みずいろ
ハーレムを傍観する面倒臭がり。コメディ。
※発言の一部が少々下品です。
「畜生、何でだ、何であいつだけモテてるんだああああ」
「はいはいそうですねーびっくりですねー」
「心底面倒そうに応対すんな傷つくだろ!」
「面倒だからそれ相応に対応してるんじゃないの」
「泣いてやるううう!」
嘲笑うと、机を叩いて鬱陶しいテンションで嘆くクラスメイト。うわあ面倒臭い。その喧しさは、普通にしていたら目立つだろうが。
「お弁当作ってきたんだけど、どうかな? まーくんの好きな玉子焼き、入れといたよ」
「あらあ、じゃああたしが食べさせてあげるわ。ほら、あーんして?」
「ば、ばっかじゃないのっ! ベタベタするなんてみっともないわよ、離れなさい!」
「もーっ、そんなんじゃいつまで経ってもお昼食べられないよぉ」
「…ふむ。男心を掴むには胃袋から、というのも有効な作戦かもしれないな」
本日は教室の中心で愛を取り合う大会が勃発中なので、私たちにはあまり関心が向かないのであった。
まだなおぎゃあぎゃあ喚くクラスメイトを見つつ、渦中の少年を考える。
容姿にはさして際立ったところがない。勉強や運動などの成績も平均的な結果のようで、特に目立った記憶が無い。性格は喋ったことがほぼ皆無なのでよく知らないが、多分一般的。ゆえに、将来は良妻賢母間違いなしの娘さんとか、妖艶ナイスバディの持ち主とか、勝ち気なお嬢様とか、甘え上手な妹系とか、知的クールビューティとか、メインヒロイン級の綺麗どころが揃って彼にお熱の理由はよく分からない。
分からないがひとつ言えること。
「そんなに羨ましい? リアルハーレムって面倒そう」
とりあえず美少女軍団の中心にいるかの少年は、ひどく精気を吸われてるみたいだけど。
「んなもん贅沢病だ! ハーレムは男の夢じゃあああ!」
「残念。あんた今大抵の乙女を敵に回したよ」
「なぬ!?」
当たり前だろう、ワンオブゼムで満足できるような現代乙女は希少種だ。
「ってか何であたしがあんたに話しかけられてんの」
「俺の話に付き合ってくれる女子がこのクラスにはもうお前しかおらんのだ!」
確かに上記の美少女軍団を除くと、理系の我がクラスにはあたししか残らなくなるが。
「たかが消去法であたしの昼休みを潰す気? 良い度胸ね…こればっかりは手を下してあげる、去勢されるか後ろから麺棒突っ込まれるか選びなさい」
「ごめんなさい女王様!」
誰が女王様だ。近くにあった足を思い切り踏みつけてやる。痛みに呻く目の前の男を置いて、ハーレムの中心を見やる。
三ヶ月くらい前までは、幼馴染だという良妻賢母系美少女ぐらいにしか構われてなかったはずだけど、何があって何時の間にああなったのやら…どうでも良いか。
「いやこうなるまでに結構派手で甘酸っぱい事件いくつもあったから! 全部忘れたのかよ!」
「勿論。面倒な他人事なんて覚えてるだけメモリの無駄。その分で構造式がいくつ記憶できると思ってるの」
「凄ェ羨ましいわその割り切りと使い勝手の良い頭。人間関係貧しくなりそうだけど」
別に、承知の上でやっているのでその点は構わないと思っている。
というか、こいつはいつまでのらくらと話し続けるつもりだ。
「モテたいの何のって本題じゃないでしょ。とっとと言いなさい。もしあんな下らない『本題』であたしの時間を潰しやがったんだったら一升瓶突っ込んでやる」
「え、何このそこはかとないトキメキ。その過激さがクセになったらどうしよう」
「あたし、迷惑な変態に人権は認めない主義なの」
「冗談ですマジすみませんでした女王様!」
だから誰が女王様だ。机の下で級友の脛を強かに蹴飛ばしてやる。痛みに暫し悶絶していた彼だったが、机の上に顎を乗せたまま、すっと声を低めた。
「実際さあ、今のクラスのムードどう思うよお前」
「良くはない」
つられて声を落とす。
なるほど本題は其処か。そういやこいつ、忘れてたけど副級長だった。今までの馬鹿話は、周囲から耳を排除するための伏線…とはあまりに好意的な解釈過ぎるか。絶対楽しんでやってた。
先程も言った通り、我が理系クラスは女子より男子の割合が圧倒的に多い。しかしながら美少女率は非常に高く、他クラスの男子の羨望を一身に集めているらしい。まあその美少女たちが、たった一人の、しかも一見…で終わるのかどうかは定かではないけど、とりあえずスペック普通な男子に夢中。露骨な行動には今のところ出ていないが、正直、彼らを見ている男子たちの視線は気持ちの良いものではない。嫉妬という字はどちらも女偏だけど、その感情自体は女の専売特許ではないのだ。自分と同程度、或いは下かもしれない奴に、魅力ある異性を根こそぎさらわれた、となれば、良い気持ちはしないだろう。ついでに、美少女たちも彼を取られまいと結構なバトルを繰り広げているし、女子同士もなんだか微妙。
一応、彼がモテ期に入るまではそこそこ和やかな雰囲気だったのだ。それが壊されたことは、まあ彼の責任ばかりではないだろうけど……ああ面倒臭い。
「人間関係って、色恋沙汰が入ってくると途端に絡まるからね」
「そーなんだよなあ…で、ハーレムに関して冷静という希少な存在に、何ぞ事態を好転するアイデアが無いかと」
「一つあるけど」
「え、何」
「誰か一人を選ばせる」
現状は、彼が誰か一人を選びきれていないことにも一因がある。だから美少女たちは彼に選ばれようと必死になり、「何であいつだけ良い思いを」と周囲の視線が黒ずむわけで。誰かを選び、他をきっぱりと断りさえすれば、大抵の女子は諦めをつけるだろうし、大分男子からのやっかみも軽減するんじゃないか。
「単純だけど…盲点だったな」
「いくら美少女侍らせてても、一人だったら精々リア充爆発しろ、で済むんじゃない?」
「よく知ってたなそんなスラング」
単なる受け売りだ。でも多分一番近い表現じゃないかと思う。
うんうんでも良いんじゃね?というようなことを呟きながら表情を明るくする彼に、あとは丸投げする。
「じゃ、あんたのほうでよろしく言っとけ。あたしは関わりたくない」
今は男子のほうの話だと分かっていたので言わなかったが…女にしか見えない、女同士の恋の鞘当も相当なのだ。面倒臭すぎて近寄りたくない。
「後でバレた時に吊るし上げられるのは俺だけ…と」
「恨みがましく言うな。美少女に冷たくされるんだから本望じゃないの、見習いマゾとしては」
「いやいやいや、そんな想像するだに地獄絵図、真性じゃないと耐えられないから! 俺には無理です!」
見習い云々は否定しないのか。
「ま、でも、けしかけてみるわ。いつまでも宙ぶらりんじゃ、結局誰のためにもならんしな」
「じゃあ、そうしてみたら」
あたしは傍観させてもらう。
そう言外に告げたことを理解したのだろう、級友は苦笑した。
「また、相談乗ってくれるか?」
「あたしを巻き込まないならね」
「わお、クセになりそうな身勝手さー!」
遠回しに拒否を示して応じると、今度は苦笑でなくはっきりとした笑顔が返ってきた。意味が分からない。
言葉の真意も、だから理解できなかった。
世界の主役は、級友の少年。ギャルゲーっぽい状況をイメージしています。
実際美少女ハーレムが出来たら内部は元より周囲もギスギスしそう、しかしあまり暗いノリにしないで、という方向性で書き進めていったら、何故か語り手と副級長が濃くなった不可思議。




