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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
season2 第二章 なんてこったっ! 嫁と姉ちゃんが修羅場ってるんですけどっ
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なんてこった! 嫁と姉ちゃんが修羅場ってるんですけどっ 5

あけましてオメデタウ。


本年も宜しくお願い申し上げるんだかんねっ!

 トントンと小気味良くリズミカルな音とグツグツと液体が煮える音と一緒に良い香りを運んでくる。そしてボンッという爆発音で目覚める新学期の朝――って。


 ……おい。


 姉さんっ! どんな調理をしたら料理が爆発するのっ? あの料理音痴の美九音だって爆発はさせなかったぞっ。


 様子を見に行こうとベッドを支えに腰を上げようとしたら「あんっ」という色っぽい声が耳に届き、同時に手の平に温かくやわらかい感触が広がった。


 久遠寺家に居候だったときに美九音が俺の部屋に寝惚けてよく忍び込んでくることがあったが、ここは久遠寺家ではない。


 ここは昨日、越してきたばかりの仮の住まいとして姉さんが用意してくれた七霧が経営するマンションに美九音が、久遠寺家から小一時間も離れたところにこんな早朝にいるはずがねぇー。


 そもそも……この胸の大きさは美九音ではねぇーな。 だけどキッチンにいるのは姉さんだろうし、ってことはいったい誰なんだ?


「んんっ……あら、おはよ知。朝からお母様恋しさに姉さんのおっぱいを触るなんて以外にも知って子供なのね」


 違げぇーよっ! っつーかなんで姉さんが俺のベッドで寝てるんだよっ。


 料理を爆発させたのは姉さんじゃない……ってことは誰がキッチンにいるんだ? 僅かな期待が胸中に広がり出していることに気付くが、それはないと直ぐに思い直す。


 だって俺は昨日、美九音を傷付けた。


 昨日、俺の言葉に美九音が唇を噛み締め俯いたまま「んん……分かった。知泰がそうしたいならウチはそうする」とだけ言って静かにマンションを出て行った。


「……っ」


 思い出す度に心に痛みが奔る。


 姉さんの話はあいつにだって少なからず衝撃的だっただろう。あいつが……どこまで知っていたかは俺には分からない。


 それでも七霧と久遠寺の間であらかじめ仕組まれた俺と美九音との関係を知って、散り散りとまでは行かなくても心は乱している俺なのだから、美九音だって少なからず傷付いているはずなんだ。


 だってあいつって、ほら? 気が強くて我が儘で傲慢ではあるけれども、その反面で寂しがりやで臆病で傷付き易いところもあるからな。


 でも俺はあのとき動けなかった。


 直ぐに美九音のあとを追い駆けたい衝動に駆られたが動けなかった。美九音だってショックがあっただろうに、それを知っていて、分かっていて更に俺の言葉であいつを傷付けた罪悪感で追い駆けることが出来なかったんだ。


 思い直したところでここに進入してきそうな奴に目星を付けてみる。


 姉さんが俺に用意してくれた住居は30階建てマンションの最上階にある。このマンションは田舎街とはいえ、一等地に建っていて、その高級な部類にはいるマンションの最上階で見晴らしも良く、お値段もそれなりにお高いようで入居者が決まって折らず空いていた唯一の部屋だったそうだ。


 セキュリティーも万全で居住者はIDを持ちカードを通すか面倒だけれどもパスワードを入力しなければ部外者が這いいることは出来ないと聞いている。


 昨日、美九音は這いいってきたけれども、あいつはあやかしで人間さまの概念には該当しない存在だ。


 あいつには対妖怪用の破魔の札でも施してなければ、一般的な人が施工したセキュリティーなんて無意味だ。


 となれば……あいつらの内の誰かしかいない。俺が引越しをするという騒ぎになれば、あいつらのことだから面白がって反応しないわけがねぇーんだよ。


 容疑者Aとして黒井くろい 未美みみ。あいつは猫の付喪神つくもかみ妖猫ようびょう猫又ねこまたで、俺に少なからず好意を抱いていることは分かっている。


 容疑者Bには水無月みなづき 波音はのん。俺の通う陽麟学園の教師で我が2年七組の担任にして蛇の妖、濡れ女という玉の輿を夢見る24歳のロリ教師だ。


 そして最後にもっとも疑わしい人物、いや妖。容疑者Cは大神おおがみ 紅葉もみじをあげておこう。狼の付喪神で犬神いぬがみに属する希少種の妖であり、あいつには御主人様と呼ぶほどなぜか懐かれてしまった。


「あら知? 続きはしないのですか? お姉ちゃん、もうどきどきしちゃっているのですよ」


 続きって……なに? まさかとは思うが実の弟が寝ている間にどきどきするようなことをっていったいなにをしたっ! そして続きってなにをするつもりだっ!


 実の弟が寝ているベッドに潜り込んで、朝っぱらからたわけたことをのたまった姉さんのことは見な無かったことにして、ベッドを出てキッチンに向かった。




 キッチンの入り口で頭に三角の耳を乗せ、シャツの捲れたて見える白い肌と括れた腰、短く詰めた制服のスカートを軽々持ち上げたふさふさもこもこの尻尾を苛立たしげに揺らている良く知る女の子の姿が視界に映った。


「ああもっ! どうして上手く出来ないわけ? 夕べ、ママにみっちり教えてもらって来たはずなのにーーーーっ」


 美九音、なんでお前がいるんだ? こんなに朝早くから。たぶん俺は今、にやけている。


 にやけた顔を引き締め、明かり窓から差し込む朝日で良く知った女の子の蜂蜜色をした輝く髪の毛に手刀しゅとうを落とす。


「あぅ」


「美九音、いったいお前は朝っぱらからなんの実験をしとるんだ」


「実験じゃないわよ、料理よ料理。どうせ面倒臭がりのあんただから新学期の初日から寝坊して朝ごはん抜くんじゃないかって思ってわざわざウチが来てあげたんだから感謝しなさいよね」


 いつもと変わりない美九音の姿がここにあった。少し安心してほっと溜め息を吐いた。


「ちょ、ちょっと聞いてんのっ! 知泰っ」


「聞いとるわっ! てか、どうやったら料理が爆発するんだよっ」


「ちょっと失敗したら爆発したんだもんっ! 仕方ないでしょ?」


 料理はちょっとやそこら失敗しても爆発なんかしないっ。


「でもね? 今日の料理は結構自信作だからきっと美味しいわよ?」


 爆発を起こすような料理のどこからその自信が出れ来るんだ?


「根拠はないけどウチ、自信あるもん」


 なんの実験料理をしていたのか分からないその結果出来上がった得体の知れない物体をおたまにすくう美九音ちゃん。


「そんな根拠のない自信は生ゴミといっしょに生ゴミ日に出してしまえっ!」


 他人の言葉など聞かない美九音が、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべ、おたまに乗せた得体の知れない物体をかわいい顔で「はい、あ~ん♡」とかしてきやがった。


 そんな性質の悪いことを可愛い仕草で平然としてくるものだから、得体の知れない物体を食べさせられようとしている方はたまったものじゃない。


 さてはおまえ~、昨日の腹いせに俺を毒殺するつもりじゃないだろうなっ!


「ときに美九音よ。これ毒とか入ってねぇーだろうな? お前の目的はなんだ怒らないから言ってみろ」


 美九音は口元に近付けて一旦止めた。


「……」


「おい? なぜ黙る」


 美九音は俺の投げ掛けた質問には答えずに、おたまに手を添え獣の耳と尻尾をパタパタ、大きな紅い目をぱちくりしばたたかせながら、きょとんと首を傾げて不思議な顔で俺を見ている。


「はい、あ~ん♡」


 だからっ! かわいい顔をして俺を毒殺しようとするんじゃないっ。


 おまえは久遠寺の家からマンションまで遠いのに、わざわざ学校の前を素通りしてこんなに朝早くから昨日の腹いせに俺の毒殺以外に、いったいなにをしにきたと言っとるんだよっ。


「……えと、美九音ちゃん? いったいなにをしに来たんだ?」


 渦巻く疑惑は一時置いておいて、努めて優しい声で尋ねてみた。


「はい、あ~ん♡」


「…………」


 美九音はどうしても俺を殺したいらしい。


「はい、あ~ん♡」


 それはもういいんだよっ! 俺は「はい、あ~ん♡」の他の言葉を待っているんだっ!


「……だってウチ、料理もまともに出来なかったからダメな女の子だって、知泰に嫌われちゃったんだと思って……それで知泰に嫁として認めてもらえなくて捨てられたんだって、だから昨日あれから家に帰ってママに料理を教えてもらって早起きして作りに来たあげただけだもん……」


 美九音が声を詰まらせ、かわいい顔を歪ませて俯いてしまった。


 暫く顔を伏せていたが涙目になった大きな目を上目遣いして、俺の様子を窺うように見詰めた。


「美九音? そうじゃなくて俺が昨日言いたかったのは……その、俺は、俺たちはまだ一人前の大人になり切ってなくて、だからその……一度、元の関係に戻ってだな? それからまた俺たちの今に相応しい、俺たちの気持ちに沿った等身大の付き合い方を考えよう。って言いたかったんだ」


 なにも今の俺たちが背伸びをすることはない。


 結婚という形じゃなくても一緒にいることは出来るし、夫婦って関係にならなくてもお互いを大切に想うことが出来る関係が幾らでもあるんじゃないかって、つまりはその俺の彼女になるとか……。


「今のウチらに相応しい関係? 具体的にはどんな風に? 主と下僕? とか?」


 そのあと首を傾げながら美九音は「もちろんあんたが下僕なんだけど」とのたまった。


「違ぇーーーーよっ! なんだそのおまえのお姫様観念はっ!」


「じゃ……じゃあ。たとえば?」


「たとえば……彼氏彼女……とか……」


 照れくさくなって小声で言った。


「えっ? なに聞こえな~い」


「か、彼氏彼女の関係とかっ……だ」


「むっふふ♡ 聞こえな~い。もう一度言って?」


「彼氏彼女の関係とかっ!」


「知泰……それってウチのこと、やっぱり好――」


 美九音がなにかを言いかけたとき、突如後ろから姉さんの声が重なった。


「早朝から騒がしいですよ知? 彼氏彼女の関係などと今更大声で騒がないでくださいね。お姉ちゃん照れちゃうわ。あら美九音ちゃんおはよう。知に別れを告げられた昨日の今日で案外、あきらめが良くないですね? 美九音ちゃんって」


「姉さんっ!」


「知は黙っていてください。これは女の戦いなのですよ? 同じ人を愛してしまった女同士の負けられない戦いなのです」


 いや、いやいやいや、愛してしまうとか言う前にあんたは俺の姉さんで、愛と恥ずかしい言葉を吐くその前に姉さんとは血の繋がった姉弟だし……。


「あら? 私は間違っていませんよ。知を愛しているもの」


 だからそれは家族愛とか兄弟愛とかそういうやつっ! 恋愛感情とは別の愛情なんだよっ! 


「いいわよ飛鳥。あんたとは一度、本気で戦わなければいけないときが来ると思っていたのよ」


「あら奇遇ですね? 私も美九音ちゃんとは決着を着けなければならないときが来ると思っていたの。親同士が知と美九音ちゃんを許婚にした日から知の童貞を賭けて戦う日が」


 姉さんは弟のなにを賭けてんだっ! って……えっ? 姉さんその前になんっつた? 俺と美九音が許婚? その話って美九音が未美に見栄を張って口からでまかせで言った虚言じゃなかったのか?


昨日さくじつに話したはずですよ? 九尾の狐を七霧の目が届くところに置いておくことになっている。と」


 To Be Continued

ご拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!><b

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