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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
第一章 ちょっと? 九尾な女の子
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九尾な女の子 4

「もっ、まったくどうしたらあんな勘違い出来るわけ? スケベ、変態っもう信じらんないっ。ほら今度こそちゃんと見なさいよねっ」


 どうやら美九音ちゃんは御立腹の様だ。スカートを捲り上げた直後、頬を膨らませてぷいっと顔を背けてしまったから、その後の表情を窺い知る事は出来なかったがプリプリ怒ってたもん。


「って言われても瞼が開かないんですけども……」


「ほんと肝心な時になにやってんのよあんたはっ! ぅんと使えないわねっ」


 酷いっ! なにも糞もこんなになるまでフルボッコにしたのお前じゃん。


「つべこべ言うなっ」


「はい」


 晴れ上がった瞼を無理やり指で抉じ開け視界を確保する。そりゃもう痛いのなんのって。


 激痛に涙を流しながら美九音が指差した方向に視線を向けるが、いかんっ――今度は涙で滲んで良く見えん。


 ついでに俺の素敵な明日も見えて来ねぇー。


 また理不尽な制裁を受ける前に、パチクリ瞼を上下して涙を流し切り、無理やり強制的に瞼を抉じ開けて視界を確保する。 


「なっ……なんじゃありゃ!?」


 視線の先には酒の飲み過ぎで肝臓の病気を患ったおっさん宜しくどうにも不健康そうな肌色をした2mを余裕で超えている。でっかい天パの微妙に禿げ散らかりかけたおっさんが、虎柄パンツ一枚というほぼ全裸で純鉄製釘バットのでっかいやつを持って闊歩していた。


 知ってる知ってる俺見た事あるもん。ありゃー間違いないね。


 じいちゃんが肝臓病んでたから覚えてるんだけど、確か入院した時あんな肌色してたもん。あの肌色は絶対肝臓病んでるって、やっぱ俺の勘は正しかったね。

 

「あんたてばほんとバカじゃん? あれは鬼よ。黄鬼って言って、まぁ鬼の一族では低級妖だけどね。このまま放って置いてなにもせず何処かに行ってくれればいいけど暴れ出したら被害でるわよ。あいつら頭は残念なほど弱いけど馬鹿力だから」


「どうすんの?」


「そだね。暴れ出しちゃう前に追い払うか、やっけちゃわないとダメかもね」


 平和的解決をこよなく愛する俺は、暫く様子を窺がいたい旨を美九音ちゃんに進言し、大人しく何処かに行ってくれる事を祈りつつ木陰に隠れて見張る事にした。




 鬼は校舎の周りを回っているだけで、なにをするでも無く闊歩しているだけだ。強いて言えばなにかを探している様に見えなくもない。


「なぁ」


「なに」


「低級妖くらい今のお前でもなんとか出来るんじゃね? なんたって大妖怪九尾様なんだからさ」


「……無理、かな?」


 何時もは自信満々のこいつからなんだか歯切れの悪い返事が返って来ちゃった。


「完全に九尾の力が戻ってないにしても、そこいらの妖なんかより遥かに強いと思ってたんだけどなぁ……」


「バッ、バカにしてんの? 言っとくけど本来ウチの妖力って洒落になんないくらい膨大なのよっ! 今のウチには加減するのが難しいのっ」


 おおっ膨れてる膨れてる尻尾も頬も。


「だったらチャッチャと妖化してやっちゃえよ」


「だーかーらーっ。それなりに出来ない理由があんだってば、なんで分かんないかなぁー?」


 妖や九尾の事情なんて人間様が知るかよ。


「ほらウチはさ? ほんのちっぽけな殺生石の欠片から復活したのあんたは知ってるでしょ? ……そ、その――ち、ちっちゃいのよ……」


「胸が?」


「ふっ……。ゆっくりお話ししましょうかぁー知泰」


 僅かに唇の端を吊り上げて軽く息を吐いて一言しゃべったただけで、俺の周囲、背筋と四方三里の空気を一瞬で凍りつかせやがったよこいつ。おっかねぇなーおい。


「悪かったっ。許してください」


「……ちっ。妖力を受け入れる器が小さいっつてんの、つまりはカ・ラ・ダ。こんなに小さい身体で日本全土、無数に散らばったウチの妖力の破片を極近くにある妖力だけを集めて、取り入れるなんて事は試した事ないから分かんないけど、もし受け入れられたとしても力を制御出来ないと思うし、間違いなく受け入れられる限界は必ずあるはずなのね。ウチ、復活して直ぐ退魔師に狙われ弱っちゃったから、その時咄嗟に近くを通り掛かった人間ママの胎内に逃げ込んで、後に人間から生まれ直したし、あっ! でも半妖じゃないよ。人間から生まれて人間の子として育った妖だから妙に考え方とかいろいろ人間臭いところがあんのよね。それに今ウチが力使ったらあんたが……、ううんなんでもない」


 おいお前、人間に謝れ妙に人間臭いだと? 言わせて貰うがお前の様な凶悪な人間は流石にそうそうおらんと思うぞ? 特に女の子にはなっ! 俺の叫び(心の)を知った由もなく美九音はなにかを振り払うように頭を振ると言葉を続けた。


「ねぇ知泰は覚えてる?」


「なにをだよ」


「えとね? ウチらが小さい頃のこと、小四の夏休みだったかにあんたの、七霧の生家に清涼しに行ったことあったじゃん」


「ああ覚えてる。あん時は確か 綾乃あやのも居たっけ?」


「うん。あたしらのもうひとりの幼馴染。新田にった 綾乃あやの ……。ウチの家とあんたん家、そんであやちーん家が並んでて、ウチら三人同い年って事で家族ぐるみで仲良かったんだよね」


「そうそうあの頃はな。あん時綾乃の奴、浮かれて知恵熱出して寝込んだよな」


「そそ。そんでさウチとあんたで山ん中に入って川で遊んでて、ウチがはしゃぎ過ぎてまだあの頃は小さかったけど九尾の姿をあんたに晒しちゃってさぁーあの時はマジ焦った、かな」


「おお。あれな美九音が突然、狐の姿になってさ。流石に驚いたけど……でもさ俺、その前から気付いてたんだよなぁー。なんでか分かんないんだけど」


「うん……。ウチもあんたが気付いてること分かってたんだと思う。だからつい気が緩んで姿を晒しちゃったんだと思うんだよね。だって狡猾な狐だもんウチ。……それも長い長い時を生きて付喪神つくもがみとなった九尾の狐だもん……」


 何故か声を細めた美九音がとても寂しそうに見えた。


「綺麗、だった……」


「えっ?」


「すんげぇー綺麗だと思った。金色の毛をした子狐がさ水面で戯れてんの、飛沫上げて跳ね回っんのな楽しそうに。そんでさ太陽の光浴びてキラキラ輝いてんの、あん時きゃ時間が止まったみたいにゆっくり流れてる時間の中で俺マジ見蕩れてたわ」


「くすっ。……惚れ、ちゃった?」


「あほかっ! 見蕩れてただけだ惚れたんじゃねぇよ。っつーか今のお前を見詰めるといい」


「えっー、ウチって超綺麗で超可愛いじゃん」


「見えないところがブサイクなんだよっお前は」


「ひどっ! 女の子に言う科白じゃないよね、それ」


「俺は正直なんだよ」


「……ふーん。でさウチが九尾の姿晒したことに気付いて焦っちゃってあんたから逃げちゃったんだよね」


「そうだったな。日が暮れても帰って来なくてさ、皆心配して探したっけか。俺はお前のこと言えなくて黙ってたらさ。親父にボッコボコにされるほど怒られたんだぜ」


「うぅ、ご、めん……。でもウチを見付けてくれたのはあんただったんだよね。あの時、迷子になってたところをその土地の妖達に追われてさ。それを退治に来た退魔師に追われて、ウチまだ今よりずっと小さくて幼くて九尾の力制御全然出来なくてさ、もう食べられちゃう、殺されるちゃうって妖気完全に消して隠れて怯えてたんだ……寂しくて不安で泣いちゃったもん。……怖くて」


 美九音は抱えた膝にちっちゃな顔を埋めて伏せた。


 震えてる、のか? こいつが……。そうか、こいつも怖いんだな。


「俺が見付けた時、お前囲まれてて綺麗だった金色の毛は汚れてるし怪我までしてたっけ?」


 美九音は抱えた膝に顔を埋めたまま小さく頷いた。


 そう言えば三大妖怪とまで言われてる九尾のこいつは、あん時から既にプライドだけは今と変わらないくらい高かった。


 そんなこいつが震えて怯えてたんだっけな? そして今も。


「と、知泰が来てくれてほっとしたんだよ? ああ、これでウチ助かるんだって……」


「俺には誰かを助けるなんて出来ないし、ましてや妖や退魔師と遣り合える力なんて、俺にはそんな力はねぇよ……。お前を見付けてからのこと全然憶えてねぇし、気が付いたら親父におぶられてて、お前も人の姿に戻ってた」


「ウチは、ね。ちゃんと憶えてる、よ?」


 膝に埋もれた顔をふと上げて、小さく微笑むと膝にまた顔を埋める。


「へぇーそうなの? 初耳だわ。俺、なにかやらかしたの?」


古神道術神纏こしんどうじゅつかみまとい。七霧退魔瞳術四魂眼ななきりたいまどうじゅつしこんがん。一ノ荒神纏い“夜叉やしゃ”」


 美九音の声は小さくて、ましてや聞き慣れない単語を矢継ぎ早に並べられてたから、良く聞き取る事も理解を追いつかせることも出来なかった。


 To Be Continued

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