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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
ちょっと? 九尾な女の子 連載1周年記念
93/130

~ 眠り姫 ~ その2

 キャッキャとじゃれる未美のハグを背中から受けながら、豊満なバストを押し付けてこられ、その確かな大きさと柔らかな感触を背中で感じていると……。


 美九音の奴はなにかを言いたそうな口をただパクつかせてこっちを睨んでいるし……、っつーかこれは俺の所為じゃない、そんなに睨むんじゃねぇー怖えぇーよっ。


 そっかそっか、お前ここで未美になにか文句を垂れようものなら、投げつけたはずの言葉が、お前には数倍の痛い言葉となってブーメラン現象を起こして返って来ることは必至だもんな?


 だってさ? いつも未美と喧嘩しているときは、必ず未美におっぱいのことをからかわれているもんな、お前。


「ほれほれ~知くん、ええのんか? これがええのんか?」


 美九音がなにも言えないのをいいことに更に調子に乗った未美は、可愛い顔に似合わないおっさん染みた科白を吐きならが、たわわに成長したおっぱいを押し付けてじゃれて来る。


「猫? いい加減にする」


 見る見る不機嫌になっていく美九音を見兼ねて、代わりに紅葉が未美を窘める言葉を投げかけた。


 美九音の様子といえば目を潤ませながら、今にも噴火しそうなほど赤い顔をした頬を膨らませ殺人的な視線で睨み付けて、わなわな震える手を握りしめていた。


 紅葉の奴は、そろそろ美九音の怒りが爆発するだろうと踏んで、未美を窘めたんだろうな。


 っつーか紅葉、お前も少しは空気が読めるようになったんだな? 頑なに心を閉ざしていたお前が他の妖たちにも心を開いてくれて俺は嬉しいよ。


 相変わらず無表情で感情を読み取ることは難しいけれどさ。


 一言発したあと、紅葉がこっちに近付いて来て未美に文句を付けた。


「猫? いい加減にして」


「な、なによ……いいじゃない別に。知くんはまだ誰の物でもないでしょ? 狐とも相変わらずだし狼、あんただって、あのときに名乗りを上げて宣言したじゃない? 知くんは誰にも渡したくないって」


「そうよ、だから腹立たしくて羨ましくもある。自分の気持ちに素直に行動できる猫が私は羨ましい。だから私も――……くちゅん」


 言葉の途中で可愛らしいくしゃみをした紅葉の鼻からは、たら~んとぶら下がる鼻水が一筋流れ出し流線形を形とってぶら下がっていた。


 ズズズっ、……タラ~ン。


 次の瞬間、紅葉が垂れた鼻水を啜り上げた。


 美少女が台無しだっ!


「だから私も御主人様をハグする」


 紅葉はそのまま俺の前に立つと背中に手を回し、胸に顔を埋めて子供がイヤイヤする様にすりすりし出した。


 っつーて、紅葉さんっ! 


 っつーかさ紅葉よ? 可愛い行動している振りしてあなた、垂れた鼻水を俺の制服で拭いくのは止めてくれねぇーか?


 美九音といえば、俺との距離を少しだけ詰めたところで狐にでも摘ままれた顔をして脱力したように呆けて目玉をうるうる潤ませて立ち止まっていた。


 ……美九音お前、出遅れたって顔してんぞ?  もしかしてお前まで俺をハグしたかったの? まあそれはねぇーか、美九音に限って。


「ふんっ。なによっ知泰ってば、あんたってばモテモテでいいわねっ!」


 なにを言ってるんだ美九音の奴は? 俺なんて全然モテねぇーじゃねぇか。学校の女子から一度だってラブレターも告白もされたことなんてねぇーよっ!


 お前なんて来る日も来る日も、漫画やアニメでもあるような下駄箱からなだれ落ちるラブレターの数じゃねぇーか。


 今や下駄箱だけでは入り切らねぇーからって、見兼ねた教師が正面玄関を入った直ぐのところに通称“みくみくボックス”まで儲けて対処するまでになってんじゃねぇーか。


 なんだよ俺の幼馴染みは? 神様って不平等だよな? この世に平等ってもんが存在しないことを俺はこの様子を毎日のように見せられて気付いたね!


「そんなに怒らないの、知くんにはあたしがいるんだから」


 可愛らしい顔の未美に言われると、なんだかそう思えてくるじゃねぇーか、照れるぜ。


「そうよ御主人様には量より質の私がいる」


 紅葉、お前? それ安易に自分が綺麗っていってんのか? まあ否定はしねぇーけど、お前ってばほんと不特定多数に対して容赦ねぇーよなっ! だから友達が少ねぇーんだよお前はっ。


「ウ、ウウウ、ウチだって――」


「あっ、雪がチラついて来た」


 いつの間にか空は厚い雲に覆われていて、冷たい風に雪が混じり始めた。


「――もんっ!」


「んん? 美九音、なんか言ったか?」


「……しっ、知らないっ! 知泰のバカっ!」


 美九音? お前はいつも怒ってるよな。乳酸菌摂ってるか? これからは夕食後のプリンは止めてヨーグルトにしたらどうだ?


「知くんって、ほんと暖かいよね。心や温かいからなのかな?」


 そういいながら後ろから右横に来て俺の腕に未美が腕を絡ませ、しがみ付いてきた。


「猫は、御主人様にくっ付き過ぎ、少し離れて」


「その言葉、そっくりそのまま狼に返すわ」


 紅葉も俺の左横に移動して腕を絡ませ、未美と睨み合っている。


 小雪が混じり始め一際、寒がりの未美はもうベッタリくっ付いて離れる気は毛頭ないらしい。


「ねぇ知泰、ウチのは?」


 生憎だが美九音よ。俺は映画に出てくるミュータントじゃねぇーし、怪物でもねぇーから腕は2本しかねぇーよ。


 美九音はあからさまにしょんぼりした態度で両脇に陣取った紅葉と未美を羨ましげに見つめて、俺に視線を移すと泣きそうな顔で指を咥えて見ている。


 ……そ、そんな顔しても腕は増えませんからねっ!


 でも紅葉も未美もどうしたんだろうな? 急に俺にベッタリになったし、前みたいに美九音に遠慮しなくなった気がするぜ。


 降り出した雪と風が強まり始めてきたし、早く家路に着くとするかな。




 公園内を通り抜け出たところで不意に聞き覚えのある声が俺たちの背中に向けられた。


「「紅葉ちゃ~ん」」


 名前を呼ばれた紅葉が振り返り、俺たちも声がした方向に反射的に振り返った。


 声を掛けて来たのは、黒髪のショートを右サイドでゴムでちょんぼり結わえ、右に流した前髪をヘアピンで留めた、鳶色の瞳の美少女、犬飼いぬかい かえでと灰色掛った白い髪のセミロングを右側で結んでサイドポニーに結わえ上げ、左に流した前髪をヘアピンで留めた、鳶色の瞳の美少女、犬飼いぬかい ひいらぎ姉妹だった。


 犬飼姉妹は身長も体重もスリーサイズまでもまったく同じらしく、顔も双子の姉妹だけあってそっくりだ。


 違うところといえば髪の色と長さくらいなもんだ。


 歳は違えども久遠寺姉妹も双子みたいにそっくりなんだけれども、犬飼姉妹よりも見分けるのが困難だと思う、俺以外にはだけど。


 妹の来八音こはねちゃんは、現在中学2年生ではあるが、バストは順調に発育中で高2の姉である美九音よりもおっぱいが若干大きく、ツインテールだが同じ髪型にすると両親でも見分けがつかなくなるくらいだ。


 決定的な違いといえば、濁りの無い真紅の瞳の美九音に対して、来八音ちゃんの方は殆ど赤と言ってもいいほどだけれど、若干茶色っぽいくらいで、あとは先に言ったようにおっぱいが美九音よりも大きい、美九音よりも大きいところくらいだ。


「と、知泰っ! 今なぜおっぱいのことを2回言ったっ!」


「「あっ! 七霧くんに美九音ちゃん、未美ちゃん、今日は寒いね、雪も降って来たし」」


 やたらと元気はつらつで嬉しそうな犬飼姉妹だ。


「おおっ犬飼姉妹じゃねぇーか、久しぶり鬼の一件以来に顔見たわ」


 マンモス校の陽麟学園では、知り合いといえどもそうそう顔を合わすことは少なく、こうして数ヶ月ぶりに顔を見るなんてことはザラにある。


 そんな犬飼姉妹が俺と紅葉を交互に見て「むぅふぅふぅ~」と含んだ笑いを零した。


「紅葉ちゃんってば、いつのまに」


「七霧くんってば、いつのまに」


「久しぶりね」


「うん、そうだね。元気みたいだね紅葉ちゃん」


「うん、そうだね。幸せそうだね紅葉ちゃん」


「楓、柊。あなたたちもね」


「「うん。元気だよ。雪降って来たしね」」


 犬神でも雪が降ると喜んで庭駆け回るのだろうか? 滅茶苦茶嬉しそうだぞ、お前ら姉妹。


「じゃあ、私たちもう行くね。七霧くん、紅葉ちゃんをよろしくね。むぅふぅふぅ~」


「じゃあ、私たちは行くね。七霧くん、紅葉ちゃんをきちんと送ってあげてね。むぅふぅふぅ~」


 犬飼姉妹が気持ち悪い笑いを浮かべながら、小さく手紅葉に、そして俺たちに手を振った。


「「紅葉ちゃんの送りオオカミになっちゃダメだからね、七霧くん。ムゥフゥフゥ~」」


 ならねぇーよっ! 寧ろ狼は紅葉の方だっ。犬飼姉妹が手を振りながら薄っすら積もり始めた雪の上を大はしゃぎで駆け回りながら去っていった。




 公園の出入り口にある門柱を潜ったところで美九音とはお別れになる。


 というのも俺といえば、鬼の襲撃によって住んでいた家が壊され、瓦礫は片付けられたけれども、まだ家を新しく立て直すか否か決まってねぇーんだよ。


 姉さんは何れは建て直してくれるって言っていたけれども、現在住んでいる姉さんが用意してくれたマンションの部屋も七霧が経営するマンションだし、取り分け急ぐつもりはないらしい。


 俺と美九音は隣同士の家に生まれた幼馴染みだ。


 少し前までは当然の様に一緒に登校し帰る方向も当然ながら同じで、いつも一緒に帰っていたのだが、夏休みが明けてからは時折、早朝から遠路はるばる美九音がやってきては一緒に登校するものの、帰りは流石にマンションまでは着いてこようとはしない、というかしたことが無い。


 確かに遠くはなったけれど、たまには遊びに寄るくらいはするんじゃねぇーか?


 紅葉と未美は現在は同じマンションの住人で、といっても紅葉に関しては秋の紅葉が始まる前くらいまではマンションの中庭にテントを張って暮らしていたんだけど、秋になって朝夕の冷え込みも増えて来たんで、見兼ねた姉さんが紅葉にマンションの一室を与えたんだそうだ。


 なんでも? 紅葉が始まった頃にぐっと冷え込んだ日があって、紅葉の奴が鼻水垂らして震えていたそうなんだよな? それをマンションのオーナーでもある姉さんが見付けたらしい。


 とまあ、同じマンションに住んでいる紅葉と未美とは、下校はいつもとまではいかなくても、一緒に帰ることの方が多くなった。


「じゃあな美九音、また来週な」


「……」


「じゃーまたね狐、バイバイ~っ」


「御姉様、また来週」


「……」


 駅の方面へ歩き出そうとしたところで、違和感を感じて立ち止まった。振り返ると制服の上着の裾を摘まんだ美九音が俯いていた。


「どうしたんだ美九音?」


「ウ、ウチも知泰のマンションに行く……」


「でもお前、今日は不味いぞ? 雪も降り出したし、帰りに電車止まるかも知れねぇーから」


「……泊まるもん、明日はガッコ、お休みだし」


「泊まるってお前……、そんなこと言っても小五音ここねさんに言っておかねぇーと心配するぞ?」


「ダメ?」


 美九音に甘えた声で上目遣いで聞かれて、一瞬、心臓が跳ね上がったのを感じた。


「別にダメってわけじゃねぇーけど……」


 ほら俺たち高校生だし、幼馴染みで幾ら親同士が決めた許嫁と言っても不味いよな?


「じゃあ、ママに電話して聞いてみて、いいってゆったら行ってもいい?」


「まあ、それならいいけど」


 美九音は携帯を取り出して小五音さんと話を始めた。


「うん、うん。分かった。うん、そうする、じゃあねママ」


 携帯を切って、振り向いた美九音の顔は華やいでいた。恐らくOKでもでたんだろうな?


「えとね、ママがいいってゆってた。でも着替えとお泊りになるなら渡したい物があるから一度家に帰って来なさいってゆってた」


「そ、そうか……よ、良かったじゃねぇーか?」


 無意識の内に心の中で俺は、ガッツポーズをしていた。なぜなんだろう俺?


 美九音は、寒いから近くの喫茶店【あいす・ありす】で待っていて、というと家に一度帰って行った。


 つづく

ご拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!

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