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七夕の紡ぎ

 ひっそりとした社の裏側は祭りの騒がしさとは真逆で人はおらず、草が伸び放題だった。その社の裏側の外廊下部分にワイシャツ姿の若い男性が暗い顔でぼうっと座っていた。


 「あの人?」


 「そうそう。なんか異色だろ?できれば名前も聞き出してほしい。僕が力になれるかもしれないからさ。」

 ヤモリの横から運命神が小さく頷いた。


 「ヤモリ!お話聞いて来てあげて!助けてあげよーよ!」


 イナがヤモリの背中を勢いよく押したのでヤモリも仕方なしに男の方へと近づいて行った。


 「あ、あの……。どうかしましたか?」

 「ん?」

 ヤモリの声掛けで若い男が暗い顔を上げた。


 「何かお困りですか?」

 「……?」

 突然、女の子が話しかけてきたので男性はとても驚いていたようだった。


 「あ、えっと……その……。」


 「ああ、君、この近くに分校がある事は知っている?高梅山分校って言うんだけど。」

 男は突然、ヤモリに質問を投げかけてきた。


 「え?あ、はい。知っています。」


 「俺、その分校の生徒だったんだ。今はこの辺には住んでいないんだけどちょっと人を探していて……。」


 「分校の生徒を探しているんですか?」

 ヤモリの言葉に男は小さく頷いた。


 「卒業生を探している。小学生の時の面影しか知らないんだ。だから探せなくてちょっと落ち込んでいただけさ。だいたい、彼女がこの祭りに来ているかもわかんないのにさ。俺もどうかしている。」


 「女性を探しているんですね。よかったらなんで探しているのか話して下さい。きっと話すとスッキリしますよ。」


 ヤモリは男性に優しく話しかけた。男性は悩みを聞いてくれる見ず知らずの少女を訝しげに見ていたが抑えきれずに話しはじめた。


 「俺が探している女の子は俺と同級生だ。あの学校に通っていた時、俺はその子が好きでさ、でも素直になれなくて……俺、その子いじめてたんだ。」


 「え……。好きなのにいじめてたんですか?」

 ヤモリの言葉に男は悲しげに頷いた。


 「まわりの奴らに好きだって気がつかれるのが嫌だった。でも彼女を振り向かせたかった。小学生の恋心だ。


 そんな大したもんじゃないんだろうが……俺は本気だった。……だけど……俺がやりすぎた。俺がその子をいじめてた事で俺の友達もいじめはじめて俺はいじめから抜け出せなくなっちまった。そして俺は思い知ったんだ。」


 男はそこで言葉を切った。


 「……。」

 ヤモリは男が話すのを待つ体勢を取っていた。男は一呼吸おいて再び話しはじめた。


 「その子が……首をつって死のうとした……。一命は取り留めた……。だが死ぬ寸前だったらしい。


 ……俺は好きだった子を殺そうとしたんだ。……その子はこの祭りが好きだったようでいじめられている時でも母親と祭りを楽しんでいたらしい。……今更、会う資格なんてないけど……会ってあやまりたいんだ。でも、神様はどうやら許してくれないみたいだな。」


 男は弱々しい顔で微笑んだ。


 「そうですか……。あなたの名前はなんて言うんですか?私、探すの手伝いますよ。」


 「三鷹(みたか)隆一(りゅういち)だ。探している子は高橋(たかはし)芽衣(めい)。」


 男は何かにすがるように小さく自分の名前をつぶやいた。顔はなんでこの子に名前なんて言っているんだと言っているが何かにすがってでもその女性を見つけたいらしい。


 「わかりました。ちょっとここで待っててください。」


 ヤモリは男に念を押してここにいるように言うと運命神とイナの元へ走って行った。


 「名前は三鷹隆一さん。高梅山分校時に好きだった女の子に会いたいんだって。女の子の名前は高橋芽衣。運命神、探せる?」

 ヤモリは運命神に目を向けた。


 「そこまでわかってればいけるはずさ。三鷹さんも一緒に探そうって言ってくれ。」


 「わかった。」

 ヤモリは再び男の元へ戻った。


 「私、その人知っているかもしれないです。一緒に探しましょう!」

 ヤモリがそう男に言った時、男は突然立ち上がった。


 「……?」

 ヤモリは戸惑い、男を見つめたが男は神社の裏参道に続く道をじっと見つめていた。


 「あ、あの……?」

 ヤモリが心配そうに声をかけた。しかし、男は何の反応も示さず、目を見開いたまま、裏参道へと走って行ってしまった。


 「あ、あれ?私……なんか言ってはいけない事を言ったかな?」

 「いや、彼は例の女性を見つけたみたいだな。」

 ふとすぐ隣に運命神がいた。


 「え!見つかるの早くない?」

 「彼女の力のようだな。」

 運命神はきょとんとしているイナの頭をそっと撫でた。


 「ああ、イナは縁を結ぶ神でもあったんだっけ?特に恋の。」

 「あ、うーん?そうみたいだね……。」

 イナは曖昧に返事をしたがどこかさみしそうだった。


 「イナ?どうしたの?」

 「わからないけどこの出会いはうまくいかない気がする。」

 ヤモリの言葉にイナは唸りながら答えた。


 「そうだな。残念ながらうまくいかないようだね。これは。」

 運命神も頭を抱えながら外廊下に腰を下ろした。


 「あーあ……せっかくのお祭りなのになんだかせつない。」

 イナがあまりにも落ち込んでいるのでヤモリは慰める事にした。


 「ま、まあ、そう言う時もあるよ。ほら、かき氷食べに行こう!」

 「かき氷!よしっ!私二つ食べちゃうよ!」

 ヤモリの慰めでイナは少し元気を取り戻し、小さく頷いた。


 「よし。僕も行く。君達と少し遊びたい。あんた達、この祭りの時しか遊びに来ないからなあ。」


 運命神はにこりと微笑んだ。三神は神社の階段を降り、近くのかき氷の出店でかき氷を四つ買った。買ったのはヤモリであるが一つ余ったかき氷を食べるのはイナだ。


 「ふふーん!かき氷二つ食べちゃおー。」


 イナは元気を取り戻し、かき氷を両手に持ち、ニコニコと笑っていた。しかし、いざ食べようとした時、手に二つ持っていたらスプーンが持てない事に気がついた。イナはしゅんと肩を落とした。


 「よくばるとそうなるんだ。」


 運命神はレモン味のかき氷をおいしそうに食べながらイナに笑いかけた。イナが頬をふくらませながら運命神を見た時、隣にいたヤモリが突然声を上げた。


 「あっ!さっきの男の人!えっと……三鷹……さん。」


 ヤモリの声で運命神とイナは同時に顔を上げた。少し離れた出店の横で男は呆然とうなだれていた。


 「あー……あの様子だと……ちょっとなあ。」

 運命神は頭を抱えた。


 「ヤモリ!このかき氷あげて!元気出してくださいって言って来て!」

 「ええっ……。」


 ヤモリは困惑した顔をしていたがイナにブルーハワイ味のかき氷を押し付けられ、しかたなしに男の元へ行く事にした。


 「あ、あの……。これよかったらどうぞ。元気出してください。」


 ヤモリの声に男がハッと顔を上げた。少し目が潤んでいた。男はよくわからないまま、ヤモリからかき氷を受け取ると戸惑ったまま食べ始めた。


 「さっき、探していた人を追って走って行ったんですよね?どうでしたか?」


 「顔も見たくない……近寄らないでって言われてしまったよ……。ま、当然の事なんだけど。あの子……すごくきれいになってた……。実際に会うとあの時の好きだった気持ちが蘇ってきてもう……俺……。」

 男はかき氷をかきこみながら泣いていた。


 「あ、あの……頭キーンってなりますよ……。」

 「うぐっ……。」

 ヤモリの忠告通り、男は低く呻きながら額あたりを手の甲で叩いていた。


 「地味ちゃん……地味ちゃん……。」

 いつの間に来たのかすぐ横に運命神が立っており、ヤモリの耳元にそっと声をかけた。


 「……?」

 ヤモリは言葉を発する事なく、運命神を見上げた。


 「恋愛運のおみくじを引くように言って!ここにはイナちゃんもいるからきっといける!」


 運命神はこの男の運命がちらりと見えたようだった。運命神が必死だったのでヤモリは軽く頷くと男に提案を持ちかけた。


 「あ、あの!ここの神社の恋愛運のおみくじすごく当たるそうです。一回引いてみて今後の恋愛運を見て行ったらどうですか?気まぐれに。」


 「……でも、どちらにしろ、あの子とは疎遠になる。」

 「そんな事、わかんないじゃないですか。」

 ヤモリは無理やり男を立たせると神社の階段を上らせた。


 「おお……。ヤモリが積極的に男の人を攻めているよ!」

 隣で呑気なイナの声が聞こえたがヤモリは無視をし、男を進ませた。神社に入り、恋愛みくじの行列にかき氷を食べながら並んだ。


 やっと男の番が来て、男はややいい加減におみくじを引いた。


 「別に期待してないが……。」

 男はそうつぶやきながらも顔は真面目だった。信じていないと見せかけているが本当はとても緊張しているようだ。おみくじをそっと開く。


 「んぐっ!」

 突然、男は変な声を上げた。


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