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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
season2 第二章 なんてこったっ! 嫁と姉ちゃんが修羅場ってるんですけどっ
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なんてこった! 嫁と姉ちゃんが修羅場ってるんですけどっ 10

 七霧の本家の門前で立ち止まり俺は躊躇している。七霧の家は今の俺にとっては辛い想い出しか残ってねぇーんだよ。


「御主人様」


 門前で躊躇している俺の背中に向けて不意に声を掛けられた。


 振り返らなくても分かる。俺を「御主人様」と呼ぶ者は1人しかいないからな。


「知くん」


「紅葉、未美。お前ら、いつから居た」


「ずっとだよ。学校出てからずっと知くんを追い駆けてたし、声もかけたのに全然届かないんだもん。……流石にあたしも凹んでるわよ」


「御主人様は御姉様が大事。御姉様のピンチになると周囲の状況が全く見えなくなる。悪い癖」


「そうね。自分の身なんて考えないし。そんな知くんを放っておけるわけないでしょ? ……だから、その……、来ちゃった♡」


「お前ら……。お前ら妖が七霧の門を潜って中に入るってことがどういうことなのか分かっているのか? 確かにお前らは壁の外にある七霧の敷地に入っても、一応は俺の学友ってことで何事も起こってはいなかったけど、今回は違うんだぞ」


 七霧の門を潜り、壁の向こうに広がる広大な七霧の敷地に妖が踏み入る。


 そんなことを今まで許されて来たのは、姉さんの話を聞いた限りでは美九音くらいなもんなんだぞ? あいつは七霧と久遠寺の間で取り決めた事情が、取り決めがあって俺の許嫁ってことになっているからな。


 しかし他の妖が七霧の敷地にはいれば、問答無用でその広い敷地はバトルフィールドと化すんだぞ。


「ああもうっ! じれったいわねっ。行きたいんでしょ? 助けたいんでしょ? 狐を」


 お前ら……。


 俺の背中を押してくれる奴らがいる。なんて嬉しいことなんだ。


「知泰さん……酷いですぅ。何度呼び止めても1人で行っちゃうんだから。知泰さんがあんなにも慌てるくらいなのですからただ事ではないのでしょ?」


 紅葉、未美に遅れて到着した波音ちゃんが息を切らして駆け付けて来た。


「姫子先生は更に確かな情報を集めるのに忙しくて来れませんが、代わりに心強い味方を連れてきたんですよ」


 小柄な波音ちゃんの後ろには、どこかで見覚えのある人物……妖が息を切らしてうつむいていた。


「はいっ! こちらは私の大学時代の同級生で、人間界で生きる妖の1人、八月一日ほづみ 真冬まふゆちゃんですぅ」


「ああもう波音ってば、私お店があるのに……。って! あなたは飛鳥ちゃんの弟さんじゃないですかっ! って、ここ七霧総家ですよね? なに? なにがあるの? もしかして飛鳥ちゃんにお説教されにきたの私たち?」


「えっ? 飛鳥ちゃんがこの街に帰って来ているの?」


 ……この人たちって、退魔師と妖って関係はあるにせよ、年下の姉さんにどんな扱いをされて来たんだ?


「えと、飛鳥ちゃんは私たちと同じ大学だったの。私たちが四回生の時に同じ大学に入学して来たのですよ」


 えっ! 波音ちゃんたちの後輩だったの? うちの姉さん。


「ところで知泰さん? つかぬことをお聞きしますが、七霧のお家でなにかあるのですか? それがいったい久遠寺さんに迫っている危険と、どう繋がって来るのです?」


「だからこれから確かめるために私たちもここに来た」


「そそ。あたしたち見たのよね。知くんのお姉さんが狐を校門前で待っていて連れて行ったところを」


「そ、そうなのでしたか……」


 波音ちゃんは小さな拳をぎゅっと胸元で握りしめると、なにかを決意したように小さく頷いた。


「今度は必ず返してくださいね?」と言ってスカートの中に両手を突っ込むと、スルスルと太もも辺りまでパンツを脱ぎかけた。


 ……なぜパンツを脱ぐ。


「えと、知泰さんには必要なのでしょ? これからお姉さんと対峙し久遠寺さんを助け出すのに、2人に知泰さんだとバレないように変身するのでしょ? 汚パンツ仮面さんに?」


 変身なんてしないっ! そして紅葉に未美? なぜお前らまで制服のスカートに手を突っ込んでパンツを脱ごうとしている?


「だって……波音だけずるいじゃん! 知くんに自分の匂いをスーハ―してもらってさぁ~」


「あの……私も脱がなきゃいけない雰囲気になっちゃってるんだけど、どうすればいいのかな? 弟くん」


 脱がなくてもいいですっ! 変身もしないし、第一にパンツなんて被りませんからねっ。


「知泰さん。以前にも言いましたが、あなたはやれば出来る子なんです。やれば出来る子なんです」


 はいそこっ! 波音ちゃん、なぜ2回言ったっ。前にも言ったけど、言ったけれども、もし出来たとしても被りませんっ。前科ありますけど……。




 なんだかんだあったものの、波音ちゃんたちも協力してくれるつもりらしい。


 それなら当の俺が二の足を踏んではいられねぇーよな?


「御主人様、急ぐよろし」


 紅葉? なんで片言になっている。


 どうやら紅葉が切り込み役を買ってくれるらしく、巨大と表現するのが一番分かり易い木造の門扉に手を掛けた。


「ぎゃぁーーーーっ」


「どうした紅葉っ」


 門に触れた瞬間に紅葉の身体が電撃みたいなものに包まれ弾き飛ばされた。


「御主人様、痛い」


「紅葉、大丈夫か?」


「御主人様……紅葉はもうダメ。最後にギュってして」


「紅葉ーーーーっ!」


 紅葉は力無く俺の胸の中にしなだれ込んで来た。その細い体を力いっぱい抱き締めてやった。


「……てへ。役得、役得」


 ……紅葉? お前ーーーーっ。キャラ変わってんぞっ。そして、そこのダメっ子動物共、なぜ門に触れようとしている? 今の紅葉を見てなかったのかよ。


「知くんってバカ?」


「知泰さんはバカですぅ」


 心配しているのにバカ呼ばわりされてんのっ。


「今の狼を見たからやるんじゃないのよ」


「そうですぅ。現状の大神さんを、知泰さんにギュってされている大神さんを見たから門に触れるんですぅ」


「あの……私もやらなきゃダメ? 物凄く痛そうだったんだけど……」


 やらなくていいですっ!


 しかしなにかがおかしい。姉さんの話では退魔の法を今日まで継承して来ている七霧は、基本バトルウエルカムなはず。


 姉さんの話によれば大人しく人間界に溶け込んでいる妖には興味は無く、悪行や悪さを重ね七霧に狙われたり、七霧にちょっかいを出して来る妖を故意に敷地に招き入れて滅するために侵入を阻止するための結界は張られてないはずなんだよな?


 だけど今、紅葉は侵入を阻まれた。


「結界だね。この結界は飛鳥ちゃんが張ったものに違いないよ。だって、この結界はいつも飛鳥ちゃんが私にエロいことするときに張っていたやつだもん」


 真冬さん! あんたと姉さんの関係を後でじっくり聞かせてもらおうかっ。


「これじゃ入れないわね。どうすんの知くん?」


 姉さんが誰にも邪魔をされたくないと考えて、この結界を張ったのだとすれば妖はおろか人間も結界内には入れさせないようにした術を使うはずだ。


「ちくしょう! ここまでなのかよっ! ちくしょうっ」


 こんな時に間崎が、間崎まざき 正宗まさむねさえいてくれれば、あいつなら同じ退魔師だし術に関する知識も豊富なのに、どうでも良い時はいるくせに肝心な時にいねぇーんだよ、あいつは。


「一度の失敗を経験しただけで、もう諦めるの弟くん? 私はね、飛鳥ちゃんにも物凄くお世話になった妖なの」


 えと? それって百合的なことで、じゃないでしょうね?


「あははっ、違うわよ。いろいろあったのよ、以前にね。それに九尾ちゃんにも助けて貰ったわ。人手が足りなくて困ってたときにお店を手伝ってもらったもの。彼女自身、本当は弟くんとラブラブしていたかった時間を割いてくれてまで、あいす・ありすを手伝ってくれたわ。だから私は諦めない。なんの事情かは分からない、お節介になるのかも知れない。けれど私は2人に喧嘩して欲しくないもの。争って傷つけ合って欲しくないもの。だから諦めない」


 ……真冬さん?


 強い意志が宿った真冬さんの眼は力強く、そしてどこかしら悲しそうに見えた。


「ほら知くん? あたしたち妖には人間が施した結界に触れられないし解く術も分からない。もし分かっていたとしても触れないから解けないわ。そら二流、三流の退魔師や陰陽師の結界や術なら、ここにいる妖には通用しないけど、相手は七霧よ。それも超一流の退魔師が張った術なの。もしこの場にいる者の中でこの結界を破ることが出来るとしたら知くんしかいないのよ」


 未美。そうだよな? 俺の都合に付き合ってくれているお前たちが諦めてねぇーのに俺が先に諦めちまうわけにはいかねぇーよな。


「考えて知くん。術を破る方法を、知くんになら出来るはずだわ。七霧に生まれた知くんになら」


 ……七霧に生まれた俺。


 そうか! そうだ。室町時代の京都は現在の天狗、崇徳天皇の怨霊から都を守るため、崇徳天皇の怨念を封じ込めるために、奇門遁甲きもんとんこうの法を都中に施して幾多の魑魅魍魎ちみもうりょうから京都を守ったとされているんだよな? 


 だったら……ある。中に入る道がある。


「未美、ありがとな。お蔭で中に入れるかも知れねぇー希望が出てきたぜ?」


「うん。それでこそ知くんだよ。普段は死んだ魚の目をしていても、いざとなればなにがあっても諦めない。とんでもないほどの頭の回転と行動力を発揮してくれるんだもん。そんな知くんを見ていたら、幼馴染の狐じゃなくても惚れちゃうわ。そんな知くんが、たまにだけど物凄くカッコイイところを見せる知くんがあたしは大好きよ」


「みんなは本当にいいのか? この塀の中にいるのは、中で戦ってんのは本物の化け物たちだぜ?」


 おそらく俺の勘が正しければ、今頃は美九音も九尾の力を使っているはずなんだ。でないと本気の姉さんから身を守る手立てはねぇーんだからな。


「御主人様、無問題モウマンタイ


「知泰さん。私も微力ながらお手伝いさせてくださいね」


「大丈夫。私と波音のユニゾン攻撃は超強力なんだから、平気よ」


 真冬さんまで……ありがとう、みんな。


「じゃあ、俺に着いて来い」


 奇門遁甲を始めとする風水によれば妖や怨霊など、悪しきものとされる者たちが溜まり通る道、通れる道があった。


 そこに向かえばきっと通れるはずだ。バトルフィールドに辿り着けるとは限らねぇーけど、中は通るはずなんだ。


 もう一つの門を潜れば、紅葉も未美も波音ちゃんも、それに真冬さんも七霧の敷地内を通ることが出来るはずだ。


 いや確実にある。だって今の美九音はほとんど自力で捻り出せる妖力はねえーんだ。そんな美九音を姉さんが一方的に、なんてことは有り得ねぇーんだよ。


 あのバトルマニアの姉さんなんだから、必ず美九音が九尾の力を集められるように、殺生石の破片を取り込めるように道は残してあるはずなんだよ。


 でもいくら殺生石の破片を集めて九尾の妖力を使えたとしても、今の美九音は勝てねぇーだろうな。


 待っていろよ美九音、今から助けに行ってやっからな。




 今からその門を開けに行くとするか? 中で暴れている九尾と七霧の武闘派退魔師、2人の鬼たちを止めにさ。


 To Be Continued

ご拝読アリガタウ


次回もお楽しみにっ!

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