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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾な女の子 連載1周年記念
95/130

~ 眠り姫 ~ その4

 からっ、から~ん♪


 喫茶あいす・ありすの入口の扉を開けると、軽くて乾いたカウベルの音色が迎えてくれ、そして「いらっしゃいませ。あら」とオーナーの八月一日ほづみ 真冬まふゆさんがエプロン付のメイド服を着て、満面の営業スマイルと営業用プリティーボイスで迎えてくれた。


「ちょっと? トモチン。営業用は余計だぞ」


 ちょっと真冬さん! 俺のことを滋養強壮を得るための栄養ドリンクに含まれていそうな成分の様な呼び名で呼ぶんじゃないっ。


「あれ? 今日は九尾ちゃんは一緒じゃないの? えと美九音ちゃんだったっけ、彼女の名前。九尾ちゃんにはまたうちのお店を手伝って欲しいものね」


 美九音を九尾の狐だと知っている真冬さんは、我らが合法ロリ教師こと水無月みなづき 波音はのんちゃんの大学時代の同級生で、姉の飛鳥の先輩で現在24歳の美しい透き通った青い髪の毛、氷の造形と見紛うほどの美白美顔にあしらわれた宝石の様に美しく輝くアイスブルーの瞳のおぱーいも大きい俺好みの美女だ。


 そしてこの人もまた妖、そうあの超有名な妖、雪女だそうだ。


「まあいいよ、私のことは。ほら入口で突っ立ってないで席に座りなさい。今、なにか温かいもの入れてあげるから」


「真冬さ~ん。この雪なんとかしてよ、雪女でしょ!」


 未美が体を小刻みに揺らして身もだえしながら真冬さんに無茶振りを言い出した。相当寒かったんだな? お前……。


「う~ん? 自然に降り出した雪は私にもなんとも出来ないよ。ほら無茶言わないで座って温まってから帰りなさいね」


 真冬さんに促されて一番奥の窓際のテーブルに着かせて貰い、美九音が来るのを待たせて貰う事にした。


「ふぅ~暖房が効いていて暖ったけぇ~! ……お前らどうしたんだ? 早く座れよ」


 紅葉と未美は立ったまま睨みあっている。


「そ、それもそうだよね? 知くん。じゃっあたしも座らせてもらおっかなぁ~」


 未美が俺が座っている隣の椅子を引いた。


「猫、我慢は体に毒。早くトイレに行った方がいい」


「なっ! ちょっ、ちょっと狼っ。知くんの前でト、トトト、トイレのこととか言わないでっ」


「……言い直す。早く花摘みに行った方がいい」


「今更、遅いわよっ!」


「……漏らしたの?」


「も、漏らしてな、なななないわよ」


 未美よ。俺の様子を窺がいながら、なぜ今、言いよどんだ。


 未美の奴が外で言ってた「限界」ってトイレ事情の方だったのか? 俺はてっきり寒さに弱い未美だから寒くて耐えられなくなったんだど思ってたわ。


 うわぁーーーーっ! お、おおお、俺ってば凄げぇー恥ずかしいことしてなかった? ほらコートで未美を包んでやったりとかさ? 


 ……ヤバい、これはヤバい相当恥ずかしいぞ、恥ずかし過ぎて死にたくなってきた。


「ほら未美、さっさとトイレ行って来いよ。お前を放って何処にも行かないからよ」


「と、知くん。……ち、違うのっ! 今は行けない事情が――、きゃぁーーーーっ狼っあんたねっ」


 紅葉の奴が未美の下腹部の辺りをツンツンし出した。


「……もうダメっ! 狼っあんた覚えてなさいよっ」


 未美は紅葉を怒鳴り付けた後、トイレに向かって一目散に駆け出した。


「邪魔者は消えた」


 そう言って何食わぬ顔をして紅葉が俺の隣の椅子に座った。


 暫くして未美が帰って来た。


 未美の顔と唇には赤みが差していて、冷えていた体も大分暖まって来ているようだった。


 未美は「はぁ~」と安堵と落胆が混じったような溜息を吐いて、素知らぬ顔をして座っている紅葉を睨み付けてから、俺の向かい側の席に腰掛けた。


 なんなんんだ? こいつら……、最近喧嘩でもし出したのか?


「おまたせ」


 真冬さんがアツアツのココアを淹れて持って来てくれた。


「ありがとう真冬さん。それにしても今日は客が少ないんじゃない?」


 雪が降り出して皆が家路を急いでいるからだろうか? まあ電車が止まったりした日にゃ、洒落にならねぇーもん。


 雪降る寒空の下で帰宅難民になんかにはなりたくねぇーわな。


 いつもはこの時間になるとうちの生徒たちで賑わう【あいす・ありす】の店内も窓の外を見ても人影は絶えていた。


「弟くんは言い難いことを平気で言ってくれるね? お姉さんびっくりだよ」


 紅葉と未美は早速、真冬さんが持って来てくれたココアを両手に持って口を付けていた。


「ほら冷めない内に飲みなさいよ、冷え切った体も温まるよ。リコピン」


 真冬さんの中で、ついに俺はトマトに含まれている成分にされたみたいだった。


 なにかに夢中になっている時の時間っていうのは、嘘の様に早く過ぎ去ってしまうけれども、なにかを待っていたり人を待っていたりする時間っていうのは、なかなか長く感じるもんだよな?


 美九音の奴、遅せぇーな……、着替え取に帰っただけなのによ。


 向かいに座っている未美は体が温まったからか、それとも暖房の温風が心地良くてか、コクリコクリと眠りの園へと船を漕ぎ出したみたいだ。


 そのたびに自慢のツインテールも前後に揺れている。


 隣に陣取っている紅葉は、おうじょ相変わらずなにを考えているのか分からない無表情で指折り、何か数えているようで、しきりに指を動かしている。


「猫、起きて大変」


 紅葉がなにかに気付いた様に、はっとして夢現の淵に立っている未美に声を掛け叩き起こした。


 んん? いったいなにが大変なんだ? まさか……美九音になにか起きたのか? 紅葉は普段、物怖じしないというか何事にも無頓着で見ている限りは鈍感に見えるが、こと美九音と俺の気配だけは敏感に感じ取るようだからな? 


「なに~……狼? あたし眠い……あふぅ……」


「御姉様が――」


 がたっ、がった、がったん。


 紅葉の言葉を最後まで聞かずに俺は椅子を後ろに弾き飛ばしテーブルを叩いて立ち上がった。


 美九音っ! 今直ぐ助けに行くから待ってろっ。


「御主人様、落ち着いて。話は最後まで聞く」


 そんな俺を紅葉が制服の裾を掴んで制した。




 つづく

御拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!

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