俺の可愛い嫁がネンネちゃん過ぎて生きるのが辛い 2
「んん? はみは?(なにが)」
うどんを啜ったまま顔を上げて首を傾げる美九音ちゃん。
あのね? お前はヒロインなんだから、うどんを啜ったまま口から垂らして喋るのは止めなさいっ。
なんだこいつ? うどんを口から垂らしたままで残念無双なのに、きょとんとした仕草が無駄に可愛いじゃねーか。
ズ、ズズ、ズズズズ。
言ってるそばから、うどんを啜りあげてんじゃねぇーよっ! まぁいい、まあいいさ。
あの言葉をこいつに言ったら、一体どんなリアクションしてくれるのだろな? さあ喰らえっ美九音っ、魔法の言葉とやらをっ!
一呼吸置いて間を整えた俺は、今し方啜り上げたうどんを咀嚼しながら、油揚げをためつすがめつ箸で汁に浸すことに夢中の美九音に向けて魔法の言葉を囁いた。
「好きだよ。美九音」
ブフッ。噴いた。
口に啜り込んだうどんを咀嚼していた美九音が盛大に噴いた。
汚ねぇーな。麺とネギを飛ばすな目に入ったじゃねぇーかよっ。
それでも美少女ヒロインかお前はっ。
「にゃ、にゃにゃ、……にゃに急に言ってんの? ウ、ウウウ、ウ、ウチのこと? す、すすす、好きってウチに言ったの?」
「んまぁ……そう」
「えへへへ」/////
急激に顔を赤らめ俯いてしまった美九音ちゃん。
ズ、ズズ、ズズズズ。
だからこの場面で照れながらうどん食うなよっ!
「俺、美九音が好きだ。誰よりもなによりもお前が大事なんだ」
ブフッ。噴いた。
どんぶりに顔を向けたまま盛大に美九音が噴いた。
汚ねぇーな。盛大に汁飛ばしてんじゃねぇーよ。かまぼこが飛んで来てデコに張り付いたじゃねぇーか。
「え、えとね? それほんと?」
デコに張り付いたかまぼこを取って、美九音のどんぶりに返しながら確認の言葉に答えた。
「んまぁ……ほんと」
俺からの答えを聞いた美九音は、顔を伏せたまま胸元で指を捏ねくり出した。
「ウチ……う、嬉しいかも……」
「そ、そうか? それは良かった」
顔を上げた美九音と視線が交わるのが、恥ずかしくて今度は俺が俯いてうどんを啜った。
「顔上げて、もっかいウチを見て、ウチの目を見て言って欲しい……かも♡ 」
上目遣いで様子を窺う、いつもは生意気で強気で可愛げの無い美九音の声が凄く弱弱しくそして頼りなく聞こえる。
不安なんだろうか? 言葉を聞きただけじゃ信じられないのだろうか。
「だから……その、好きだよ。俺はお前を大切に思っている」
「バ、バカっ、遅いよ……。もっと、は、早く言ってよね……」
美九音のくりくりの目から涙が零れ落ち頬を伝っている。
「美九音……お前泣いてんのか?」
美九音は涙を拭い、また零れ落ちないように頬と唇を震わせながら堪え、そして溢れ出てくる感情を言葉へと変えていく。
「だ、だだ、だって……う、嬉しいんだもん。ウチもね? ウ、ウウウ、ウチも知泰のことが――ずっとずっと、ずぎ……ずずず、好きだったのに……知泰に好きって言ってぐれ、くれのを、まま、待ってたのに……で、でで、でも知泰はなかなか言ってぐれ、くれ、……ひくっ、くれなくて、……あれ? また涙出てきた」
美九音っ! おまっ、お前……涙もだけど鼻からうどんが出てるぞっ。
どうやら咽込んだときに気道に入ったうどんが泣いてしまった拍子に鼻水と一緒にうどんも出てきたらしい。
真っ赤になった顔でもじもじ恥じらい、胸元で忙しなく指を捏ねくり回して時折上目遣いで俺の様子を窺いながら「ウ、ウウウ、ウチも知泰のこと、だだだ大好きかも」と美九音が微笑んだ。
にこやかに微笑んだ美九音は、今まで見たこいつの笑顔の中で最高に可愛くて嬉しそうで幸せそうだった。
ただし口の周りを汁まみれにしてネギが張り付いた白い歯と、鼻からぷらんぷらん揺れているうどんを垂らしたままでなければ……。
「知泰、……鼻が痛いかも、うどん取って?」
今更それを言うかっ! 真っ赤に染まった顔で肩を窄めてもじもじと恥らい、テーブルの上で「の」の字を書きながら甘えた声で「うどんを取って欲しい」と訴えてくる美九音ちゃん。
だからうどん垂らしながら無駄に可愛い仕草するんじゃないっ!
どんな様になろうとも何故か天然さが残念さを上回り、可愛く見せてしまうお前は凄いよ。
残念ヒロインここに極まったって感じだな。
その後、美九音の家に帰った俺たちは、なんとなく気恥ずかしくてろくに会話もせず、夕食とお風呂を済ませそれぞれの部屋に戻って床に就いた。
特に美九音の方は俺と目が合うと顔を真っ赤にして俯いてしまい、時折頷いては何事かを呟いて自分に言い聞かせている様だった。
一言も言葉を交わすことなく、夜は更けお互いの部屋に入って行った。
暫く布団の中で考えていた。
銀狐の野郎どもめっ。なにが魔法の言葉だよっ。
確かに教えて貰った言葉を言ったら、美少女が鼻からうどんを垂らしたまま、嬉し涙を流して微笑んでいるという滅多に見れない光景は見れけれど、あれのどこがあいつの身も心もってところに繋がるんだ?
もしかして飾らない自分を見せてくれたってことなの? ありのままの自分を見せてくれたってこと? 俺に心を許しているからこそ、ありのままの姿を、鼻からうどんを垂らすという芸当を自らの身体を持って見せてくれたってことなの? ポジティブに考えれば……。
なんだかななんだかなぁ……、俺はもっと違うことを期待をしていたんだが完全に肩透かしだ。
悶々として寝付けずにいると部屋のドアが音もなくゆっくり開いて、廊下の灯りが差し込んでいることに気付いた。
寝た振りをして薄目でドアの方を見ると、廊下の灯りを背にして美九音が立っていた。
パジャマの裾を握った手で枕を抱き締め、胸の辺りに手を置いていて、内股になった足の指先をもぞもぞ動かしながら、部屋に入るのを躊躇している様子だった。
暫く躊躇していた美九音は廊下の灯りを消して部屋に入って来た。
先程まで廊下の灯りが差し込んで明るくなっていた部屋は、再びオレンジ色の微灯だけの薄暗い闇へと戻る。
美九音は俺の寝ている傍まで近付くと顔を覗き込んで来たので、慌てて薄目を閉じて寝た振りをしてしまった。
「ねぇ? 知泰寝ちゃったの? ほんとにほんとに寝ちゃってるの」
美九音は「なによ……いろいろ悩んでウチが眠れずにいるのにっ」と詰まらなそうに言ったあと、布団に潜り込んで来た。
そして身体を摺り寄せ、肩口に小さな頭を乗せて来た。
うわぁうわぁうわぁ。ヤバイっこいつ、凄く良い匂いがする。女の子独特の甘い香りを漂わせている美九音が胸の中にいる状況で、俺はこのまま理性を保ち続けることができるのだろうか。
「もっ! 本当に寝ちゃってどうするのよっこのバカっ。折角ウチが悩みに悩んで覚悟を決めて来たって言うのにっ! このバカっほんとバカ」
えっ? どんな覚悟を決めて来たんだ。
なにを、なにを覚悟して来たんだよこいつは……、もしかしてもしかするの? でもまさかな、こいつ姫子先生たちの隠れ里で起こった奇跡以降は絶対に触らせてもくれなかったんだぜ? 今になってどういう風の吹き回しだよ? いったいなにがこいつを心変わりさせたんだ。
悶々とあれこれ考えていると美九音が顔を近付け、小振りな唇を俺の唇に重ねてきた。
「んん……」
ほんの僅かな時間だけ唇押し付ける軽いキス。
駄目だ駄目だ駄目だっ。もう我慢せきねぇーっ! 物凄くこいつをぎゅって抱き締めてぇーーーーっ。
「ねぇ知泰、本当に寝ちゃってるの?」
「んん? 美九音? どうしたんだこんな夜中に」
もう寝た振りはやめたっ。でも勝手な行動に出るとこいつ怒るからなぁ~。
オレンジ色の微灯の中に美九音の小さい顔の輪郭だけが見える。
「知泰、ぎゅって……しれ?」
「どうした。眠れないのか?」
「いいから早くぎゅってしれっ」
「お、おう」
美九音の頭が左肩口に乗っている。左手はそのまま細い肩を抱いて、右腕を腰に回した。
「知泰、腰はく、くすぐったいよ……」
細っ! なにこいつの肩と腰? 細っ。でも柔らかい。
「こんな夜中に眠れないのか?」
もう一度同じ質問を投げかけた。
「え、えとね……そ、そのね? うとね……ママたちが寝静まるのを待って、知泰のところに来たの。一緒に寝ちゃダメ?」
ダメじゃないダメじゃない。寧ろウエルカムです。
って……こいつ今なんった? おばさんたちが寝静まるのを待って俺のところに来た? なんで?
「知泰? 昼間に言っていたこと……ほんと?」
「昼間に言っていたことって?」
「もっ! バカっ知らないっ。え、えとね……知泰、ウ、ウチを好きってゆってたこと」
ああ、あれね。
あれは銀狐衆の奴らがお前にあの言葉を使えば、なんか良い事があるみたいなこと言ってたから。
あれ? 下着屋のお姉さんが言ってたんだっけ? まぁいいやどっちでも。
「あのね? もっかい……、うんん。これから何度でも言って欲しいかも……ダメ?」
暗闇に慣れてきた視界は美九音の端正な目鼻立ちを映し出している。
「えと……そんなの何度も言わねぇーよ。なんかさ? なんども言うと言葉の重みがなくなる気がするんだよな」
本当は何度も言うのが恥ずかしいだけなんだけど。
「ケチっ……。でもそうかも。だけどもっかいだけ、ね?」
「えと……うんまぁ、いいよ」
「ほんと? じゃぁ……早く、言って」
そして昼間の言葉と同じ想いを伝えるための最上位に当たる言葉を言ってやる。
「美九音、愛してるよ」
「ひやぁぁーーーーっ。愛してる、キターーーーっ」
えっ? なにこの喜び様。
「知泰? ウ、ウチも……あ、あああ愛してる、よ?」
To Be Continued
ご拝読アリガタウ。
次回もお楽しみにっ!




