狼の御奉公っ ちょっと? 腐った女の子 (ちょっと? 九尾な女の子) その1
季節は紅葉の葉が赤く色付き、空は高く夏の暑さは何処かに消え去り、アキアカネが夕暮れの空を飛ぶ。そして稲穂はたわわに頭を垂れる稔りの秋。
そして味覚の秋、食欲の秋、天高く馬肥ゆる秋と申します。
秋と言えば様々な味覚が登場する季節でございますが、甘い物に目が無い女の子向けにも秋の味覚を使ったスイーツなども数々登場してくる季節、甘い誘惑に誘われ油断をしようものなら、お年頃の女の子には何かと厳しい現実を思い知らされることとなる秋でもございます。
それは人間の姿をして人間界に溶け込んでいる妖の女の子たちも例外ではございません。
狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子。番外編
改めっ! 狼の御奉公っ ちょっと? 腐った女の子 その1
「はい、あ~ん♡ 知くん美味ちい?」
あたしの名前は黒井 未美。
暮れなずむ街の光と影の中、今あたしはとある情報を入手して、とある街のとある山中に来ているわ。
愛する知くんのために秋の味覚のチャンピオン松茸を奪取しべく散策に来ているの。
冒頭の台詞? あっ! あれね、あれはリハーサルよリハーサル。脳内シュミレーションよ。
あたしが採取した松茸で調理した土瓶蒸しや栗なんかも途中で拾っちゃったりして、栗のコンポートとか、知くんの大好物のプリンを使って、あたしのオリジナルスイーツ、栗ん・あら?・モードとか作って食べてもらうのよ。
ライバルの狐とか狼とか蛇とか、余り料理の方は得意じゃないみたいだし、ここであたしの女子力を知くんに見せ付けてハートキャッチミミちゃんになるのよっ!
しかしそれはあくまでも表向きの話なのよ。
気ままで気まぐれな猫のあたしが、好き好んで山奥くんだりにまで来て、わざわざ単なる松茸とかきのこ類や栗を採取しに来るはずないじゃん。
そんなのだったら近所のスーパー安得で買うわよ、カナダ産とかを。
あたしの真の目的は、一口食べたその日から、恋の花咲くこともある、あなたを見知らぬ、意中の彼が。って妖界で言い伝えられている、惚れきのこ茸? の採取が目的なのよっ!
その惚れきのこ茸? を知くんに食べさせれば……、アッハハハ、アッハハハ。見てなさいよ! 狐に狼、あんたたちに知くんは渡さないんだからねっ。
「猫、なにか企んでる」
うひゃぁ~!? びっくりした! なになに?
急に背後から棒読みの台詞を背中に浴びせられ、全身の毛を逆立てて驚いてしまったじゃないっ。
振り向くとそこには、冷たい視線で見下ろしている狼こと、大神 紅葉がいた。
「な、なによ、あんた。急にびっくりするじゃんっ」
「それなに? 猫」
大神 紅葉の奴ってば、なんでこんなところにいるの? あたし今日は慎重に慎重を重ねて、狐こと久遠寺 美九音とあんたを出し抜いて来たのよ。
「猫? それなに」
「……松茸を始めとしたきのこ類と栗よっ! 見て分からないの?」
「猫って、いやらしい子、お〔ぱきゅ~ん〕とクリの組み合わせって、なんて卑猥な物を沢山抱え込んでいるの」
こいつ……。ただの変態じゃないわね。
知くんにはいつも「大神はエロの権化だ未美、お前も気を付けておけよ」って聞かされていたけれど、まさか秋の味覚でなんちゅう発想をしてくれちゃってるのよ。
「美味しそう、それどうするの?」
「た、食べるのよ、食べるに決まってるじゃない」
「食べる?」
「そうよ」
「口に含むのね、お〔ぱきゅ~ん〕みたいな形をしたきのこ」
「お、おおお、狼っあんたねっ! もうちょっと言い方を考えて言ってよねっ! ……もうあたしにはどこから突っ込んでいいのか分からないわよっ」
「猫って初心、突っ込むところは〔ぱきゅ~ん〕よ、知らなかったの猫? 欲求不満? 発情期に入ったの? だからそのお〔ぱきゅーん〕みたいなきのこを使うのね? ひとり上手なのね?」
「ち、ちち、違うわよバカっ! あんたの言ってることくらい知ってるわよっ! あたしたちの歳にまでなっていて、知らないのは狐くらいなものよ、狐って見た目は派手でビッチに見えるけど、絵に描いたような初心でネンネちゃんだから」
「御姉様は初心でいいの、いつか私が悦びを教えてあげるつもり」
喜びの表現が悦びになってるって、あんた狐になにをするつもりでいるのっ!
「猫? それどうするの? 食べるの? 私もそれお口に入れたい」
「あんたねっ! いちいち紛らわしい表現しないでよねっ。食べるのよ、知くんと食べるの。2人きりでっ! きのこパーティーするのよ、鍋とかも用意してっ」
「お鍋?」
「そうよ」
「猫はお鍋さん? 御主人様は男の子よ? それじゃ私は萌えない」
「なんの話をしとるんじゃ! おのれはっ」
きょとんと首を傾げて、可愛い仕草で〔分からない〕の意を示す大神 紅葉。くっそっ! なんでこんな子が、こんなにも美人な上にいちいち仕草まで可愛いわけ? 狐といい狼といい、ほんとあたしのライバルは強力なメンツが揃いも揃ったもんだわ。
ちょっぴり凹んだ、あたしの後ろについて来て結局、その後も大神 紅葉は、知くんが今住んでいるマンションまで、あたしについてやって来た。
Pinng Pong♪ Pinng Pong♪
あれ? 知くん出ないわね? もしかして留守? ちょっと待ってよ! そんなの計算外だわ。
Pinng Pong♪ Pinng Pong♪
まさか狐の奴と出掛けたんじゃ……。
もしかしてあたしが出し抜いたつもりだったけど狐の奴ってば、それも計算に入れていた?
まさかね~(笑)
あたしの計画は完璧だったはずよ? だって狐の大好物、ニコニコおはよー∠(#`Д´)/プリン製造ライン見学、試食プリン食べ放題チケット付の工場見学日帰りツアーの今、人知れず巷で大人気になっているチケットをあげたもの。
そのチケットって今やプラチナチケットになってるから、そう簡単に手に入らないのよ? 知くんを誘うにしても無理なはずなんだから。
でも久遠寺 美九音は九尾の狐、狡猾な狐なんだよね? もしかしたらまんまとあたしの方が出し抜かれたのかもっ!
脳裏に久遠寺 美九音の高笑いする顔が浮かんで来た。
Pinng Pong♪ Pinng Pong♪ Pinng Pong♪ Pinng Pong♪
お願いっ知くん……出て来てっ。
Pinng Pong♪ Pinng Pong♪ Pinng Pong♪ Pinng Pong♪
Pinng Pong♪ Pinng Pong♪ Pipipipipipi Pi~nng Po~ng♪
『うるせぇーよっ! 人ん家のチャイムで遊ぶんじゃねぇーよっ』
モニタに映った知くんの顔、モニタの向こうから聞こえてくる知くんの声。
出て来れた……出て来てくれたんだね。……嬉しい、あたしの願いが届いたんだわ。
知くんがロックを解除してくれ、あたしたちは知くんが居る部屋へと向かった。
「知く~ん♡ 大スk――、にゃぁ~!?」
知くんに抱き着こうとしたあたしは、背後から強烈な衝撃を受けて、何故だか開いたドアに張り付いていた。
「御主人様っ、紅葉をギュってして、ベッドの上で――」
強かにぶつけた鼻を押さえながら振り向くと大神 紅葉の奴があたしの知くんの胸に飛び込んで行くところだった。
ぺちっ。
「なんのつもりだ紅葉。昼間っから欲情してんじゃねぇーよ」
あっ……狼の奴、知くんに頭を押さえられて押し止められてる。あれがもしあたしだったらと思うと……胸中お察しするわ、大神さん。
「おう、未美も一緒だったのか? どうしたなんか用か?」
知くんがあたしに微笑み掛けてくれている。
知くんに微笑み掛けられるだけで、あたしはこんなにも幸せな気分になれる、知くんマジ天使っ!
「え、えと……あのね? 夕食一緒にどうかなぁ~なんて……ダメ?」
「えっ? んんまぁいいけど、まだ昼過ぎたばかりだぞ?」
「うん……今日はね? 秋の味覚を採りにいってたの。それを使ってあたしが料理準備するから、知くんにいっぱい食べて欲しいなぁ~……なんて……」
「ありがとな、未美。嬉しいよ」
「猫だけずるい、御主人様に褒められてる」
知くんに首根っこを掴まれた大神 紅葉が口を咎させている? 様に見えた?
えっ? なんでクエションが付くのかって? だってこの子、いつも無表情なんだもん。
知くんの住んでいる部屋、知くんの姿、知くんの匂いがする場所。
あたしも同じマンションに住んでいるけど、階も違うし入口も違うんだよね、知くんが住んでいるのはマンションの最上階で、最も高価な部屋なの。
このマンション自体、七霧財団のグループが経営するマンションで、そのオーナーは知くんの実の姉さんなんだよ。
以前に狐が鬼の一族の襲われ拉致られたときに、七霧邸の敷地の片隅に建てられていた知くんが住んでいた家が壊されちゃって、このマンションに越してきたんだぁ~。
その事実を知ったときに、あたしは夢でも見ている気分になったんだよね。
でもさ、こんなに近くに住めるようになっても、その距離は余りにも遠かった。
あたしはマンションでも格安の部屋で、かたや知くんは一般の人間が易々と出入りすることなんて敵わない、最高級の部屋なんだもん。
あたしは妖なんだけど、実はそれが難題なのよね? だってこのマンションの住人と言えば、人間界で生きる妖ばかりが住んでいるマンションなんだよね。
妖マンションであるにも関わらず、対妖セキュリティーなんて万全で、おいそれと忍び入ることなんて出来やしないんだよね。
まあ妖ばかりが住んでいるんだから、万が一にもいざこざが起きたとしたら、人間が揉め事を起す、な~んてレベルの問題じゃないからね。
他にも住人である妖のために、対ゴーストバスター用のセキュリティーや一般的なセキュリティーなんかも備えられているんだよ。
なんだかんだと説明していると、あたしが採ってき来た、秋の味覚が満載のきのこや山菜、栗なんかが入った籠を覗き込んでいた。
「おい未美。この不思議色をしたきのこはなんなんだ?」
……ヤバイっ、気付かれた。
あたしは大神 紅葉に視線を送り、打ち合わせ通りに誤魔化す手はずを伝えた。
あたしと大神 紅葉は、知くんのマンションに着く前に、事前に共同戦線を張ることにした。
だって大神 紅葉が知くんを大切に想っていることは、あたしも知っているから。
こんな手を使って知くんを独り占めにしちゃうのは、なんだか気がひけたんだよね。
だから惚れきのこ茸? の効果が自分に向いている内は、お互いに干渉しないことを約束したの。
交代で知くんの愛を独り占めしようって。
この計画を立てたあたしが最初、そして大神 紅葉が次に知くんにいっぱいギュってしてもらうことにしたんだ。
つづく。
ご拝読アリガタウ。
えと、すいません。季節外れですねw
そして……すいません。タイトルは狼こと大神 紅葉にちなんだタイトルなんですが、猫こと黒井 未美の視点のお話になっていますねw
今回は、時系列的には最新話のちょっと先くらいのエピソードになります。
紅葉視点にすることも考えてはいたのですが、紅葉を中心に魅せるなら他視点の方がより大神 紅葉の美しさと可愛さ残念さと変態加減をお見せすることが出来るかな? と思ったますたw
では、次回、つづきを楽しみにしていてくださいね(笑)




