防災訓練の秋
先生は外から中を伺っていた。そんな時、突然、追い風が吹いた。
その追い風は雨とともに襲い、先生を強制的に校舎内に入れ込んだ。
「きゃあ!な、なに?今の風……。」
先生は突然起きた突風に驚きながらも引き返すわけにはいかず、そのまま廊下を歩き出した。奥の方の天井が崩れてしまっている。
先生は怯えながら恐る恐る足を踏み出す。
「あっ!修太郎君!」
先生は奥の教室で足を抑えてうずくまっている修太郎を見つけた。
「せ、先生……。」
修太郎は先生を見つけると涙声で先生を呼んでいた。
「修太郎君!良かった!無事で……。右足、痛いの?」
先生はすぐに修太郎に駆け寄ると他にケガがないか細かくチェックしていた。
「ま、これで一安心だろ。」
みー君はホッと表情を和らげると先生におぶられて去っていく修太郎をそっと見つめた。
「おお……。なんかよくわかんなかったけどすごいね!ちゃんと先生来たよ!」
イナはみー君に目を輝かせながら感動を伝えた。
「まあ、これくらいはな、厄災の神だがこういう使い方もできる。」
「え……?厄災?そ、それでこの学校が……。」
イナはみー君の発言で顔を青くした。
「あ?ああ、違う違う。
今は厄災が起こっても神のせいにはしねぇだろ。
昔は人間が厄神のせいにしてたから厄神のせいだったが今は厄災の神は祭られて厄除けになったりしてんだよ。
俺達、神は人間の感情、価値観で変わる。
だから今の時代での災害は俺達は関係ない。」
みー君は慌ててイナに弁明した。
「そうなんだ。じゃあ、今はなんで災害が起こるの?」
「そりゃあ、化学とか科学とか地殻変動とかそういうのだろ。世界のシステムが自然現象に切り替わったんだよ。だから俺達は関係ない。」
みー君はそれだけ言うとイナを連れて校外へと足を進めた。
「……私、ちゃんと防災訓練毎年出る。」
「おう。そうかそうか。いい心がけだ。」
みー君はイナの頭をポンポンとたたくと大きく頷いた。
「とまあ、そういうことがあってだな。」
みー君はヤモリに一通り話し、一息ついた。
「ああ、そうか。それで私、防災訓練出るようになったんだ!」
イナは「今思い出した」と声を上げた。
それを横目でみたヤモリは大きなため息をついた。
「はあ……。君ね、なんで防災訓練に出るようになったのか忘れたまま防災訓練に出ていたの?」
「もうだいぶ前の話なんだもん。忘れちゃったよ。」
きょとんとしたイナの顔を見、ヤモリは再び深いため息をついた。
「稲荷神は俺の事も覚えているか怪しかったからな。」
みー君はくすくすとほほ笑んだ。
「うん。忘れてた。」
イナもケラケラと笑った。
それを再び横目で見ながらヤモリはぼそりとつぶやいた。
「まあ、いいけど、それであの男の人は防災訓練に熱心なわけね。」
ヤモリはおじいさんを見る。
おじいさんは今も防災の大切さを熱心に説明していた。
「ところで……」
みー君がアイスの事を話そうと思ったとき、地面が波打つように揺れた。
「う、うわっ!地震!」
イナは怯えてヤモリに抱きついた。
「イナ、これは大丈夫だと思う。そんなに揺れてないよ。」
ヤモリはイナを安心させると校庭に集まっている子供達に目を向けた。
子供達は若干怯えていたが校庭にいたのでそれほど不安がってはいなかった。
……避難訓練ちゃんとしてて良かった。
子供達の顔はそう言っていた。ここではじめて目の前で熱弁していたおじいさんの言葉が胸に響いたようだった。
おじいさんは地震が収まってから自分の体験談を話し始めた。
子供達の顔は先程のように緩み切ってはおらず、みんな真剣に聞いていた。
「まあ、ガキなんて実際に体験してみないとわかんないやつが多いからな。今の地震はいい教訓になったんじゃないか?」
みー君はイナとヤモリを仰いだ。
「ね、ねえ、君さ、本当に厄災と関係ないの?今の地震……偶然じゃないような……。」
ヤモリの言葉にみー君は複雑な表情を浮かべ
「さあ?」
とつぶやいた。
それを見たヤモリとイナはさっと顔から血の気が引くのを感じつつ再びみー君に怯えた。
「まあ、とにかく安いアイス八本、どっかで買ってきてくれ。頼んだぜ。」
みー君はそれだけ言うとヒラヒラと手を振り去っていった。
「うっわあ……。真相がはっきりしないのが怖い。」
イナはヤモリにしがみつき、ぶるぶると震えていた。
「と、とりあえず、あんまり安すぎると失礼だからちょっと高めのアイスにするわ。イナ、暇ならちょっと一緒に来て。」
「う、うん。いいよ。」
ヤモリとイナは怖かったのかぴったりと寄り添いながらアイスを買いに学校から離れていった。