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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
エピローグというか第二章プロローグ
62/130

俺の可愛い嫁がネンネちゃん過ぎて生きるのが辛い 1

 銀狐衆は去り際に俺に、こう言った。


 姫様の話によれば、姫様はまだ旦那様になられた七霧様にお許しになっておられないとか……。


 我らはお美しい姫様のお子を兼ねてより楽しみにしておったというのに、姫様もとんだネンネちゃんでございますな。


 姫様が愛する七霧殿に愛想をつかされ出戻る前に策を講じねばなりませぬ。


 そうだ。では七霧様に魔法のお言葉をお教えしておきましょう。


 さすれば姫様は必ずや、身も心もあなた様に捧げられることとなるでしょう。


 では七霧殿。どうか我らが姫様に子種を孕ませて下さいまし、そして可愛らしい姫様のお子を一族にお見せ下さいますよう……d(。ゝд・) (o^-')b ( ≖ิ‿≖ิ )b




 その魔法の言葉は――。





 さて、なにから話せばいいのか分からない。だからその後の事を、銀狐衆が去ったあとの話から始めようと思う。


「知くん? お疲れ様。狐が無事でなにはともあれ、だね」


 余裕に見えたかも知れねぇーけど、銀狐と対峙していた基本ヘタレな俺は結構精神的に消耗していて、気を失った美九音を抱き抱えたまま、なかなか立ち上がれずにいたところに未美たちが安堵の表情を浮かべて声を掛けてきた。


 呼ばれた大炎魔は待ってましたとばかりに、これまで見たことも無いくらいに燃えていたところを肩透かしされ(なんじゃつまらんの、我主様は戦いになる前に口先三寸で事態を納めよる。まぁええがの)と不完全燃焼ぎみだったらしく不満そうだった。


 大炎魔の奴、永い眠りから覚め、漸く活躍の場を得たというのに俺が戦うことを嫌って争いを避けているからストレスでも溜まってんのか? 


「七霧、御苦労だったな。お前は大した奴だ本当に……。私たち妖にさえ恐れられていた九尾の狐が惚れるわけだ」


「お疲れ様でした知泰さん。お疲れのところ言い辛いのですが、私のパンツ早く返してくださいねっ」


「御主人様、お疲れ様でした。えと御主人様……御姉様を守って下さってありがとうございます」


「ほんとびっくりしたわよ。いきなりバトル展開になるんじゃないかと冷や冷やして見ていたよ」


 あれ? ひとり多くね? 大炎魔が語りかけてきた時とは違うし、美九音は眠ったままだし……。


「ねぇその娘って、君の彼女?」


 えと確かあんたはランジェリーショップの店員さん!


「そっかそっか。君が九尾ちゃんの例の可哀想な彼氏さんなんだ。あははは」


 笑い事じゃねぇーよ。健全に育った思春期の男の子が彼女(嫁)がいるってのーにえっちは愚か、おっぱいにさえも触らせても貰えないんだぜ?


 もう生殺し状態で生きるのが辛いわ! それを笑いやがった、このアマっ。


「君も可哀想だとは思うけどさ? もっと九尾ちゃんの乙女心も考えてあげなよ。彼女、相当気にしているみたいだったよ? 胸が小さいこと」


「別に俺は馬鹿にしたりしてねぇーよ……」


 面と向かっては。


「まぁいいけどね。人それぞれ好みもあるだろうし。でも今夜か明日辺りには九尾ちゃんのおっぱいが急に成長していても驚かないで褒めてあげてね? そしたらばなんか良い事があるかもよ?」


「それってどういうこと?」


「そ・れ・わぁー……ひ・み・つ♡ 乙女の秘め事よっ。じゃぁーね」


 鼻に掛けたアホっぽい喋り方がめっさムカつく! 


 なんだかわけの分からないことを一方的に言って店内に戻って行く店員さん。


「でもさ? 寝ている時の狐って悔しいけど、ほんと可愛いよね? そりゃ知くんが他の女の子に見向きもしないってことに頷ける気がするもん」


 未美は俺を睨み付けて、そう言ったあとに「起きているときは超ムカつく奴だけどね」と付け加えた。


 未美よ。お前は知らないだろうが、確かに可愛い寝顔ではあるんだが、こいつたまにヒロインにあるまじき残念な寝顔になることがあるんだぜ? 寝起きは悪いし寝惚けるし。


 確か冒頭でなにか純情派ヒロインにあるまじき、残念極まることをやらかしたよな? こいつ。


「さてとそろそろ俺たちは帰るわ。家にこいつを連れて帰えらねぇーとおばさんが心配しているだろうからさ」


「でも狐まだ気を失ってるよ? 起きるまで待ってたら? 知くん」


「いやおぶって帰るよ」


「御主人様のえっち♡ 背中で御姉様のおっぱいを堪能するつもりなのね」


 言われるまでその発想は無かったわっ! 紅葉よお前のその発想こそがえっちだ。


「さ、さて帰るとするわ。よっこらしょ」


 腕に抱いている美九音の身体を背中に背負う。


「じぁーな、皆」


 未美たちに背を向けて俺は帰途に着いた。


「あのっ! 知泰さん。私のパンツ返してくださいっ……」






 美九音は俺の肩口に顔を乗せた状態で、健やかな寝息を立てている。


 顔が近い所為か髪の毛から香る甘い香りと、吐息とともに吐き出される空気が、小さく薄い唇に引かれたリップの果実の香りが鼻孔を擽った。


 こいつをおんぶするなんて何年ぶりだろうな? 大人びたってほどでもないけれど美九音の全身から女の子独特の甘くて良い香りがする。


 やっぱりこいつも年頃の女の子なんだってことに今更ながら気付かせされる。


「んっ……知泰、ウ、ウチ……ね…………」


 起きたかと思えば寝言かよ。


 寝言に質問したり答えちゃいけないとか聞くけど、こいつの言い掛けた言葉の続きが若干気になって訊いてみた。


「んん? 美九音どうした?」


「……知泰、ウチね?」


「お、おう……」


「お腹空いたかも……」


 ……期待空振り。こいつの本音とか聞けるかも、て思ったんだけどな。


「じゃあ、喧嘩の仲直りにニコニコプリン1ダースほど買って帰るか?」


 美九音は人目も憚らずに狐耳を晒してパタパタ、そばだてている音が微かに聞こえた。流石に尻尾は出していないみたいだ。


 さては……こいつ狸寝入りしてやがるなっ! 狐のくせに。


「美九音? お前もう起きてるだろ。起きたんなら1人で歩け」


「ん、にゅ…………すぅーすぅー……Zzz」


 俺の首に巻かれた美九音の腕をより一層、深く強く絡めて来た。


「重い――」


 ぐぇっ!? こいつそのまま首を絞めやがったっ! 起きているだろ? 絶対に狸寝入りしてやがるっ。


「な、なぁ美九音? お前って今日、ミニ履いて来ているよな? おんぶしていると多分、後ろからお前のパンツちらちら見えてるぞ? 道行く人々の衆目に晒されているぞ? お前のパンツ」


「…………、じ、じゃぁ抱っこ――お姫様だっこ。うにゅうにゅ……Zzz」


 はい確定っ! 起きてますね美九音ちゃん。


「いやそれもきっとパンチラ確定だから降りて歩けよ」


「すぅーすぅー……」


 この野郎っ。バレても尚、寝た振りしよーってか? このまま俺を楽ちん移動手段にするつもりだな?


「美九音?」


「…………すぅーすぅー」


「お前ってば案外おっぱいあんのな? 柔らかいおっぱいの感触が背中に――」


「きゃぁーーーーっ! 降ろせっ! 今すぐウチを降ろせっ」


 おいっ! あんまり暴れんなっ。


「きゃぁーーーっ」


 上体を起こしてポカポカ俺の頭を叩いて暴れ出した美九音ちゃんは、可愛らしい悲鳴と共に急速に背中から離れて行った。


 あぶねぇーっ!


 異様な重心の変化を感じ取った俺は、懇親の力を振り絞って前のめりに重心を移動したところへ美九音が藁をも掴むといったように俺の首に捕まり、上体を起こした。


 またもや急速に変化する重心に振り子作用も加わり、そのまま歩道に敷き詰められたレンガ調の石畳へと顔面から倒れ込んだ。


「きゃぁーーーーっ! 危ない知泰っ。顔から石畳に倒れて、今以上の不細工面にならないでっ」


 と寸でのところで抱えていたしなやかな足を伸ばして地面を踏ん張った。


 美九音が咄嗟に足を踏ん張ってくれたお陰で顔面滑走することは免れたが、背中側から首を掴まれたまま足を踏ん張られているので、さながらプロレス技のキャメルクラッチ状態となった。


 ぐ、ぐるぢい……。 


 俺が直ぐに美九音の腕を叩いてタップし、ギブアップの意思を伝えたのは言うまでも無い。





 何時から目を覚ましていたのかは分からないが、狸寝入りがバレて俺の背中から降りることになった美九音と並んで帰宅する途中にニコニコおはよーd(。ゝд・)プリン復刻版を1ダースほど買ったあと、通りに出汁の良い匂いが漂って来て「お腹空いた、お腹空いた」と耳元でがなり立てる美九音がうるさく、胃袋を攻撃し続けてくる良い匂いの元であるうどん屋さんの暖簾を潜った。


 美九音はおしながきを開くや否や顔を華やかせた。


「見て見て知泰っ。ここのお店のきつねうどん定食もお稲荷さんが付いてるよ、3個も。学食のより1個多いね。いつもより2個も多いからウチ食べ切れるかな? 6個も」


 超御機嫌な美九音ちゃんであったが、お前お稲荷さんの計算がおかしいぞ? 学年で一番の優等生だろっ! お前は。


「えっ? だってそうでしょ。ウチの定食に3個お稲荷さんが付いてきます。それにあんたの定食に3個のお稲荷さんが付いてくます。いつもガッコで食べる学食の定食はお稲荷さんが2個付いてきます。ここの定食には学食より1個多くお稲荷さんが付きます。さてこのお店の定食に付いているお稲荷さんはいつも食べている学食の定食よりお稲荷さんは2食分で幾つ多いでしょう。またお稲荷さんの総数は幾つでしょう。答えを求めよ」


 おまえ~っ、紛いなりにも高校生の俺に小学生の算数問題をやらせる気かっ。


「ちょい待て。それでもお前のお稲荷さんは6個にはならないっ」


「なんで? あんたのお稲荷さんはウチにくれるからウチの物でしょ?」


 お前は日本屈指のガキ大将かよっ。何たるジャイアニズムっ! 食い意地張りやがってっ。


「違うの?」


「違うわっ」


「おかしいよ。違うくないもんっ」


 如何にも不思議そうに目をパチクリしながら、きょとんと首を傾げる美九音ちゃん。


 俺はまだなにを注文するか決めてねぇーんだから、そもそも俺が食いたい物を決めるまでお稲荷さんの数は、お前の定食に付いて来るお稲荷さん3個以外は不特定だっ。


「すみませ~ん。きつね定食2つくださ~い」


 こいつーーーーっ。


 勝手に俺の分まできつねうどん定食を注文しやがった! まぁいつもの学食と同じだけれども、せめて月見定食とか違う物を注文してくれ。


 うどん屋さんで同じ物を頼むなんて、どんだけ仲良しカップルなんだっつーの! ハズカシイっ。


 お前まさかその内にペアルックとか言い出さないよよな? 俺は絶対に着ないからなっ!


「そういえばさ? お前今日なに買ってたの?」


「べ、べべべ、別になんだっていいじゃん。ひ、秘密……」


 まぁいいけど店員さんが気になることを言ってたから聞いてみただけだし。


「なによそれ」


「なんかさ? お前のおっぱいが急に成長するとかなんとか」


「ぎゃぁーーーーっ。あ、あああ、あの店員っ、ウチの秘密の買い物をバラしたの?」


「いや別に、それ以外は聞いてないぞ? っつーかお前の秘密ってなに?」


 店でお前と店員さん話を盗み聞きしていたけど、なにを話しているのかさっぱり俺には理解出来なかったからな。


「そ、それは……それは……お、乙女の秘密……乙女のリサールウェポン2カップアップブラ」


 最後の方は声がくぐもった上に小さくて聞こえなかった。


「乙女のリサールウェポン? ツゥカップなんだって?」


「し、知らないっ」


 美九音は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「お待ちどう様」


 きつねうどん定食が運ばれて来ると、真っ赤になっていた美九音の顔がまた華やいだ。


 百面相みたいだな。


「うわぁ、美味しそうだね、ここのお稲荷さん大きいね、知泰」


 運ばれて来たきつねうどん定食を見て超御機嫌の美九音ちゃんは目を爛々と輝かせた。


 いやマジで美味しそうな、いや既に美味しい出汁の香りがするし、大き目のお稲荷さんも見た目で既に美味しそうだ。甘辛く煮込んだ肉厚の油揚げは出汁の色に程よく染まって表面に照り胃袋を刺激してくる。


 でも通例だと俺のきつねうどん定食は、油揚げとお稲荷さんを強奪され、素うどんと化す。その代わりに美九音が食べ切れない分のうどんと付け合せが俺の盆に強引にトレードされてくるんだがな。


「あんた、お稲荷さん好きじゃないでしょ?」


 別に嫌いじゃねぇーよ? 寧ろ好きな部類だ。


「ウチがお稲荷さん好きなのより、好きじゃないでしょ?」


 理不尽だっ! お前が基準かよっ。


「はいっ。これとお稲荷さん交換したあげるね♡」


 ほらな? 何時もこうなるんだよ。


「いただきます♡」


 そして美九音は箸を口に咥えたところで、まだなにかを思案しながら俺の定食を見つめている。


 はいはい。分ってますよ。


「ほら」


 俺はうどんに乗っている油揚げを箸で掴んで美九音のうどんの上に乗せてやった。


「……いいの?」


 箸を咥えたまま上目遣いで確認してくる美九音ちゃん。ヤベっ可愛い。こいつは何時もこういった仕草を天然でしやがるから性質が悪い。


「いいよ。お前好きだろ油揚げ」


「うん。ありがあとね……。は、はい」


 えっ? なんだ? なんだ? なにが起こっているんだ? 


 美九音がついさっき掻っ攫っていったお稲荷さんを1個だけ、俺の皿に戻した。


「な、なによ……。ほ、ほら? あんたウチのこと迎えに来てくれたじゃない? ほ、ほんとはまだ怒ってるけど、り、離婚は考え直したげる……」


 別に人間界では離婚しようが元鞘になろうが、これまでと何ら変わらないから良かったんだけど……。


「か、勘違いしないでよねっ。ウチのお稲荷さんあげたからって全部許したげたわけじゃないんだからっ! きょ、今日は特別なんだかんねっ!」


 元々俺のお稲荷さんなんだが……。まぁいいや野暮な突っ込みは入れないでおくことにする。


「おう……サンキュ」


 美九音は頬に空気を孕んで唇を突出し、眉を吊り上げてプイっとそっぽを向いてしまった。


「美九音、いつまでも怒ってないで食べようぜ。折角のうどんが伸びてしまうからさ」


「う、うん」


 美九音はツインテールの片方に手をやって押さえ、うどんを啜り出す。いつもならポニテの美九音がこういった仕草を見せることは少ない。


 いつもと違う仕草をされると、なんだか新鮮に見えるのはなぜだろうな?


 そういえば銀狐衆が言っていた魔法の言葉をここで言えばどうなるんだろう。


 銀狐衆が教えてくれた物は魔法の言葉と言っても、極々一般的に使われている言葉なんだが、今更その言葉が果たして魔法の言葉に化けるのだろうか?


 少し試してみたくなった俺は、うどんを夢中で啜っている美九音に魔法の言葉を唱えてみることにした。


「美九音、好きだよ」



 



 To Be Continued

 






 

 


 

ご拝読アリガタウ。


次回もお楽しみにっ!

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