い、学校に帰っていった。
部屋についた俺らは部屋を見て回り、今は持ってきたスーツケースの中を整理していた。
服は部屋の隅にある大きめのタンスの中に入れると俺はテレビ前のソファに腰を下ろした。 俺が整理している間、テレビを見ていたルナの横に。
「お前・・・着替えとかはどうしたんだ?」
「あ、それならもうすぐ来ますよ」
ルナは画面の左上に表示された時計を見ると、ベランダへ出る窓の鍵を開けた。
「来ましたよ」
俺はルナに近づき、窓から外を見た。
遠くから何かがこちらに向かって一直線に飛んできている。黒い羽を生やしたそれは人間のような格好をしていて、片手には大きめの鞄と剣を持っていた。
それはベランダの前で止まると、ルナが鍵を開けておいた窓を開けて部屋に入った。
「お嬢様、着替えと剣を持って参りました」
「ありがとう」
ルナは二つを受けとるとテーブルの上にのせた。
「そちらの方は?」
「彼は柊君。怪しい人じゃないよ」
「あ、どうも」
俺はとりあえず挨拶した。
「こちらこそ。私はお嬢様の執事をしているアローです。よろしくお願いします」
アローは翼をしまうと俺に一礼した。
「それでは失礼しました」
アローは最後、俺らに一礼すると翼を広げ、窓から飛び立った。
「あれでも、おもしろい人なの」
「へぇ・・・。その剣は?」
ルナは剣を鞘から抜き、俺に見せた。
「これは私が剣術を覚えるために使ってる剣。学校にいる間も練習しろってことかな」
ルナは剣を鞘に戻すと玄関の傘立てに入れた。
「それでいいのか?」
「屋敷でもそうやってたから」
「今思ったんだけどさ、お前の体型的に今の剣はあってないんじゃないか?大きいし、重そうだし」
「それについては戦うときはこの体じゃないから」
「・・・は?それはなんだ、装備とかか?」
「それじゃあ体型は変わらないでしょ?本当は戦闘時まで取っておきたかったけど、説明面倒くさいし使うかな」
そう言うと、ルナは両手の手のひらを合わし、目をつぶった。すると、学校前で見たような赤色を魔法陣が前後左右から現れて、ルナを包み込む。
そして魔法陣を破壊して現れたのは俺よりほんの少し小さいくらいの女だった。
白いワンピースに身を包み、金髪を後ろで一つに縛り、少しだがルナの雰囲気は残っていた。
「どうだ?これならあの剣が似合うだろ?」
「そう・・・だな・・・」
動揺していた。それと共に、俺はその姿に少し好意を持ってしまった。
「こんなんでいいでしょ?疲れたからもう戻っていい?」
「あ、あぁ。いいけど」
ルナは俺の返事を聞くと指を鳴らし、元に戻った。
「あー、落ち着く。やっぱりこうじゃないと」
「あ、そういえば、リアさんが落ち着いたら千歳さんのところへ行って能力見てもらってって言ってたような」
「私は無理。ちょっと疲れた」
ルナはソファに座り込み手を振る。
「じゃあ俺一人で行ってくるから、留守番よろしく」
俺はリアに言われた通り、左の部屋にいった。扉の住居者のところに『千歳 真姫』という名前が書かれているのを確認するとドアを二、三回ノックした。
「はーい、入ってきていいですよー」
という言葉と同時に扉が自動で開く。
部屋の中は壁一面に無数の字が書かれ、廊下は元の床の色が見えないくらいに黒い何か奇妙な物が敷き詰められていた。
そんな床を少し歩き、黒いドアを手動で開けると広い部屋に出た。
家具はほぼ俺とルナの部屋に近かったが、壁には大量の本が目一杯に入った本棚があり、そこに入らなかったのか本棚の前にもたくさんの本が積まれていた。
千歳はこちらを見ると回転する椅子を半回転させ、こちらに向いた。
「ようこそ、寮の仮図書館へ。私はこの仮図書館のオーナーの千歳 真姫です。よろしく~」
「こちらこそよろしくお願いします。で、話なのですが」
「あぁ、OK、OK。話はリアから聞いてるよ。能力診断だよね?」
「はい。それで能力についてですが」
「ストップ!能力の情報は言わないで!」
そう言うと、立ち上がり左手で俺の口を押さえる。
「私の能力を使って当てるから」
そう言うと、手を離し椅子に座る。
「それじゃあ、まずここにあなたの本名を書いて」
リアは机の上に置かれたメモとペンを指差した。
俺は指示通り、そこに名前を書いた。
「えっと、柊君ね。それじゃあ始めるよ」
リアは深く深呼吸をするとその字に手をそえる。すると三文字はふわふわと宙に浮かび上がり、リアの手の中に入っていった。
「なるほどね・・・」
リアは深く頷くと、手元のメモ帳に何か文を書き始めた。そしてメモを破りとると、そのまま手渡しでいいのに紙飛行機にして、俺に渡した。
「そこに君の能力は全て書いたから、帰ってから読んで。それじゃあ、健闘を祈るよ」
俺は少しグチャグチャな紙飛行機を持つと、俺はお礼を言い、部屋から出た。
いいな、右腕。
部屋から出るとき、部屋から寂しい声が聞こえた。
部屋から帰ると、すぐに紙を開いた。
「え?・・・どういうこと?」
そこには
弱い気持ちに負けるな。
自分の選択を信じろ。
と書かれていた。
※
柊君が帰ったあと、私は手の中で潰れた三文字をじっくりと見た。あのとき、柊君に渡したのは最初から用意されたもので本当に能力を見るのは初めてだった。
「彼ならチームOが王者になるための架け橋になってくれるかもね、雷帝」
私は右腕のあった場所を見て、少し笑みを作った。
ここは地獄だよ、柊君・・・