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狐の嫁入りっ ちょっと? 九尾な女の子  作者: 雛仲 まひる
第五章 ウチの名前は久遠寺 美九音。マジで! キュートな女の子
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マジで! キュートな女の子 6

おはようございます。

雛仲まひるです。


さてさて、大神達が美九音と知泰の為に開いた道。

その想いに応えるべく美九音奪還に向かう知泰。


しかし、その先には……。


はいどうぞ><


 入り口を潜り迷路の様に張り巡らされた通路を、迷いに迷いながらやっと抜ける。目の前に城の様な砦が現れた。


 さながらアンダーグラウンドって感じだな。まるで異世界へのトンネルを潜って来た心境だぜ。


 俺はこんな非日常なんて望んじゃいねぇーんだけどよ。仕方なくね? ここまで来ちまったし、なにより俺に美九音を託してくれた未美や紅葉、波音ちゃんや姫子先生、それに間崎や枢、犬飼姉妹も、あいつらは頼りない俺なんかを信じてここに送り込んでくれたんだ。もうやるっきゃねぇーよ。


 しかし城門の前まで来ると異様なまでの寒気がして足が震え出した。


 居る。ここにとてつもない化け物がここには居る。震える足を引きずりながら、城に続く門を潜ったところで一本の矢が足元を射った。


「知ちゃん、久しぶりだね」

 

 そして懐かしい声が俺の往く手を塞いだ。


「綾乃、新田 綾乃だな。三年ぶりか? この矢、お前まだ持ってたのか? 家の七霧道場で使ってた矢だよなこれ。お前って退魔術も習ってたんだっけ?」


「どうして来ちゃったの? 警告したのに「命惜しくば九尾の事は諦めろ」って私がこっそり伝えたのに」


「美九音を返して貰いに来たに決まっているだろ、そんなもん」


 そしてお前も救いに来たんだ。


「そ、そんなにみくちゃんがいいの? 知ちゃんは」


「なぁ綾乃? もう止めろ。こんな事してお前のなんになるてんだ? 人間のお前が鬼に魂売ってまで欲しい物が、そうまでしないと手に入らねぇー物でもあるのかよ?」


「うんそだね。欲しいものならあるよ。ずっとずっと欲しかったんだよね、知ちゃんが……」


「ちっ。……ならもうこんな事は止めろ時間が惜しい率直に言うぞ。お前の命が危ねぇー、それ以上鬼の力を使うな妖の力に頼るな、そんな事してもなにも変わらねぇーぞ。本当に欲しいのなら妖の力に、他人の力をあてにするんじゃねぇー。お前が欲しい物は自分以外の誰かに頼って手に入れられたとしてもそれは嘘だ。こんなやり方じゃ人の心は手に入らねぇーよ」


「知ちゃんはみくちゃんと同じ事言うんだね。みくちゃんなんか狐の化け物のくせにっ。みくちゃんは何時も私の欲しい物を、私が出来ない事を簡単に手に入れて、簡単にして手に入れちゃう」


 違う、それは違うぜ綾乃。あいつは……。


「憎い憎い憎いっ、何時も何時も何時も何時もっ! 知ちゃんの隣に居て知ちゃんを奪ってく、みくちゃんが憎い」


「綾乃? 美九音のなにを見てたんだよお前は。三人で一緒に居た頃によっ」


 お前にはなにも見えてなかったんかよ? あいつの事が……。


「みくちゃんなんて見てないよ。私が見てたのは知ちゃんだけだから」


「俺はお前も救いたいと思ってる。こんなことはもう止めろ綾乃。美九音もお前も纏めて連れ帰るためにここに来た。帰ろうぜ綾乃、美九音は何処だ」


「あそこ」


 綾乃が指差したのは砦から少し離れた場所だった。


 結界が晴れたのか、唯単に気付かなかっただけなのか、綾乃が指差した石切り場みたいに切り取られた石の壁に力なく頭を垂れた美九音が貼り付けられていた。


「綾乃? お前の術で美九音を弱らせたのか?」


「うん九尾の狐って大した事なかった。有名な大妖怪だからどれだけの力があるのかと興味あったんだけどなぁー、正直拍子抜けで詰まんなかった。でも大丈夫だよ。みくちゃん怪我はないし汚してもないから安心して、ギリギリまで妖力を絞り取って苛めて上げただけから」


「ったりめーだ。そんなことをしていたら、もし美九音を傷付けていたとしたら、俺はお前を許さなかったかも知んねぇ」


「そうなんだ? あはははっ。そんなに大事なんだ、みくちゃんが九尾の化け物が。……知ちゃんは人間なのにあやかしの方がいいんだね? 大事なんだね? だと思って私だって妖になったんだよ? 知ちゃん」


「……違げぇーよ。そんなんじゃねぇー」


 言えるかよこんな状況で馬鹿野郎……。


「ふ~ん。なん~だそうだったの。みくちゃんのことなんて大切じゃなかったんだね。聞いた? みくちゃん。知ちゃんはあんたの事なんかなんとも思ってないってさ」


「……とも、ひろ」


「美九音っ、今助けてやっからな」


 綾乃から顔を逸らし美九音が囚われている石切り場に向かって歩き出したところで、それを阻む様に一匹の鬼が俺と美九音の間に割り込んだ。


 体が急に強張った。こいつだ。あのとてつもない妖気の主はこいつだ。


「無駄だよ知ちゃん。知ちゃんがいくしま童子様に勝てるはずないもの」


「や、やってみるさ」


 そうは言っても体は強張り言う事を聞いてくれず、小刻みに震えている。


「とも、ひろ、……ともひ、ろ逃げてーーっ! こいつはそこいらの鬼とは違う。こいつは四天王――、ぅぐっ……」


「九尾よ、お前は喋るな」


「てんめぇーっっ! 美九音に触れんじゃねぇーっ」


「ようこそ。我が城へ七霧の血族よ」


「お前の目的は酒呑童子復活だろ? 残念だが俺にはその手助けを出来る力はねぇーよ。それに今の美九音は全盛期の九尾の狐じゃない。こいつは久遠寺 美九音っつー俺の、幼馴染のちょっと九尾な女の子、今はそれだけだ」


「と、もひろ……」


「ふん。酒呑童子復活など俺は最初から興味はない。俺の目的は貴様と九尾を喰らい、強大な妖力を得て世界の、いや天上の頂点に立つことだ」


「ともひろ……、こいつは酒呑童子の配下、四天王に成れなかった、いくしま童子っつー鬼。ともひ、ろ……逃げ…て、こいつは雑魚じゃないんだよ……」


「嫌だねっ」


 くそっ喰らえだ。


「お前の言う事は今から全て却下だ聞かねぇ」


「バ、カ……」


「いくしま童子様? 知ちゃんとみくちゃんは殺さないって仰って――」


「綾乃。そんな事は小さな事だ。お前に鬼の力を与えてやったのは俺様だ。酒呑童子の側近の俺が七霧と九尾を喰らえば酒呑童子はおろか、天界の守護法神の要、八部衆と八部衆の一人毘沙門天と共に北方を守護る眷属、鬼神の一人羅刹らをも超える。いや八部衆すら超えて俺が天に立つ、俺が神になる」


「ちっ。羅刹って仏教では鬼神じゃねぇーか。いくしま童子、お前が鬼神の力を得て、世界の頂点に立ったら、なにをしたいんだ?」


「恐怖による完全統治。世界の全てを我が物にする」


「……そうだったのですか? いくしま童子様」


「綾乃、お前にしてみればそんな事はどうでも良い事だろう。それに最早お前は後戻りは出来ぬ、それが嫌なら自ら命を絶てば良い。分かったら九尾を見張って居ろ、後で喰らう。七霧を呼び寄せる餌としてもう用は無い」


「能書きは、……言いたい事はそんだけか鬼っころ? どの道お前を倒さなきゃ美九音も綾乃も救えねぇー事に変わりねぇーんだからな。さっさと始めようぜ」


「人間風情が抜かしよるわ。虚勢も対外にしろ、震えておるぞ。まぁよいお前はいた振り、苦しみを与えてから喰ろうてやろう。固い男の肉の後は九尾よ、お前を喰ろうてやる。お前はたっぷり味わってやるぞ? 女子の悲鳴は最高の味付けだからの。綾乃、なにを呆けておるお前は九尾にさっさと着け」


「は、はい……」




 動け、動け動け動け、俺の体っ! 


 先手必勝。強張った体に言い聞かせ、いくしま童子に斬り掛った。


 が……。


「とも、ひろぉぉおおおっ」


 つ、強えぇ……。今の俺じゃ話にならねぇ、動きも力も別格だこいつ。


 なにが起きたかすら分らないまま紙切れの様に宙を舞っていた。


 なんの根拠もなくただ本能が警告して来る。こいつは強い危険だと。恐らく外であのデカイ鬼と戦ってくれている皆の力を合わせても勝てるかどうか分からねぇ。


 っつーか俺、早速格好悪る。ほんと冴えねぇよな俺って。


 痛みすら感じないまま吹き飛ばされ地面を転がった。


「うわぁぁあああっ! 知泰っ知泰っー。いくしま童子っあんたっ! 許さない許さないぃ。あやちーウチを解けっ、このままでは皆殺される」


「みくちゃん。……私は」


「あやちー! 知泰が死んだら、もし殺されたらウチはあんたも許さないっ」


 美九音、泣いているのか? 俺は、俺はまたお前を泣かせちまった……。


「ひ弱、ひ弱。七霧も所詮人間。術を使えねば……、えっ?」


 ボトッ。


 ☯ 朦朧とする視界と霧の掛った様にはっきりしない意識の中で、重々しい音が地面から聞こえた。


「とも、ひろ? あんたまさか……」


「俺の腕が、腕がぁぁ! 七霧貴様っ、☯ その眼、まさか目覚めよったのか」


「大炎魔七斬。何時まで眠っている本気を出せ。こいつを焼き尽くす」


「知泰っ力を使っちゃダメっ! それは、その力はっ。……その力は人間が使う力じゃないから、知泰が使えば人間の心を失っちゃう、人間じゃなくなっちゃう。だから力を使っちゃダメぇーっ。使わないで知泰っ。もういいもういいから、ウチの事はもういいからっ、ウチもう泣いたりしないからっ」


「却下だったろ? 俺は今怒ってる」


 美九音を浚った鬼一族にでも、いくしま童子でも綾乃にでもない。誰にでもねぇー俺自身に。


「知泰……分かった。知泰が止めてくれないならウチもあんたと一緒に、一緒のところに行ったげる。何時だってウチは知泰と一緒だよ。幼馴染みだもん。知泰ちょっと待っててね」


「みくちゃん? なにをするの?」


「ちっ。九尾の小娘まで……。綾乃、貴様はなにをしている九尾の小娘を殺せ。だが七霧貴様を喰らえばっ、或いは勝てるか、九尾に……」


 巨大な鬼の拳が振り下ろされた。


「……なにっ? 俺の拳を受け止めた、だと。片手で……」


「見せてやるよ、いくしま童子。お前に本物の鬼神って奴を。四魂眼、壱ノ荒神纏い“羅刹”」


 そう頭の中に聞こえる声を俺は復唱している。


「くっそここまでか。綾乃撤退だ、撤退する。お前は体を張って俺の後退を援護しろ」


「逃がさないわよ? いくしま童子。あんたは許さないったでしょ? 知泰に力を使わせたあんたをウチは許さないから」


「九尾の小娘、貴様っどうやって妖力を得た? 貴様の妖力の殆どは四か所の殺生石に封じられているはずじゃ……」


「ふん。そんなのこの場から四方三里に散らばっている殺生石の破片を集めただけ」


 美九音お前……、その尻尾の数は、そしてその姿は半妖形態だよな?


「知泰聞いて、力の扱いに慣れていない今のあんたがそれ以上、そのを力使えば、あんたは人間に戻れなくなる。そればかりか下手をすると自我を失くしちゃう。ウチも今の体のままで強大な九尾の力を使えばあんたと同じ事になるけど、ウチはちょっと違うの九尾の本性そのまま、絶望と恐怖、嘆き、忌み、悲しみ、怖れ、恨みを求めて破壊の限りを尽くす、今の、人間として生きてる心を失くして……。でもね知泰、ウチが我を失えばあんたがウチを止めてよね。あんたが我を失えばウチが止めたげるから」


「美九音」


 気が付けば美九音が傍に居た。姿は人型だけれども、美九音は金色の光を纏って九本の尾を揺れ動かしていた。


 そして近付いて俺を胸元に抱き寄せた。


「知泰、あんたは帰りなさい人間の生活に。後はウチがやるから。でも約束は果たしてよね? ウチはきっと知泰を忘れちゃうから……」


「美九音」


「ウチはね? ……知泰が、うんん。なんでもない」


 美九音が俺の頬に両手を添え顔を近付けてきた。そして……。


「美、美九音っ、なにを――ぅんぐっ……」


 美九音の小さな唇が俺の唇に触れた途端、力が抜けていく。まるで魂事吸い取られている様だ。


「美九音、おまーなぁっ! いきなりなにしやがるんだっ」


「……これで元の知泰だね」


 と美九音の顔が華やいだ。


「バッカお前っ、いきなりキキ、キスって、俺、初めてだったんだぞっ」


「ウチは二度目だよ」


「へぇ? なんだとっ。ち、ちなみに何処の……だ、誰とだよ」


「そんなの知泰に決まってんじゃん」


 えっマジで? お、覚えてねぇーっ! 嘘だろ嘘だろ? それって嘘だよな美九音。


「ほんとだよ? ねぇ知泰――さっき言った事は覚えてる」


「えっ? ああ覚えてるけど」


「あんたは生きて。ウチは何れまた復活出来るから殺生石がある限り。……でも知泰は違うでしょ人間なんだから、妖のウチとは違うもん」


 ならお前……なんで涙なんか流してんだよ。


「見ていてね知泰。ウチ、あいつをパチンってして来るね。倒して来るね」


 美九音は柔らかく微笑んで見せ背を向けた。


「美九音っ」


 美九音を追い駆けようとして地面に倒れ込む。


 痛てぇ、体が千切れてしまいそうだぜ。そうかボス鬼の野郎の一撃を喰らっちまったんだった。


 チクショウっ動けねぇ。俺は何時も何時もなんて情けねぇー男なんだよ。


 地面に這い付くばったまま美九音の背中を見ている事しか出来ないなんて、自分が悔しいぜ。


 To Be Continued


 次回、いよいよクライマックス。美九音がしれっと嫁入り宣言?


御拝読ありがとうございました。


いよいよ次回本編最終話となりました。

その後エピローグというか後日談を2話ほどUPとなります。


ここまで本作品を愛読くださった皆様のお陰で、頑張ることができました。


ありがとうございます。


本作品へのご意見、ご感想、評価などは随時お待ちしておりますよ^^

お気に入り登録もしていただけると嬉しいです。


ではでは。



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