マジで! キュートな女の子 5
こんばんは。
雛仲 まひるです。
美九音奪還にいよいよ知泰、鬼の本丸へと向かう!
そして様々な想いに包まれた誇り高き狼、犬神 紅葉ちゃん。笑顔の後に涙。
ではどうぞ。><
俺の意思に応じて大炎魔七斬が手元に姿を現わした。その黒い柄を手にして鬼の一団へと突っ込んだ。
通常の日本刀より倍近くもある黒き刃は鈍く光り、怪しく刀身から立ち上る黒い炎に包まれている。
大炎魔七斬。
冥界即ち地獄、根の国、黄泉の咎を焼く炎を纏った“妖殺し”の刃を振りかざした。
待ってろよ美九音、今助けに行ってやるからなっ。
七閃七斬。
黒き刀身に纏った咎の炎が奔り、大気と大地を切り裂く七筋の斬撃が鬼の一団を蹴散らす。
って……あれ? 出ねぇー!
「御主人様」
「なんだよ紅葉」
「格好悪い」
次々に湧いて出る鬼と戦い始めてから、どれくらいの時間を戦ったのか、どれくらいの鬼を倒したのか分からねぇ。
兎に角、始めより刀は重く圧し掛かってくるみてぇーだし、疲労からか何倍にも重さが増した様に感じて持ち上がらなねぇ。
倒したっても俺が倒したのは刃が触れた時に、まぐれで出た炎が鬼を包んだ2体程で、紅葉は右に左に、そして俺の背中を守りながら、かれこれ50体くらいは倒したんじゃねぇかな?
雑魚鬼程度、こいつにとっちゃ毛繕いするに容易い事なのかも知れん。ほんと頼もしい奴だよお前は、変態だけどな。
「御主人様、鬼の方も警戒しているみたい。出て来なくなった」
「そうだな。余り時間は掛けてらんねぇ。手間を掛け過ぎると美九音の身が心配になって来る。数を減らしておけることは、後々こっちには都合がいいけど、こっちが余り暴れ過ぎても警戒されて、あいつの居場所を移動されら兼ねぇし、どうしたもんかな」
さてといよいよ中に乗り込みますか、巣の中がどれくらいの広さかは分かんねぇけど、後ろから挟み討ちにされちゃかなわんから、入り口は塞いでおかねぇーとな。
「……?」
入り口を塞ぐために大火炎魔に炎を出してくれと願いつつ、入り口に向かっていると、紅葉が仕切りに耳をそばだて始めた。
「どうした紅葉」
「なにか来る。今までの雑魚とは違う巨大な妖気の気配が……、!? 御主人様っ逃げてっ」
「えっ?」
紅葉に突き飛ばされ俺は地面を無様に転げた。
紅葉も俺を突き飛ばした後、自ら跳ね飛び軽やかに宙を舞って避けた。
俺達が居た場所に視線を戻すと、そこから巨大な腕が地面を突き破って出ていた。その腕が這い上がろうと地面を掴んだ。
そして徐々に現れたのは身の丈程もある痛々しい禿げ散らかり方をした頭に生えた巨大な角と顔だった。
「こいつは一つ鬼。手強い」
一つ鬼が穴から這い出ると穿たれた穴から続々と赤青黄、大小様々な色の鬼が続々と這い上がって来る。
「なっ、……なんて数だよ」
事前情報で分ってはいた事だとしても俺は絶句した。
無理だ。これだけの数とあのデカイ鬼をふたりで相手にするなんて、いくら紅葉が強くてもあしらい切れるもんじゃねぇ。
「御主人様聞いて、私が入口までの道を作る。道が開いたら御主人様は御姉様のところに行ってあげて御姉様はきっと御主人様を待ってるから」
「紅葉、無理だ。いくらお前が強くても、あのデカイ鬼とこれだけの数の鬼を相手に戦えば無事じゃ済まねぇぞ」
「……そうね。でも、やるしかない全てを失っても」
「……紅葉、お前」
心配をよそに紅葉は微笑んでいた。
「御主人様。短い間でしたけど紅葉は御主人様と過ごした時間が楽しかった。あの時に御主人様が言った通りだった」
「お前……、なにをっ」
「最終形態に変化する。出来る事なら使いたくはなかった。失いたくないから御主人様と過ごした楽しい時間と幸せな気持ちを」
「なにだよっそれ! お前はなにも失わねぇーよっ」
「最終形態でいる時間が長くなれば長ければ長くなるほど、私は、私達は妖そのものになっていく。妖は人間として振舞うために妖そのものの本能を自我に頚木を掛けて封じている。だけど本能を押さ込んでいる意志の頚木を解けば、本来私達が持っている妖の本能に徐々に支配されて、やがて人間として過ごした日々を忘れ去ってしまう」
「なっ……嘘だろ?」
「ほんと。人間界に生き、馴染もうとする妖達は皆、妖の本能を眠らせ擬態している。最終形態は眠らせてある妖の本性を解放し目覚めさせるから、本来持っている妖としての自我に目覚めてしまう」
なんでそんなっ。……神様はやっぱあんたは残酷だぜ。
美九音や未美、そして紅葉も……。こいつらは人間の振りをしてる時は、なんら普通の女の子じゃねぇかっ。
こいつは、紅葉は変わっているけど人間と同じで一人は寂しくて、でも我慢してて、そして堪え切れなくて泣いたりもするんだぞっ。
なんだよっそれ、なんでこいつの、こいつらの楽しい記憶を奪っちまう様になんてなってんだよっ。
「御主人様ありがとう。御主人様に出会えた紅葉は幸せでした。御姉様には気を付けて上げて御姉様は私達とは違う。その妖力も此度の転生で人間として生きた事情も、人間として得た物もきっと私達なんかより、ずっとずっと大きくて大切にしていると思うから。御姉様の強大な九尾の妖力はきっと半妖形態を長く続けても、御姉様の妖としての本性を呼び覚ましてしまう。御主人様が御姉様を助けてあげて、そして守ってあげて欲しい」
「紅葉……」
「御主人様? 紅葉は御主人様が大好きです。これからもきっと……。では行って参ります御主人様。道は紅葉が開きます」
そう言って紅葉はやわらかい笑顔を浮かべて見せてくれた後、直ぐに真一文字に唇を結んだ。
無数の鬼達が連携めいた動きを取り出し、一つ鬼を中心に扇状に展開して徐々に囲んで来ている。
「犬神が一、大神 紅葉。御主人様への忠義と恩義、御姉様への敬愛と親愛をここに示す。誇り高き狼の血に賭けて。いざ参る、最終形――」
「紅葉ちゃんっ。待ってっ」
「紅葉ちゃんっ。待ってっ」
女の子の声が綺麗にハモリって木霊した。
「お前らは……」
「犬神が一、犬飼 楓。同属の、いえ友達の大神 紅葉を助太刀に参った」
「同じく、犬飼 柊。仲間の、いえ家族の大神 紅葉を助太刀に参った」
お揃いの着物に薙刀を手に現れた犬飼姉妹が紅葉の前に躍り出た。
「……楓、柊。何故あなた達がここに来ているの? まさかあなた達もこの戦いに加わるつもり? この戦いに大神一族が関係を持つと言うの? ふたりが今、ここで戦えば一族が立てた計画に支障を来たす恐れがある」
紅葉が火絶銀狼丸を振りかざし、俺の前に立つた鬼を斬り払う。
「紅葉ちゃん? 黙って居なくならないでよ。柊ちゃんなんて紅葉ちゃんが居なくなってから、ご飯食べられなくなっちゃったんだよ」
犬飼 楓が紅葉の右側に着き薙刀を振るって鬼を切り倒した。
「心配したんだからね紅葉ちゃんが居なくなってから、楓ちゃんなんて毎晩泣いてたんだよ」
犬飼 柊が左側に着き紅葉に襲い掛かる鬼を蹴散らした。
「一人より三人、でしょ? 紅葉ちゃん」
「一人より三人、だよね? 紅葉ちゃん」
犬飼姉妹と大神の息が合った連係攻撃が鬼の群れの中に道を開いていく。
「……私は犬神一族を――」
「ぼやっとするな紅葉っ」
紅葉の死角に入った鬼を斬り付ける。俺だってこんくらいはするさ。
「御主人様、ありがと……」
「良かったじゃねぇーか。紅葉」
紅葉。お前は独りじゃなかったんだぜ? これからはもうお前を絶対に孤独にはしねぇーよ。
「七霧 知泰行きなさい。ここは私達犬神一族が引き受ける」
「七霧 知泰行きなさい。ここは私達犬神一族が道を開いく」
だが、流石の犬神でも、斬っても斬っても迫って来る鬼の波に押し戻される。
「でもそんな事したら、あなた達は長老集の咎を受ける。くっ……数が多いっ」
「そかもね。でも七霧 知泰と久遠寺 美九音(九尾の狐)を失えば本末転倒よね。柊ちゃん? ……っ。なんのこれしきっ雑魚鬼如きが犬神に勝てると思うのっ」
「それに犬神一族の紅葉ちゃんを一人で戦わせるなんて出来ないよね、楓ちゃん? おのれっ! しつこい鬼どもめ、大人しく道を開けなさいっ」
「紅葉ちゃん、犬神一族に戻ろ、ね?」
「紅葉ちゃん、皆のところに、あなたの家族のところに帰ろ?」
「ありがとう楓、柊……。でも私は、私は……御主人様のところに居たい。だからもう一族には戻らない」
俺の周りを囲む様に紅葉、犬飼姉妹がガードしてくれた。
駄目だ。それでも入口まで辿り着けねぇー。
「心底、心を許せる人を見付けたんだね。紅葉ちゃん」
「本当に信頼の出来る人を見付けたんだね。紅葉ちゃん」
「良かったね」
「良かったね」
「……うん」
背中合わせ互いの背中を預けての戦い。
「泣くのは後だよ紅葉ちゃん さあ行くよ」
「さあいこ、紅葉ちゃん。泣くのはあとあと」
「うん。私達、犬神一族で必ず道を開く」
「ちょっと待った! 三人より四人だよねぇ? 知~くん♡」
軽やかに身軽な身体で宙を舞って現れたのは……。
未美、お前も来てくれたのか。
「あったり前じゃん。そんなの知くんのためだもん。さあ来なさい鬼どもあたしの愛刀は二対一刀。鬼切丸と蜘蛛切丸で刻んであげる。実はこの刀、元は狐の物を猫ババした物なんだけどね」
左右に持った二本の小太刀が白銀の弧を描く。
「四人よりも五人ですよ、ね? 知泰さん」
この水気の無い場所に数本の水柱が立ち、鬼の頭上に襲い掛かって押し潰した。
これはきっと……波音ちゃん。
「七霧。お前は勝手な事ばかりしてくれるな? お陰で我々が練っていた戦略と戦術が台無しだ。後で罰を与えるから覚悟しておけ」
数体の鬼を戒め自由を奪った白い糸は……顔まで全身タイツの姫子先生。でも罰は勘弁。
「知泰さん。久遠寺さんをお願いします」
「お前の幼馴染を、私達の生徒を助け出して来い」
「狐とは喧嘩ばかりしてるけどさ……。あたしの喧嘩友達をお願い、知くん」
「私達の仲間を救って下さい。七霧 知泰」
「私達の友達を救って下さい。七霧 知泰」
「七霧君。 僕達も加わらせて貰うよ」
先日まで俺が戦っていた見覚えのある式神は……間崎お前までって僕達?
「ひと~つ人世に蔓延る浮世の鬼よ。ふた~つ不埒な悪行三昧。み~っつ三日月に代わって退治てくれよ~宇敷 枢。ロリっ子妖怪、座敷童参上よっ!」キラッ(o^-')ゞ☆
俺目掛けて振り降ろされた棍棒が見えない壁に阻まれ動きを止めた。賺さず、大火炎魔で切り倒す。
「もやしっこだけど後方援護は任せてですよ知泰お兄~ちゃん。九尾のお姉ちゃん、美九お姉ちゃんを助けてあげてね、絶対だよ」
「私の大好きな御姉様を、御主人様の大切な御姉様を救って来て」
お前ら……。
「御姉様までの道がまもなく開きます御主人様。さあ行って」
「「「「「「「「七霧 知泰っ! 行けっ」」」」」」」」
「応うよっ!」
皆ありがとな。
本丸に続く入口まで、一筋の道が開いた。
To Be Continued
御拝読ありがとうございました。
次回もお楽しみにっ!><b
本作品をご愛読下さっている皆様、いつも貴重な時間を当てての御拝読ありがとうございます。
また本作品へのご意見、ご感想、評価、お気に入りしてくださった皆様。
大変励みになっておりますよ。^^