表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾な女の子 連載1周年記念
98/130

~ 眠り姫 ~ その7

  傷付いた美九音を真冬さんが用意してくれた部屋へと運び込み、部屋に置かれたベッドに傷の手当をするためにうつ伏せに寝かせた。


「知くん? いつまで部屋に居るつもりなのかな?」


 んん? 俺が居ると不味いことでもあんのか?


「御主人様が御姉様のことを誰よりも心配していることは分かる、でもここに居てはダメ。もし私が御姉様みたいに怪我をして眠り続けていたなら、御主人様は傍にいてくれる?」


 いつもの様に紅葉は無表情のまま、そう尋ねて来た。


「当たり前じゃねぇーか? 俺は紅葉や未美が同じ様な目に遭わされたとしても、同じ様に心配するしお前らを傷付けた奴らを許さないと思う」


「じゃあさ? あたしが無意識のまま眠り続ることになっちゃったら、知くんはずっと傍にいてくれる?」


「勿論だ」


「これから何が起きようとも? 何が行われようとも?」


「ああ、傍に居るさ」


「御主人様はえっちね」


 えっ? えぇえええっ! まさかのリアクションが返ってきちゃった。テヘペロ(o^-')ゞ


 紅葉と未美、そして波音ちゃんや姫子先生、真冬さんまでもが俺に冷たい視線を向けている。


 俗にいうところのジト目で睨まれている。


 えと? 俺……なにか悪い事でもしたの?


「知泰さんっ! 今から久遠寺さんの傷の手当てをするんですよ? もう分りますよね」


「七霧、妖とはいえ久遠寺も年頃の女の子なんだぞ? これだけの傷を手当するには、ほら、な? 分かるだろ」


「そ。これから御姉様を全裸に剥く」


「ちょっ、ちょっと狼っ! なにも全裸にしなくても傷口の周囲を切り取って手当するのよ。そのあとに替えさせてあげなくちゃだけど、パンツまでは大丈夫だと思うよ? でも傷口が背中だからブラは取らないとダメかもね」


 んん? それのどこが問題なんだ? 俺はこいつの幼馴染みだし、小さい頃には一緒にお風呂にも入ったことだってあるんだぞ?


「知くん? 怒るよ」


 未美が半ば半ギレの口調で俺を睨んで来た。


 はいはい。分りましたよ、出て行けばいいんだろ? 俺ってば主人公なんだよ? この物語は俺の一貫した一人称んだから、俺を追い出せば話が続かねぇーぞ?


 ……いやその、勘違いすんなよ? 俺はただ美九音が心配なだけなんだからな! 幼馴染みだし一応こいつは許嫁なんだし心配くらいはするさ。


 決して美九音の裸が見たいわけじゃねぇーんだぞっ!


「こんばんはっ! 漆黒の闇夜を駆けて、いにしえの朋のために馳せ参じるは宇敷うじき くるる、艶々黒髪のボブカット(おかっぱ)前髪ぱっつんの前髪が愛らしい、ちょっと? 引き籠もりの女の子っ! 座敷童、只今参上っっ」


 ……はいはい。


「知泰お兄ちゃんっ! リアクション薄いよっ。お兄ちゃんは突っ込み担当でしょ? 仕事してよっ」


 姫子先生たちが仲間の妖に頼んで、結界に長けた妖の座敷童を呼び寄せてくれていた。


 その枢が今到着した。


「デッキに妖、火の車さんを召喚、相手のトラップを墓地に送り、七霧の生家より座敷童の枢を召喚」


 ……はいはい。


「酷いよっ知泰お兄ちゃんっ! ここ突っ込むところだよっ! 冷たいよ遊んでよお兄ちゃんっ」


 俺の素っ気ない対応に涙目になりながら、抗議する座敷童こと宇敷 枢だが、今はそれどころじゃねぇーんだよっ!


「座敷童、引き籠もり中に呼び立てて済まん。だが事は急を要したので呼ばせてもらった。直ぐに久遠寺に結界を張ってくれないか」


 姫子先生が枢を急かせた。


「っうんとにもうっ! 美九音お姉ちゃんの一大事だと聞いたから仕方ないけですけどっ! あたし忙しかったんですよっ、RPGを2にてつしてレベル上げまくってたのに、復活の呪文を書き留める暇もなく、火の車さんが電源切るんだもんっ!」


 復活の呪文を書き留める?


「また前回の呪文を入力しなくちゃいけないんだよ! 低レベルのときの……もひぺ ひでぶ あべし……って!」


「済まなかったな枢。……だけど頼むっ」


 頭を下げた。見た目10歳くらいの幼女に頭を床に擦りつけて懇願した。


「知泰おにいちゃん? 踏んで欲しいの?」


 違ーーーーうっ! でもまあ、それも有りだな。っつーか! それ今度お願いするけど、今は……。


「頼む、美九音を助けてやってくれ」


「うん勿論だよ。あたしそのために来たのですよ」


 座敷童……ありがとな、恩に着るぜ。


 座敷童が結界を張る準備を始めた。とりわけこれといった物を用意したり必要とはしていないみたいだ。


 ただ在り得ないくらい集中しているみたいだが……。


「妖が張る結界は人間の様に護符だのなんだのは必要ないんですよ、知泰さん」


 波音ちゃんが不思議そうにしていた俺に説明してくれた。


「妖が結界を張る際に必要なものは妖力が全てなんです、人間の術のように特殊な媒体や護符、それに小難しい知識は要らないんですよ? 必要なのは自身の妖力と何の為に用いるかという強い気持ちなんです」


 集中していた枢が急に脱力し溜息を吐いた。


「ふぅ~……美九音お姉ちゃんが回復する様に、清浄の幕を張れましたですよ、悪しきを遠ざけ悪しきを浄化する結界です。弱いですがホイミの効果……じゃなかった、回復、治癒の効果もありますです」


「枢、 美九音を頼む。どうかこいつの傷を治し、目覚めた時には何時ものように元気なこいつに戻れるようにしてやってくれ」


「結界も張れた。そうとなれば早速、久遠寺の手当に入るぞ」


「急ぎます、久遠寺さんは九尾の狐ですから、まずこれくらいの呪で今すぐ死ぬことはありませんが、手遅れにらればこのまま永遠に眠り続けることになるかもしれません」


 待てよ? 永遠に眠り続けることになるだって? そんなのって――。


「死んでるのと同じじゃねぇーかっ! 波音ちゃん」


「ええ、生きながらに死んでいる、そうなれば死んでいるのと同義なんです。だから知泰さんは」


「そうね、知くんは」


「早く出ていけ。この部屋から」




 俺と結界を張る仕事を終え用無になった枢は部屋を出され、閉ざされたドアの向こう側からは、冷静さを欠いた言葉で会話をする姫子先生や波音ちゃん、そして普段はきゃぴきゃぴしていて気ままなで他人に対して興味の薄い未美、いつも冷静で言葉少ない紅葉でさえ、驚きの様子が手に取るように伝わって来る言葉が飛び交った。


「波音先生、久遠寺の衣服をハサミで切って患部を露出させてください」


「はい、姫子先生……こ、これは……酷いですぅ、久遠寺さん良くもこんな……」


「久遠寺……お前、ここまでの覚悟を持って」


「……狐、あんたってば、こんな、ここまで……あたしには無理かも」


「御姉様……まさか」


 くそっ! 俺は美九音が苦しんでいる時になにもしてやれねぇーのかよっ! 悔しいぜ……。




「御主人様?」


 どれだけの時間が流れたのか分からねぇ、時間を確認する気持ちにもなれずにいると、放り出されたはずの部屋のドアが突如開いた。


 なんだ……いったい? 美九音になにかあったのか? 美九音は無事なのか?


 嫌な予感しかぜず、俺は部屋の中の様子を確認することも出来ずに、ただ茫然と立ち尽くしていた。


 暫くしてから何故か紅葉が部屋から追い出された。


「も、みじ? 美九音は?」


「御主人様……」


 紅葉の眦から玉の様に溢れ出す涙を見て、俺は全てを悟った気になった。


「紅葉? なにがあった? 美九音になにが起きたんだよっ! 教えろっ紅葉、教えてくれっ」


「御姉様は……勝負に出るつもりで……強い覚悟を持って御主人さまを……」


 俺を? 何者かから守ろうとして美九音が傷付いたのか?


「御姉様の鞄を開いたら、お泊りセットの中に……」


 なにがあったんだ? 俺に向けた最後の手紙なんて言うなよ? 紅葉。


「巫女衣装が入っていたわ」


 ……はぁ?


「巫女衣装が入っていたわ」


 ……なぜ2回言う? それがどうした? まああいつの家は神社だし巫女衣装くらいは持っているだろうさ。


 でもまあ俺、あいつの巫女姿を見たことねぇーんだよな……。


「御姉様ったら、今夜、巫女衣装で御主人様に抱かれるつもりだったみたい――あぅ」


「狼、あんたね? バカなこと言ってないのっ! 知くん、良く聞いて狐は無事よ。傷の手当ても無事に済んだよ」


「未美? それは本当なのか? 良かった……」


 美九音が無事。この言葉を聞いた俺は、今まで感じたことが無い程の安堵感を感じていた。


「でも……狐、目覚めないのっ」


 ……安堵で満ちていた俺の胸中は、一瞬にして闇の世界へと舞い戻された。



 「知泰お兄ちゃん、どこに行くつもりです? この偽装世界は妖が作った物じゃないんですよ? そうなればお兄ちゃんが今回、戦うことになる敵の中には人間も含まれているということなんですよ?」


「やはりこの結界は人間が作った物だったのだな? 座敷童」


 どうやら姫子先生の予想は的中していた様で、なにか不安要素が増えたみたいに渋い表情を浮かべている。


「そうなんですよ! 聞いてください。偽装世界に通じる異相空間を通ろうとしたらですね、強力な結界に阻まれ弾かれました。現実世界からこの偽装世界には容易に入れないようにされていたんです。何度となく突破を試みましたが、そのたびに弾かれて、ほんと苦労したんですよ」


 人間の陰陽師が創り上げた偽装世界に入り込むのに、枢は余程の体験をしたらしく涙目になっていた。


「この偽装世界には術者が拒む者は入り込めないようになってましたです」


「だったら枢はどうやって結界を破って、偽装世界ここにこれれたんだ?」


「あたしと火の車さんが困っていたところに、たまたま通り掛った人間の退魔師2人組さんが一部の結界を解いてくださいましたですよ。お名前は確か……」


 結界を破って枢をここに寄越したのは間崎なのか? だとするともう一人の退魔師はいったい誰なんだ? 間崎以外のGEOの術者が俺たちに協力してくれたのか?


「あっ! ああっ!? お顔を思い出しましたです! そのお2人さんのお名前も何処かで聞いたことあるな~? なんて思っていたのですが、今、思い出しましたです! あのお方は七霧の現御当主とその妹君、七霧ななきり 智隆ともたかさんと七霧ななきり 飛鳥あすかさんの御両名にして知泰お兄ちゃんの御兄姉でした」


 えっ? まさか……姉さんは兎も角、兄貴まで? いや兄貴は今イギリスに居るはずなんだぞ? 日本に居るはずがねぇー。



 つづく 



御拝読アリガタウ。

次回もお楽しみにっ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ